タバコを買いに出る。キョウコが下駄を出してくれて、カランコロンと下駄の音が雨の中響く。浴衣なんか着て、下駄履いて傘さして歩いてると俺じゃねぇみてぇだなと思う。コンビニに入りふと、目に入るデザート。買って帰ったら喜ぶかな…何が好きなんだろう。王道はやっぱりプリンかシュークリームだろう。どっちか迷ってどっちも買う。コンビニのデザート買って帰るなんて、俺、どうかしてんなと気恥ずかしくなる。
玄関から中に入ると何となく暖かい雰囲気だった。人が居るだけでこんなに雰囲気変わるんだなと思う。日本家屋は人が中で動いてるだけで、家中の木が呼吸し出すから面白い。人が居なくなれば朽ちて行くのに。リビングにキョウコは居なかった。音のする方に行くとキョウコは台所に居た。
「あー、ただいま。」
言うとキョウコが振り返り微笑む。
「おかえりなさい。」
キョウコはパタパタと動いて何かしている。俺はコンビニのビニール袋をキョウコに差し出す。
「何か、美味そうだったから買って来た。やる。」
キョウコはそれを受け取って中を覗いて微笑む。
「美味しそう…ありがとう。」
気恥ずかしくて俺は何も言わずにリビングに戻る。リビングに戻り、テーブルの横にドカッと座り、タバコを取り出す。見回しても灰皿は無い。もしかして、この家の誰もタバコなんか吸わなかったのかな、とそう思う。トタトタと歩く音がしてキョウコが来る。
「あの、灰皿。」
大きなガラス製の灰皿。人殴ったら殺せそうなやつ。
「あ、サンキュー。」
キョウコは灰皿をテーブルに置いて、聞く。
「お腹、空いてますか?」
聞かれて俺は頷く。
「あぁ、うん。」
言うとキョウコは微笑んで言う。
「夕飯作ったので、良かったら。」
テーブルに日本食が並ぶ。焼き魚、野菜炒め、白飯に味噌汁、漬物。日本家屋に日本食か。俺は何だかタイムスリップしたような気がして来る。
「いただきます。」
そう言って飯を食う。キョウコも隣でいただきますと言って飯を食い出す。不思議な気分だった。今日出会ったばかりの女と飯を食っている。
「美味い。」
言うとキョウコが微笑む。
「良かった。」
そう言うキョウコが何だか可愛い。
「あの、お酒とか飲みますか?」
聞かれて言う。
「まぁ、あれば飲むけど、別に飲まなくても。」
言うとキョウコが言う。
「ビールか日本酒ならあります。」
日本酒か。仕事は一旦落ち着いてるし、明日は今のところ、仕事は入ってない。
「んじゃ、日本酒で。」
キョウコが箸を置く。
「熱燗にしますか?それとも冷酒?」
俺はキョウコがまだ食べ途中なのを見て言う。
「冷酒で良いけど、飯食ってからにしろよ。」
キョウコはふっと笑って箸を持つ。
「はい。」
そう言ってまた飯を食い出す。
食事をしてキョウコが皿を片付ける。
「貸せ。」
そう言って皿を持って立ち上がる。台所に皿を持って行き、シンクの中に皿を置く。
「置いとくぞ。」
聞くとキョウコが頷く。
「はい。」
キョウコは戸棚から日本酒を出し、徳利を出して来る。
「徳利に移すの面倒いだろ、そのまんま持って来い。」
言いながら俺は台所を出る。リビングに戻ってタバコに火をつける。静かな夜だった。普段ならアパートに帰って、ゲームでもしながら、仲間と通話してる時間帯だ。部屋にテレビはある。キョウコはテレビなんか見ないのかな。トタトタと歩く音。キョウコが盆に日本酒を乗せて持ってくる。
「お酒のおつまみ、こんなものしか無くて…」
小皿にのせられた和え物。
「いや、別に。無くて良い。」
キョウコは俺の隣に来ると日本酒を注いでくれる。
「あ、サンキュ。」
そう言ってグラスを持つ。グイッと飲む。日本酒が喉を焼く。
「あー、うめぇ。」
そう言う俺にキョウコは微笑み、また日本酒を注いでくれる。キョウコは立ち上がり、部屋を出て行く。キョウコは飲まないのかな。飲めないのかな、そんな事を考える。トタトタとキョウコが戻って来る。手にはシュークリーム。俺の隣に座るとシュークリームの袋を開ける。ワクワク顔、というか、ホクホク顔というか。嬉しそうなキョウコを見てると俺も何だか温かい気持ちになる。
「いただきます。」
キョウコはそう言ってハムハムとシュークリームを食べる。ふっと笑える。可愛いな。こんな顔もするのか。
「キョウコは酒、飲まないの?」
聞くとキョウコは唇に付いたクリームを舐めながら言う。
「お酒はあんまり。飲めない訳じゃないんですけど。」
キョウコの舌の動きを見て、一瞬不埒な想像をして、俺は目を逸らす。いかん、いかん。チョイスを間違えたなと反省する。まぁでも一回ヤッてるしなとも思う。俺はコップの中の日本酒を一気に飲み干す。
「慶一さんはお酒強いんですか?」
キョウコが聞く。ふわーと体が温まるのを感じながら言う。
「まぁ、人並みじゃねぇ?」
そう言いながらクラっと来る。体が熱い。やべぇ、一気に飲み過ぎた。まぁでもこのまま酔っ払って寝ちまった方が良いかもしれない。チラッとキョウコを見る。キョウコはシュークリームを食べ終わったとこだった。口の周りに白い粉が付いている。グワッと欲望が顔を出し、俺はキョウコのうなじを掴むと引き寄せて言う。
「粉、付いてんぞ。」
そのまま、粉を舐め取る。甘い砂糖が口の中に広がる。今、キョウコとキスしたら甘いんだろうな、そう思ったら我慢出来ず、俺はそのまま口付ける。舌を絡ませると甘い味が口に広がる。夢中で口付ける。キョウコの唇を吸うように離す。キョウコはうっとりと俺を見ている。