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二十一章 「僕が君を救いたい理由」

「まずは、僕の覚悟を伝えるね」

 彼女を救いたい理由を言う前に、僕の覚悟を先に伝えた方が納得してもらえるか思ったからだ。

 彼女は、小さく頷いてくれた。

 今僕の胸は、恋のドキドキとは違う意味で音を激しく鳴らしている。

「僕の覚悟は、どんな否定も弱い自分も完全に覆すまで決して諦めないことだよ。この思いは、決して中途半端な思いじゃない。僕は、何があっても折れないよ」

「えっ!?」

「今、そして未来を生きていく上で華菜を失う以上に辛いことは、僕にはない。やっとそのことを堂々と伝えられるようになった。華菜が辛い顔をしてると、僕も心が痛くなった。最初はなんでかわからなかった。人が悲しんでる顔を見るのが好きな人はなかなかいないだろうけど、この気持ちは、同情とかとは少し違った。それがやっと何かわかった。本気で思うからこそ相手の苦しみは、自分の苦しみでもあるんだね。僕も一緒に苦しませてほしい。そして、二人で前を向くための行動をしようよ。その苦しみに押しつぶされないだけの『愛』が僕にはある。華菜を守りたい。僕が笑顔にしたいと思うよ」

 彼女はまだ驚いていたから、僕は少し戯けた。

「僕って意外と根性があることを知ってた? 周りの人がなんと言おうと、華菜すらも『無理だよ』と言おうと、そんなの気にしない。障害の話もしてたけど、僕たちの間に乗り越えられない障害なんてないと僕は思ってる。だって僕たちには、確かな『信頼』があると思っているから。これまで一緒に過ごした月日がある。『障害』って、確かに大変なものもあるよ。でも、自分たちで『障害』と呼び、諦めているものもあるんじゃないかな。そして、どんな大きな障害も少しは抵抗できる気がする。さっき華菜が言ってたものに強いて名前をつけるなら、道に落ちているただの『石ころ』だよ。そんな小さなものは気にもならない。僕が、簡単に払い退けて覆すよ」

 僕は、この時間が二人の関係をさらに深められることを祈りながら話す。

「それに、僕にダメな部分があってそのために華菜を救えないのなら、何がなんでもそんな自分を変えるよ。華菜のために自分を変えることを嫌だとは思わない。全然大変でもじゃない。そんな大変さより、華菜の幸せを僕自身が奪うことの方がずっと苦しい。そのためなら、僕はいくらでも強くなるよ」

「悠希、そこまで考えていてくれたのね」 

 彼女の表情が、少し柔らかくなった気がした。

「うん。それは華菜が僕のことを思ってくれているのがすごくわかったからだよ。そして、今から僕が華菜を救いたいと思う理由を話すね」

「正直初めは華菜の涙を見て、どうしたのだろうかと心配になった。でもそこまで深刻にとらえてなかった。仕事や私生活で嫌なことがあったのかなぐらいしか思ってなかった。でもなんだか気になってその日から毎日そのことを考えている自分がいた。それから、華菜と子どもの頃の思い出話をお互いにしたよね。その時、すごく後悔したんだ。僕は今まで華菜に全然寄り添えてなかったと気づいたから。もしできるなら、過去に戻りたいとまで思ったぐらいだよ。話していくうちに、自分のダメな部分もよくわかった。付き合いは長いのに、華菜の辛いこと一つも僕はわかってなかった。むしろ僕は今まで華菜の何を見てきたのだろう思った。本当に表面の見える華菜しか見てなかった。たとえ話題にあがらなくても、僕が聞くことはいくらでもできたはずだから。実際、華菜は僕のことを僕よりも知っている。僕のことを知ろうと努力してくれていた。それすらも僕は気づけてなかった。そして、考えて考えてやっとなぜ華菜は僕に不安なことを話さないかわかったんだ。それは、僕のメンタルが強くないことを華菜は知っていて、華菜が僕のことを気遣ってくれていたからだったんだね? 華菜の優しさからだったんだよね。もちろん、僕が考えた理由だけじゃないと思うよ。でも、僕はいつの間にか華菜に守られていた。別に女性が男性を支えること自体は、おかしいことじゃないと僕は思ってるよ。でも、僕たちの関係は、華菜がただひたすら思ってくれているだけだった。僕は華菜のために何もしていないようなものだった。その関係性はおかしい。それを理解したから、華菜を『救いたい』と思ったんだよ」

 緊張で口の中が乾いてきたけど、僕はまだ救いたいと思った理由を話せていないから、話すことを止めることはできない。

「華菜を救いたい理由は、『未来』を変えたいと思ったからだよ。今と同じような関係で華菜の辛いことや問題に僕が目を向けず、付き合いを続けられるかもしれない。でも、僕はそんな未来を華菜に迎えてほしくない。華菜が一人で抱え込まず、または気になったら僕に気軽に話せる関係性ができた未来に今から変えたい。好きだの愛してるなんていくらでも簡単に言える。でもそこに本当に思いと覚悟はこもってる? そんな言葉を口にするだけで、相手は幸せだと感じない。誰かを幸せにすることなんてできない」

 彼女は不思議な顔をした。どうして今そんな顔をするんだろう。僕のどの言葉に彼女は引っかかったのだろう。僕は気になったけど、まずは最後まで話そうと思った。

「華菜の言う通り、人は様々な考え方をもっている。僕と華菜も、同じ考え方をもっていないかもしれない。でも、どこかには同じ部分もあると思う。完全に違う考え方の人はいないよ。また、違う部分を持った人同士がうまくいかないと言うのは簡単かもしれない。それを知ることも、受け入れることも、時間と労力がかかることだから。多くの人はそれをすることを『めんどくさい』と思い、向き合わないよね。でも、僕は、人と人は必ずわかり合うことができると思っている。そして、僕は華菜とわかり合いたい。違う考え方を持っていても、相手のことを本当に思っていれば、譲歩したりすり合わせることはできると僕は思ってる。たとえ自分が体験すらしていないことでも、理解を示しそばにいて支えることもできる。僕はどんな華菜も否定しないから」

 彼女は僕の言葉を聞いてうつむいたので、今どんな表情をしているかわからなかった。

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