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第11話ー襲撃ー

縄でグルグル巻にして木に括り付けさせる。全く…こんな粗暴な男のどこが良いんだか。そう思った時、後ろで何かが落ちる音がした。振り返るとキョウコちゃんが居る。


「キョウコちゃん!おかえり。」


微笑んで言ってもキョウコちゃんは私を見ようともせず、木に括り付けられた男を見ている。


「慶一、さん…」


キョウコちゃんが駆け寄ろうとして走って来る。俺はそれをキャッチする。


「駄目だよ、キョウコちゃん。こんな男に振り回されたら。」


キョウコちゃんは私の腕を振り払おうとする。


「離して!慶一さん…」


男は気絶させる為に殴ったので、頭から血を流している。キョウコちゃんは半泣きでその男に手を伸ばしている。気に入らない。


「キョウコちゃん、君にはこんな男なんか必要無いんだよ。キョウコちゃんに必要なのはこの私だ。」


キョウコちゃんが私の腕を振り払おうとする。


「離して!イヤ!慶一さんが、慶一さん…」


キョウコちゃんを私に向き合わせる。


「こっちを見るんだ!」


怒鳴るとキョウコちゃんがビクッとして私を見る。


「キョウコちゃんに必要なのは私だ、こんな男じゃない。こんなどこの馬の骨か分からん奴なんかキョウコちゃんには相応しくないんだ。」


そして微笑む。


「やっとなんだよ、キョウコちゃん。やっと父から許しが出たんだ。これで私はやっとキョウコちゃんと結ばれるんだ…」


キョウコちゃんは今まで見た事の無い程の眼差しで私を見る。それは軽蔑と侮蔑の眼差し。


「私は慶一さんを愛してます、東条さんとそんなふうにはなれません。慶一さんを傷付けた張本人と何故私が結ばれるの!」


そう言われて私は笑う。


「そうか、仕方無いな…やれ。」


私がそう言うと男を括ってある木の傍に居た用心棒二人が男を殴る。


「イヤ!止めて!慶一さん!止めて…」


キョウコちゃんが泣き崩れる。その時。


「キョウコ!」


男の声。その声にハッとして木を見る。殴られた男は血を流しながら言う。


「キョウコ、俺は大丈夫だ。頷くんじゃねぇぞ。」


用心棒がまた殴る。


「慶一さん!」


キョウコちゃんが男の方へ行こうとするのを止める。


「大丈夫だ、こんなの屁でもねぇ…」


代わる代わる用心棒二人が男を殴ったり蹴ったりする。


「もう止めて…慶一さんが、慶一さんが…」


キョウコちゃんが泣き崩れる。私はキョウコちゃんの肩に触れて言う。


「あの男を救いたいなら、どうしたら良いか、分かるよね?」


言うと男が言う。


「テメェ!キョウコに触んじゃねぇ!」


うるさい男だ。


「やれ、殺したっていい。」


言うとキョウコちゃんがハッとして顔を上げ、言う。


「止めて、お願い、お願いします…」


用心棒二人に殴られながら男が叫ぶ。


「止めろ!キョウコ!」


キョウコちゃんは泣きながら言う。


「言う事、ききます…だから、慶一さんを助けて…」



俺は庭に捨て置かれた。不意に雨が降ってくる。体を起こそうにもどうにも動かない。キョウコが連れて行かれた。助けに行かなくちゃ、ボロボロの体をどうにか起こそうと試みる。痛みなんかどうでも良かった。キョウコが、キョウコが…。ザッザッと人の歩く音がする。


「…慶一さん!」


その声はダイスケだった。ダイスケは俺の所へ駆け寄って俺を抱き起こす。


「大丈夫ですか!何があったんです?!」


俺は痛みに耐えながら言う。


「キョウコが連れて行かれた…助けに行かなきゃ…助けに…」


ガクンと体が沈んで、意識を失う。



ふっと目が覚める。


「慶一さん!」

「慶一!」

「慶ちゃん!」


俺の視界には仲間全員が映っている。


「お前ら…」


そう言って俺は体を起こそうとする。


「ダメです!」


ダイスケが止める。


「一応手当はしましたけど、医者に診せないと。」


俺は無理矢理、体を起こす。


「そんな事言ってらんねぇんだよ…キョウコが、」


そう言って立ち上がろうとする。ダイスケが俺を支える。


「どうしても行くんですね?」


聞かれて俺は笑う。


「当たり前だろ、大事なもん、返して貰いにな。」


ダイスケは俺を支えて言う。


「じゃあ、俺らも行きます。」


は?何事言ってんだ?コイツら。


「何言ってんだよ、お前らは連れて行けねぇよ。」


ダイスケは俺を見て言う。


「俺は!この間の事、後悔してるんです。お前は残れって言われて、言われた通りにして。帰って来たアンタはボロボロだった…」


ダイスケが目を伏せる。


「ボロボロなのにキョウコさん優先で…そんなに大事なの、俺、全然分かって無くて…」


ダイスケが俺を見る。


「だから!今度は俺が!俺らが俺ら自身の大事なもん守る為に行くんです。アンタが命張ってキョウコさん守るのと同じです。俺らも命張ってアンタを守る。」


そこでポキポキと首を鳴らしてアツシが言う。


「忘れた訳じゃねぇよな?俺らがどんだけ強ぇか。」


あぁ、コイツらはバカだ…。


「そうか、分かった。」


俺は笑って言う。


「やるなら派手にやろうや。」



屋敷の中で私はキョウコちゃんを着飾らせた。


「やっぱりキョウコちゃんは着物なんかよりも洋服の方が似合うんだよ。」


キョウコちゃんの隣りに座る。


「欲しい物は何でも買ってあげるよ。そうだなぁ、今度二人で映画でも観よう。」


キョウコちゃんの手を取ろうとすると、キョウコちゃんはそれを避ける。私は笑う。


「私はね、キョウコちゃん。ちゃんと段階を踏もうと思ってるんだ。どっかの誰かさんみたいに段階をすっ飛ばしてキョウコちゃんを手に入れようとなんてしないよ。」


キョウコちゃんの手を無理矢理握る。


「まずはデートをしよう。それで二人で食事をして、秘め事はそれから、かな?」


キョウコちゃんは俺を睨んでいる。


「君は変わってしまったね。でも大丈夫。すぐに前のキョウコちゃんに戻してあげるからね。」


バシャーンと大きな音がする。ハッとしていると、ドタドタと足音。バーンと扉が開いて、現れたのは用心棒の一人。


「坊ちゃん、襲撃です!」


襲撃?は?何故こんなに早く…。私はキョウコちゃんを立たせる。キョウコちゃんは抵抗する。


「立て!立つんだ!」


無理矢理立たせようとする。キョウコちゃんは手を解こうと振り払う。苛立って私はキョウコちゃんを引っ叩く。ハッとする。違う、こんな事をしたい訳じゃない。


「すまない、キョウコちゃん、でも言う事を聞いてくれ。ここに居ると危ないんだ。」


キョウコちゃんは叩かれた頬を抑えて私を睨み、言う。


「私を前の私に戻す?大人しくて良く言う事を聞く私の事?あなたは家族が生きてた頃、姉や弟と一緒に私を見下してたじゃない。私があの家の床を雑巾がけしてた時、あなたは何してた?姉や弟と一緒に私を無視してた!私の目の前で家族じゃない人間が居ると落ち着かないって言ってたじゃない。あなたはイラついて私を殴った今みたいに、また私を殴るわ。言う事を聞かせる為にね。そんな人を好きになる訳無い!私に愛を教えてくれたのも、私を愛してくれたのも慶一さんだけよ。今もこれからも!」


私がキョウコちゃんの腕を掴もうとした、その時。


「良く言ったな、キョウコ。」


声に振り返る。そこにはあの男が立っている。手には木刀を持って。


「おま!お前、どうやってここまで!」


有り得ない、ここは屋敷の一番奥だぞ!男がニヤッと笑って言う。


「全部ぶっ倒して来たに決まってるだろ、バカか?お前。」


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