車で向かっている時に慶一さんに聞く。
「で、どこまで行くんです?」
慶一さんは真っ直ぐ前を向いて言う。
「東条の家だ。」
東条と聞いて驚き、そして笑う。
「幸成か。」
言うと慶一さんが驚いて俺を見る。
「知ってんのか。」
俺は笑う。
「慶一さんに前、話した事ありますよね?俺の家は日本舞踊の家本だって。それが東条です。」
慶一さんが言う。
「でもお前の苗字、東条じゃねぇだろ。」
俺は笑う。
「俺の苗字は母方のです。東条の家を出たので。」
俺は溜息をついて言う。
「俺の母は東条の妾だったんですよ。日本舞踊やってて東条に目を付けられて、無理矢理妾にされたんです。俺は妾の子、幸成は正妻の子。酷い扱いでしたよ、俺も母も。だから俺は母を連れて東条の家を出たんです。母は死ぬまで東条への恨み言を言ってました。東条への恨み言を吐き捨てて死んだんです。」
慶一さんが聞く。
「で、その家に向かってる訳だが、お前、やれんのか?」
俺は笑う。
「願ったり叶ったりですよ、滅べばいいんです、あんな家。」
門の前に到着する。俺は皆に言う。
「あんまり手は使うなよ。俺たちは大工だからな。」
それぞれに木刀やらバットやらを持っている。
「行くぞ。」
俺が歩き出すとアツシが走り出す。それにリョウタとオサムが続く。既に数人の用心棒らしき男たちが構えている。
「慶一さんに道を開けろー!」
リョウタが叫ぶ。
「道は分かります、キョウコさんはおそらく屋敷の一番奥に居ます。俺が案内します。」
ダイスケが俺の横で言う。
「あぁ、頼む。」
俺は部屋に入る。東条は後ずさりしながら言う。
「有り得ない、ここは屋敷の一番奥だぞ?ここまで何人居たと思ってるんだ。」
俺は笑って言う。
「さぁな、なぁ?」
後ろに聞くと後ろからダイスケが姿を現す。
「さぁ何人でしょうね、ざっと150か、200か。」
ダイスケの姿を見て東条が驚愕している。
「150でも200でも、俺らの相手にはならないです。あんなカス共集めても意味無いんですよ。」
既に他の仲間たちも集まり始めている。
「に、兄さん…」
東条が言う。
「幸成、久しいな。」
ダイスケがニヤッと笑う。
「何で、兄さんが…」
ダイスケは俺の少し後ろに控えて言う。
「俺はこの人に拾われたんだ。この人のお陰で真っ当に生きてる。お前と違ってな、幸成。」
ぞろぞろと仲間たちが顔を揃える。
「坊ちゃん…駄目ですよ…コイツら、あの狂獣じゃないですか!」
用心棒が言う。
「狂獣?何だよ、それ!」
東条が用心棒に聞いている。狂獣か、懐かしい響きだな。
「ここいらで暴れて手の付けられなかった連中の事ですよ、すっかり鳴りを潜めてると思ってたら!」
ガタガタと用心棒が震えている。
「手が付けられないって!どういう事だよ!」
用心棒は真っ青になっている。
「そのままの意味ですよ、ガキでカタギの癖に強過ぎてヤクザにも一目置かれてたんです…噂じゃ組一つ潰したって…」
俺は笑う。
「そんな事もあったなぁ、なぁ?」
ダイスケがニヤッと笑う。
「そうでしたっけ?覚えてません。」
用心棒が東条に言う。
「と、とにかく!俺は降ります!こんな奴ら相手にしてたら命が幾つあっても足りない!」
逃げようとする用心棒を東条が捕まえる。
「ダメだ!お前は俺に雇われた用心棒だろ!逃げるなんて許さん!」
用心棒は東条を振り払う。
「金で雇われただけだろ!アンタに通す義理なんかねぇんだよ!」
俺は言う。
「話はついたかよ?逃げるなら逃げな?ケツ捲って逃げる奴なんかに興味はねぇよ。」
一歩踏み出すと用心棒が逃げる。東条は腰が抜けたようにその場に尻もちをつく。
「キョウコ。」
呼ぶとキョウコが立ち上がる。
「はい。」
返事をするキョウコに言う。
「来い。」
言うとキョウコがトタトタと俺の所に来る。
「キョウコちゃん!」
東条が叫ぶ。俺を見上げているキョウコはもう目をトロンとさせている。
「何だ?その格好…似合わねぇな、脱げ。」
言うとキョウコが頷く。
「はい。」
返事をしたキョウコは服を脱ぐ。
「キョウコちゃん!そんな!人前で服を脱ぐなんて!そんなはしたない…!」
東条が叫んでいる。キョウコは着ていた服を脱ぎ捨て下着姿になる。俺が抱き寄せるとキョウコはうっとりと俺を見上げる。
「良い子だな、後でめいいっぱい可愛がってやる。」
言うとキョウコが返事する。
「はい。」
ダイスケが自分が着ていた羽織を脱ぎ言う。
「これを。」
ダイスケがキョウコに掛ける。キョウコの頬に触れる。
「キョウコ、待ってろな、カタ付けて来る。」
キョウコは俺を見上げて返事する。
「はい。」
俺は歩き出す。東条は尻もちをついたまま、後ずさりする。
「こ、こんな事!許されないぞ?け、警察に!通報する!」
俺は笑う。
「警察に何て言うんだよ?男ボコって女を恐喝、拉致して監禁したらボコられましたって?お前の頭イカれてんのか?」
後ずさりしながら東条が言う。
「逃げる奴に興味無いんだろ?キョウコちゃんは諦める!そんな女要らない!だから、」
俺はそこで木刀の鞘を抜く。眩いばかりの日本刀が現れる。
「だから?命は助けてくれって?」
日本刀を東条に向ける。
「お前は別だ。」
俺は振り被って日本刀を振り下ろす。東条の服が切れてその肌に傷が付く。
「腕が鈍ったな。」
東条は胸から下半身まで俺に服を切られた事で肌が露出している。だらしないそれは小便を垂れ流している。
「怖くて小便漏らす奴なんか切れるかよ。」
俺は笑って日本刀を納め、東条に聞く。
「ご当主様はどこだ?」
東条は泣きながら言う。
「父は、書斎だ…」
俺は東条に背を向けて言う。
「アツシ!捕まえとけ。」
アツシは笑って言う。
「あいよ。」
俺はキョウコに近付き、抱き寄せると口付ける。唇を離してキョウコに言う。
「もう少し待ってろ。」
キョウコが頷く。
「はい。」
キョウコを離して歩き出す。ダイスケが俺の横に来る。
「案内します。」
後ろでアツシが聞く。
「コイツ、殴っていい?」
俺は笑う。
「好きにしろ。」
書斎の扉を蹴破る。中に入って驚いた。ご当主様は椅子に括り付けられていて、口をテープで塞がれていた。それを見て笑う。
「つくづく、縛るのが好きなんだな、お前の弟。」
言うとダイスケも笑う。
「知りませんよ。」
俺は驚いているご当主様に近付いて、口に貼ってあるテープを剥がす。
「何だ、お前たち、誰だ!」
ご当主様は俺を見て、横にいるダイスケを見る。ダイスケを見た瞬間に言う。
「大輔か。」
ダイスケはニヤッと笑う。
「ご無沙汰してます、父さん。」
ご当主様が言う。
「何でもいい、解いてくれ。」
俺もダイスケも動かなかった。
「アンタ、いつから縛られてる?」
俺が聞くとご当主様が言う。
「もう丸一日こうだ。」
なるほどね、と思う。じゃあこれはあの男一人でやった事か。
「大輔!息災だったか、心配していたんだぞ?幸成はもうダメだ、使い物にならん、お前、うちに戻って来い、お前を次期当主に据えてやる。」
ペラペラ喋るご当主様に苛つく。
「ペラペラ、ペラペラと…うるせぇんだよ。」
ダイスケの声が低い。あぁ、これは相当だな、と思う。
「俺はここを出てった身の上だ、今更戻るなんて有り得ねぇ。俺はこの人に付いてる。この人の下でこの人を支えて生きて行くと誓ったんだ。」
ダイスケは俺に会釈して聞く。
「慶一さん、俺に任せて貰えますか?」
俺は笑って言う。
「好きにしろ、俺はご当主様にご挨拶しに来ただけだ。」
俺はご当主様に背を向ける。背後でダイスケが動き出す。ベシッと何かを殴る音、ガシャンと椅子が倒れる音、止めてくれという懇願の声、グシャッという何かを踏み抜いた音…。ドスッドスッという音が数回して、ダイスケが戻って来る。
「お待たせしました。」
俺は腕を組んで聞く。
「気が済んだか?」
ダイスケは蔑むように言う。
「殺っても意味無いんで、止めときます。」
俺は笑う。
「違ぇねぇ。」