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二十七章 「僕が、君を守る」

「華菜は、今まで誰にも頼らず、一人で自分自身を守ってきて本当にすごいよ。人は強くないから、なかなかできることではないよ」

 僕は、彼女を褒めた。

 褒められたり認められると心が温かくなるから。

 彼女がこれまで自分自身を褒めてこなかった。その分を今日から僕がたくさん褒めようと思った。

「まあ無自覚なんだけど」

 彼女は、乾いた笑顔を浮かべた。

 僕はその表情さえも変えたくて、さらに言葉を紡ぐ。

「そんなことは関係ないよ。これまで生きていてくれてありがとう。華菜がどこかで人生を諦めていたら、僕は華菜に出会うことすらできなかったんだから」

「私に出会えて本当によかった?? 私は悠希に大したことできていないし、迷惑ばかりかけてきた気がするけど」

 彼女も僕と同じで、自分に自信がないと今ではよくわかる。

 彼女は神秘的だけど、僕とよく似ているから。

「僕は、華菜に出会えて幸せだよ。それは誰に何を言われても、覆らないことだよ。華菜のおかげで様々な考え方も知れた。華菜に出会わなければ、今の僕はいない」

 彼女は、僕の言葉に耳を傾けている。

「そして、これからは僕も華菜を守るよ。華菜はもう一人ぼっちじゃないよ」

「悠希も守ってくれるかあ」

 彼女は僕の言葉を受け入れるかのように、ゆっくり繰り返していた。

「まずは、前に少し話した話だけど。僕が華菜の安心できる場所になるよ。前にそのことを言った時、どうなるかまでは話していなかったよね?」

「そうね」

 彼女の表情が少しだけ柔らかくなった。

「僕には、いつでもなんでも辛いことを言っていいよ。ただ僕がそばにいるだけじゃない。僕は華菜の全てを受け止めるから。何があっても裏切らないし、僕だけは華菜の味方だよ。それだけじゃ華菜も申し訳なくだろうから、僕もこれからも華菜には隠し事はせずになんでも話すようにする」

「お互いに心のうちを見せ合うのね」

「そうそう。あと華菜は『自分自身を嫌い』と言ってたよね? それなら僕がそれ以上に華菜を好きになる。暗い感情さえも、僕がそばにいることで変えてみせるから」

 僕はそのまま話を続ける。

「次に、前に華菜が言っていた『親の世話』について詳しく教えてほしい。具体的にどんなことをしているの?」

 僕は今までそのことに触れてはいけない気がしていた。聞き方によっては相手を傷つけるかもしれないから。でも、それは言い訳だとわかった。僕が何かを恐れていたら、彼女は安心できないだろう。

 僕は、彼女のためになるならもう恐れない。

「えっ、お母さんのこと? 認知症になっていて、自分で身の回りのことができなくなってきているから、私が代わりにご飯を用意したりしてるよ」

「なるほど。病気を患ってるなら、華菜一人で支える必要はないよ。自分は何もせずお母さんの世話をしなくていいと言っているわけじゃない。国や地方も支援制度があるから、それを使おう。僕と一緒に近々市役所に話しに行かない?」

 まだ若い彼女には、すごく大変だっただろうと僕は今までそのことを聞かなかったことをすごく後悔した。

 でも時間は巻き戻せないから、今からその分を挽回しようと思った。

「うっ、うん」

「あと、華菜も華菜のお母さんも何も悪くないけど、今は二人の距離感が近くなりすぎてる気がする。二人きりだと、どうしても相手の感情に引き込まれやすいと思う。しかも、二人の関係性は良好とは言えない。華菜は、暗い感情から抜け出せない時も多かっただろうし、それをずっとうまく解消できていないと思う。お母さんと物理的に距離を置いてみるのはどうかな?」

「それはどんな風に?」

「僕と同棲しない? 『お母さんと会うな』と言ってるわけじゃないよ。僕の家は華菜の家からそんなに遠くないし、会いに行こうと思えばすぐに行ける。まずは、華菜のメンタル面を整えることが必要だと僕は思っている」

「まさか私のために同棲しようと言ってくれてるの?」

 彼女はかなり驚いている。

 僕も前に「同棲しない?」と言った時とは、かなり心境の変化があったなと驚いている。

「そうだよ。あっ、もちろん、市役所などに行き、お母さんの支援方法が決まった後だよ」

「そこまで考えてくれているのね。うん、悠希に頼ってみようかな」

「そう言ってくれてよかった。最後に元カレとの今の関係性を教えてほしい。なんとか別れられたことは前に聞いたけど、今でも連絡が来ることはある?」

 DVをしていた男だし、しつこくつきまとっている可能性があると僕は思ったのだ。

 そんな状態だと、彼女はいつまでも心を休めることができない。

 彼女が何の心配もなくなって、やっと彼女を救えたと言える。中途半端じゃ、誰も救うことはできない。

「さすがに会いにきたりはしないけど、今でもたまに電話がかかってくる。その時は、私は何もしていないのにひどい言葉を延々と言われる」

 彼女は震えていた。

 僕は彼女の手をそっと握った。

「スマホ少し貸してくれる?」

「あっ、うん。いいよ」

 そう言いながら、僕は元カレの名前を聞いた。


「もしもし。あなた、華菜の元カレだよね? 僕は華菜の今の彼氏だ。あなたのことは許せない。今から警察にあなたが今まで華菜にしてきたこと全てを話しにいく。本当はそれぐらいじゃあ気が治らないけど、僕はあなたと同じ『クソ野郎』じゃないから、やり返しに行かない。でも、もし、今後華菜に連絡してきたらその時は容赦はしない。そのことを忘れないように頭に入れておくようにね」

 電話を切り、彼女にスマホを返した。

 彼女は涙を流しながら、「ありがとう。私を苦しみから救い出してくれて本当にありがとう」と何度も言っていた。

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