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第15話ー凛とした強さー

久々に会ったっていうのに、慶一は全然嬉しく無さそうだった。面倒臭そうに私を見下ろす慶一にイラっとした。昔気質なとこは変わってない。付き合い始めた頃は大工の仕事が辛そうだったのに。文句言いながらも続けているのが不思議だった。悪ガキで喧嘩っ早くて、喧嘩が強い。なのに筋が通っていて、曲がった事が嫌い。そんな慶一はすごくモテた。本人にはその自覚は無かったけど。だから強引に体の関係を持って、付き合い始めた。私から押しまくって付き合ったのだ。義理堅い慶一は体の関係を持ったというだけで、ちゃんと付き合ってくれた。


それでも大工の仕事に忙しくて、なかなか遊べなかった。慶一の女という肩書はすごく気に入っていたのに、慶一はそんなふうに扱ってくれなかった。一緒に居ても慶一から手を出して来る事は無かった。遊んでもくれない、求めてもくれない、そんな慶一に私は傷付いた。だから他の男と関係を持った。慶一はそんな私と別れた。あっさりと。大して傷付いてもいないようなそんな素振りだった。


久々に会った慶一は大人になっていた。大工も続いていて、ちゃらんぽらんに生きてる私とは違う世界に行ってしまったように感じた。慶一の彼女は美人で私とは全然違うタイプだった。大人しそうで弱々しい、男に守って貰うのが当たり前、みたいな感じがした。あんな人が慶一と付き合ってるなんて、不釣り合いだ。何とかまた慶一と付き合えないかな…また付き合えたら今度はちゃんと出来る、そう思った。



街に買い物に来ていた時、祭りの夜に見かけた慶一の彼女を見つけた。間違いない。私は彼女に近付いて声を掛ける。


「ねぇ、あなた、慶一の彼女でしょ。」


急に言われてその人は私を見上げる。少し怯えているように見えた。


「覚えてる?私の事。」


聞くとその人が頷く。


「覚えてます…」


か弱くてか細い声。これなら言いくるめれば何とかなるかもしれないと思う。



彼女を連れて移動する。移動しながら仲間に連絡を入れておく。可愛い子、連れて行くから。そうメッセージを送っておく。


「慶一とはさ、昔付き合っててね。こういうとこにも良く来たんだ。」


路地裏のカラオケ屋。地元でヤンチャしてた連中が集まる店。


「アンタさ、慶一と付き合ってるみたいだけど、慶一はさ、元々こういうとこで遊ぶような、ヤンチャな奴なのよ。」


煙草を出して火をつける。


「アンタみたいなお嬢さんじゃ、慶一、手に負えないでしょ?」


その人は俯いて何も言わない。


「あのさぁ、今は慶一も傍に居ないんだし、このままアンタをここに連れ込んでも良いんだよ?」


言うとその人が顔を上げる。その顔は凛としていた。


「帰ります。」


そう言うとその人は踵を返して歩き出す。


「ちょっと待ちなよ。」


腕を掴んだ、その時。


「あれ、マユカじゃん、何してんの。」


声を掛けて来たのは遊び仲間のユウガだ。ユウガは私が腕を掴んでいるその人を見て言う。


「おー!お前とは全然違うタイプだけど、友達なん?」


ユウガは俯いているその人の顔を覗き込む。


「しかも美人じゃーん。一緒にカラオケでもしよ?」


強引にその人の肩を抱く。その人はその手を振り払う。


「止めてください、私、帰るとこなんです。」


ユウガは振り払われたのが気に入らないのか、顔を顰める。マズい、ユウガは拒否されるのを嫌うんだった。


「そんな事言うなよ、な?」


また強引に肩を抱く。嫌がっているその人を見て、祭りの夜の慶一を思い出す。物凄い形相で私にいい加減にしろと言った慶一。このままでは慶一にバレた時、ただでは済まない。


「ユウガ、止めときな、その人、慶一の女だから。」


言うとユウガはピタッと動きを止めて、パッとその人から離れる。


「何だよ、慶一さんの女かよ、早く言えや。」


そして震える声で言う。


「ごめんね、悪気は無かったんだ。マユカの友達だと思ったんだよ。」


そして私を睨むと言う。


「マユカ、慶一さんの女だって分かってて、何でこんなとこ連れて来てんの。」


そう言われて何も言い返せない。


「…生きてる世界が違うって言いたかったんだよ…」


言うとその人が私を見る。


「違うのは知ってます…でもあなたも私の事、何も知らないじゃないですか。」


その人はまた凛として言う。


「私は慶一さんを愛してます…慶一さんも私を愛してくれてます…お互いに出来ない事、サポートし合ってるんです…それは他の誰かにとやかく言われる事では無いと思います。」


あぁ、慶一はこの人のこういう強いとこもちゃんと知ってるんだろうなと思った。


「マユカ、お前、慶一さんに未練あんのか知らねぇけどさ、今の女に手出して、ただで済むと思うなよ。」


ユウガが言う。その通りだ。


「悪いけど俺、お前の肩は持てないからな。」



家に帰るとリビングにマユカが居た。は?何でマユカが居んの?


「何でコイツが居んの?」


聞くとマユカが頭を下げる。


「ごめんなさい。」


急に謝られても意味が分からない。


「っつうか、説明してくんない?」



事情を聞いて溜息をつく。なるほどね。そういう事か。


「で、お前はどうしたい訳?」


聞くとマユカは俯いたまま言う。


「何も。私が勝手にした事だから。」


キョウコを見る。キョウコはマユカを見て気の毒そうにしている。


「ヨリ、戻したかったって訳か。」


言ってもマユカは俯いていて何も言わない。


「俺とキョウコがタイプ違うんで、引っ掻き回せば何とかなるって思った?」


言うとマユカが顔を上げる。


「正直、そう思った。気が弱そうだったし、仲間のとこに連れて行って、テキトーに誰かあてがえば、後はぐちゃぐちゃになって別れてくれると思ってた。」


鼻で笑う。


「で、後釜に座ろうって?」


マユカが頷く。


「舐められたもんだな、俺も。」


隣に座るキョウコの肩を抱く。


「一応、言っとくけど、俺、キョウコにしか欲情しねぇんだわ。」


マユカが驚いて俺を見る。


「お前が今、目の前で全裸になったって、勃たねぇ自信あるわ。」


笑いながら続ける。


「試してみるか?」


マユカが悔しそうに言う。


「前は!付き合ってた頃は私が誘えばヤッてたじゃん。」


鼻で笑う。


「それは俺がキョウコに出会う前だからだろ?俺から誘った事、無いだろ。」


俺は笑って言う。


「元から体の繋がりなんて興味ねぇんだよ、ヤらなくても全然、平気だしな。」


キョウコが俺を見上げて驚いている。俺は笑ってキョウコに言う。


「お前は別。」


そう、最初からキョウコだけは特別だった。


「まぁ、今回の事は大目に見てやるよ。キョウコが傷付いた訳でもねぇしな。ユウガにもよろしく言っといてくれ。で、二度とその面、見せんな。」



マユカを帰して一息つく。


「怖くなかったか?」


聞くとキョウコは少し笑う。


「ちょっとだけ、怖かったです…」


そんなキョウコを抱き寄せる。


「ごめんな、怖い思いさせて。」


キョウコは俺に抱き着いて聞く。


「私だけ、特別…?」


俺はキョウコを抱き締めて言う。


「そうだよ、キョウコだけは別。」



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