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第3話 推理少女の深層心理

「そろそろ納得出来た?」

「…正直なことを言うんだったらまだ納得出来ない部分の方が多い」

この世界に《危機》が訪れてるなんて知らなかったのだし当然と言えば当然だ。

とはいえ、訪れていることは推理の話からすれば紛れもない事実なのだ。

防ぐことは出来ても無くすのは無理だと、そればかりはどうしようも出来ないことだと。

推理はそう言っていた。《危機》なのに無くすのは無理だなんて皮肉な話だ。

「…有栖。明日…久々に事務所に行ってみようと思ってるんだけど」

「今後の活動の上で改めて水野様への説明も必要なことですし賛成しますよ」

そう2人が話し合う横で俺は受け取ったファイルの資料を読むことにした。

「(…7日前に市内で殺人未遂。その4日前に襲撃…。襲撃って何なんだ?)」

そんな疑問を浮かべながら読み進めていると不思議な語句を見付けた。

「(この《RUA》って何なんだ?)」

何度も出てくる割には知らない単語だ。何かの暗号…?それともコードネーム…?

「なぁ、推理…。この単語ってどういう意味なんだ?」

「それは_。明日、説明するよ。私たちにとってもそれは大事なことだからね」

そうかと俺は呟くとそれ以上、言及することはしなかった。いや、出来なかった。

何故かと聞かれたら_。それは…推理の表情が苦しそうに見えたから、それだけだ。

「水野様は既に夕飯を食べていらっしゃいますか?」

ふと有栖さんに言われて俺は顔を上げた。

「まだ、食べてないですね…学校が終わって推理と直接来たので」

「今から夕飯しますけど…水野様も要りますか?」

「わざわざありがとうございます、有栖さん。お願いします」

有栖さんの厚意に有難く思いながら…小さく溜息を吐いた。


「(…今日は本当に疲れたな)」

あの後、推理と喋ることもなく部屋に戻って来た俺は急な脱力感に襲われていた。

ベッドに倒れ込み目を閉じると情報を改めて整理することに決めた。

この世界には俺たちの知らない隠された事件、そして《真実》があると言うこと。

そして、推理やその仲間?は《危機》と呼ばれるモノを未然に防いでいること。

その事実を知らずに生きている人がこの世界中に大多数居ること。

噛み砕いたとしての主な観点を挙げるならこの3点になるだろうか?

「(本当に、とんでもないことになったな…)」

唯、探偵小説に没頭しただけでこんなことになるなんて誰が想像出来る?

「(推理に説明された今でも半信半疑なのだから想像なんて出来るはずもない)」

だが…事実を突き付けられ、認めることしか許されないのもまた事実なのだ。


「おはよう、弘乙」

朝。俺がそろそろ起きない時刻だと思いつつ眠気の負けているとそう声が掛かった。

「…あぁ、何だ。推理じゃん、おはよ…って何で居るんだよ!」

「随分と朝から元気だね。私はまだ眠いのに」

普通に答えてしまったが何故…彼女…推理、そう推理が此処に居るのか?

「俺、お前に鍵を渡した覚えがないんだが?」

「簡単なことだよ、ベランダから来たんだ。窓、開けてたでしょ?」

そういえば…風通しを良くする為に開けていた気がする。いや、問題は其処じゃない。

「何で普通に不法侵入してるんだよ、普通に訴えたら勝てる案件だぞ」

「君は馬鹿だね。私は防犯してあげたんだよ」

不審者が来てたらどうするつもりだったの?と呆れた表情を浮かべている。お

「前も同罪なんだけど。後、折角の休みなのに何で朝から来てるんだよ?」

「昨日、説明したでしょ?今日は事務所に行くって」

「事務所…?それは隣のお前の部屋だろ?」

「うん、私の部屋は探偵の事務所」

「探偵として…?じゃあ、別な役職だったってこ_」

「それは、事務所で話をしよう。今、この場で話すことじゃないしね」

そうはぐらかすと彼女は俺に向かってダイブしてきた…物理的に。

その後、そんな愚行を許す訳もなくちゃんと制裁したのは言うまでもない。


「え、此処なの?」

「そうだよ。やっぱり意外だった?こういった場所にあるることについては」

目の前に大きな建物があるのだが…この建物こそ推理の言う事務所らしい。

俺からすれば意外なことだった。何しろ繁華街より徒歩3分の距離にある。

事務所拠点と言えば繁華街より少し離れた場所にあるのが印象的だ。だが…。

「意外とこういった場所にある方がカモフラージュになって便利なんだよ」

そうなのか。と口には出しつつも何処か自分が緊張していることに気が付いた。

「弘乙、そんなに肩に力を入れなくても大丈夫だからね?」

そう推理に言われて俺は軽く深呼吸をする。そうして建物内へと入り…。

「久し振りだね、刃さん」

内階段を上り3階へ到達したところで刃さんと呼ばれた男性と遭遇した。

「…久々に姿を見せたと思ったら彼氏の紹介か」

…違うからね?そんな表情を向けてくる推理に対して思わず苦笑してしまう。

「…どうやら、2人のその様子を見るに本当に彼氏じゃなさそうだな」

「そうですね。俺は推理の助手をやらされてる、水野弘乙です」

「助手…そういえば探偵をやるって言ってたな。今も続けてるのか?意外だな」

「勿論。じゃなきゃ此処まで来てまで情報提供を呼び掛けないでしょ?」

「それもそうだな。因みに彼にはちゃんと説明しているのか?」

「取り敢えずはね。まぁでも、改めてこっちでもしようとは思ってた」

そうか…。そういうと男性は黙ってしまった…マズイことでもあるのだろうか?

「あ、そういえば紹介してなかったね。彼は工藤刃さん。私の元上司だよ」

部屋の中へと入る途中で推理が小さく教えてくれた。

「何だ、紹介もしていなかったのか?…改めてだが俺は工藤刃。敬語は要らん」

刃と呼べ。そうぶっきらぼうに答え顎で釈ると席を立ち奥の方に声を掛けた。

「俺から説明することはないから宮乃と話でもしておけ。俺は仕事に戻るからな」

そういうと奥へ消えてしまった。入れ違いで入って来たのは…。

「随分と元気そうだな。お前も水野くんも、と言っても昨日振りではあるが」

それは…同じ学校の生徒なら誰もが知る宮乃先輩だった。

宮乃瑛都。成績優秀もさる事ながら陸上の大会で全国の連覇を狙う正に文武両道。

学校こそ同じだが対照的過ぎて縁もないと思っていたのにこんな形で会うなんて_。

「その顔を見るに驚いているようだな。まぁ、意外だったか?」

「先輩も…知ってたんですか?」

「ん?あぁ、知ってる。其処の推理と同じ…正確には此奴より少し前の時期にな」

意外な人も実はだった。というのは展開であるがこうなるとは…。

「まぁな。でも、口外したことはないさ。というか推理は話さなかったのか?」

「まぁ、私が話すより本人に話して貰う方が信じやすいし効率的でしょ?」

「なら少し話すか?霧切は…そうだな。刃さんの仕事でも手伝っとけ」

「え、何で?え、私だけそういう不遇な立場で居ろって?」

「俺は弘乙とサシで話したいし。それ推理は俺との賭けで負けたの覚えてるだろ?」

「あれは、今度奢るって言ったじゃん…」

「奢るのを無効にしてあげるから。それで勘弁した方がお前も楽だろ?」

「…しょうがないなぁ」

そうして先輩は推理が奥へ消えたのを確認すると俺を外へと連れ出した。


「そうだ。話の前に連絡先を交換しておこう。その方が俺としてもやりやすい」

俺がを宮乃先輩と連絡先を交換し終えると先輩が本題を出してきた。

「それで…推理から色々聞いたようだが今はどんな心境なんだ?」

近くの喫茶店に入るや否やそう先輩に尋ねられた。

「正直…何て表現したら良いのか分からなくて…」

「それはそうだよな。俺だって最初に知った時は信じられなかったさ」

そう言うと隣で先輩がアイスラテを注文したので俺も同じ物を頼んだ。

「でも、この仕事をしている内にこっちが《真実》だって気付かされた」

「…先輩は嫌じゃなかったんですか?現実が…崩れて行くのは」

「嫌だったさ…でも、崩れていくって表現は少し違うと思うんだ」

「…どういうことですか?」

「俺が崩れようが他の奴らの現実まで崩れる訳じゃない。それに…」

「それに…?」

「自分が皆の知らないところで動いてるって思ったらカッコイイだろ?」

「…先輩って結構、怖いもの知らずなんですね」

「馬鹿言え。続ける以上は何時死んでもおかしくないし…今も考えたら怖い」

でも、同士が増える方がもっと怖いんだ。ラテを飲みながら先輩はそう答えた。

「俺は役に立てるんですか?先輩のように考えれないですよ?」

「少なくとも素質はあるさ。何たって、霧切に指名されたんだからな」

彼奴は才能があるからな。そういうと彼は思い出したように尋ねて来た。

「因みになんだが…何か俺に聞きたいことはあるか?」

「知ってるかどうかは分かりませんが…ある組織についてなら」

「…組織?」


 ♦︎


ー某時刻。フランス内、某所で残された活動記録。

「随分と気前の良い格好じゃない。わざわざどうしたの?AME」

「…貴方とは喋る気はない。あっちに行ってて欲しい」

「貴方って相変わらず、辛辣よねぇ。もっと優しくすればどう?」

椅子へと座り直した女は頬杖をしながら皮肉を述べている。

「それは君の態度の問題でもあるだろう?KiEL」

と其処に部屋へ入ってきた男がさっきの女へ注意をした。

「そうやってすぐ主導権を握るのは止めるべきだと思うわ。CiLiA」

「…飛び火するとは強情な奴だ。加えて此処の主導権が俺なのは事実だ。違うか?」

男は目の前で飄々とする女を睨んでいるも何処か諦めの表情を浮かべている。

「イヤねぇ…?私は別に責任を問おうとしてるだけなのよ?」

「その責任追求に問題を感じた俺が助言をしてるのだが…分からないのか?」

「助言って_先日は未然に防がれた癖に何を言ってるのよ?」

「あぁ、見事にお前の所為でな。お陰で殺れたのは3人。無様な最低保証さ」

男はそう吐き捨てると女と1つ席を空けて座った。

「そろそろくだらないお喋りは止めたらどう?CiLiA」

「えぇ、そうね。…貴方のその傲慢さだけは認めてあげようかしら?」


 ♦︎


「…犯罪組織ってことですか?」

「あぁ。唯、その名を知る者のは殆ど居ない。居るとして同業者…ってトコだ」

「…その《RUA》を表で探すってのは」

「無理だ。そんなこと出来てたら既にやってるし組織もとっくに壊滅してる」

「先輩は…その組織会ったことはあるんですか?」

「昔…それこそ2、3年前。…の件で会った時にな。骨を5本やられたよ」

「その…そんな_ヤバイんですね」

「あぁ、ヤバイ。1人相手に部隊は壊滅、生存者は俺を含めて2人」

それはそれは悲惨だった。と先輩は苦笑していたがやがてその後の話もしてくれた。

宮乃先輩たちの所属する「SoLid」は《RUA》の壊滅を目的とした組織の1つであり

最初は推理も所属していたが事情で離脱し表向きの探偵として独立したこと。

など他にも自分の知らないところで沢山の出来事があったことを知った。

「…時間を浪費し過ぎたな。そろそろ事務所に戻らないとな。霧切も怒るだろうし」

「そうですね_あ、ちょっと残ってるんで飲ましてください」

そうして喫茶店を出て事務所へと戻ったのだが…。

「随分と話し込んでたようだね。刃さんが全く相手してくれなくてね?

それはそれは暇だったんだ。と紅茶を啜りながら不満を述べる推理が出迎えてくれた。

「その様子を見るに…少しは楽しめたようだな」

「折角、紅茶を飲んで気分を落ち着かせてたのに瑛都の所為で台無しなんだけど」

んな馬鹿な、と嘯く宮乃先輩を横目に推理は俺の手を取った。

「じゃあ、そろそろ帰るから。刃ちゃんも禁煙続けてね」

「…考えとく。会う時にはちゃんと成果を挙げて戻って来るんだな」

「禁煙しなきゃ駄目なのは事実ですね」

と推理と宮乃先輩に言い返された刃さんは苦い顔をすると奥へ引っ込んでしまった。

そうして推理に連れられて去とうとした時、俺は先輩に呼び止められた。

「なぁ、弘乙。少し質問するけど、大丈夫だよな?」

「え?ま、まぁ…。答えれるも範囲でのものなら大丈夫ですけど…」

「…じゃあ聞くが、助手として探偵の為に出来ることは何だと思う?」

それを聞いた瞬間、俺は固まった。理由は明白で予期してたものと違ったからだ。

「(このでの探偵の為に出来ること…って何なんだ?)」

宮乃先輩の質問内容は「組織」としての意味だ。だとしても…。

「探偵の補佐になること、だと思いますけど_」

「…その通りだ。でも、それよりも大事なことがあるんだ。教えてやる」

それは、探偵として霧切の考えを尊重することだ。そう先輩は言った。

「尊重ってことは…推理の意見などを参考にするって解釈ですよね?」

「あぁ。でもな時は自分を優先するんだぞ?」

「特別な時?って先輩!」

聞こうと思ったのに先輩は建物へと戻ってしまった。

「(特別な時ってどういう意味だ?)」

敢えて曖昧にしたのは判明する日が来るという意味、なのだろうか?


「…やっと行ったな」

2人を見送ると俺は懐に入ってある手帳を取り出した。

其処には組織の基本条項が載っていて組織に関わる者はまず持っている物だ。

「(霧切も言ってないようだったし言わないで問題ないん、だよな…?)」

其処は探偵として弘乙を雇った彼奴の判断に任せることにしたのだが。

「でも、弘乙には話しておくべきだろ…。推理」

その関係を保ちたいのなら、その関係であり続けたいのなら話すべきモノ。


「七:組織に関係する情報はな事情のない限り第三者公開を禁止とする」


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