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第2話ー出会いー

その日俺は仕事を終えて、歩いて帰っていた時に雨に降られた。土砂降りの雨。シャッターの閉まった商店前で雨宿りしていた。やべーな、上がりそうにないな、そんな事を考えていた。そこへトタトタと走って来た女。真っ黒な服装、俺でもそれが喪服だと分かる。びしょ濡れの女は俺の居た軒先に入る。小さなカバンからハンカチを出して顔や腕を拭いて、一息ついて、途方に暮れている。俺は少し笑って言う。


「上がりそうにないッスね。」


女を見る。女はホンの少し微笑む。悲しそうだった。そりゃそうか、喪服着てるんだから誰かの葬式か通夜か。不意に吹き抜ける風。全身濡れているせいで寒い。夏なのに…ツイてねぇ、そう思いながら女を横目で見る。女も寒そうにしていた。不意に思い出す。3分ほど走ればコンビニがある。そこで傘買って来るか。


「あー、ここからちょっと行ったとこにコンビニあるから、そこで傘買って来るわ。ちょっと待ってて。」


返事を聞かずに走り出す。何で女に向かって待っててなんて言ったのか、自分でも分からなかった。コンビニに着く。傘は残り一本。俺はその傘を買って、傘をさし、小走りに戻る。軒下に女は居た。女に傘を差し出す。


「ん。」


女は遠慮がちに傘を受け取る。俺は軒下に戻って、あー、どーっすかなーと考える。仲間に連絡入れて迎えに来て貰うのもダリィなぁと。


「あの、」


女が言う。女を見ると女は俺に言う。


「一緒に入りますか?」



傘を持って女と歩く。何で一緒に歩いてんだ、俺。


「あー、家どの辺?」


聞くと女が言う。


「この先の右の奥です。」


言われた通りに歩いて行くと目の前にデカイ日本家屋が現れる。


「おー、すげー、デケェ。」


大工をやっている手前、日本家屋は見慣れているけど、こんなに立派なのは珍しい。門を入り、玄関に辿り着く。鍵を開けて中に入る女を見送る。


「んじゃ。」


そう言って帰ろうとする俺の腕を女が掴む。驚いて女を見ると女が言う。


「あの、雨宿りしていってください…」



家に入る。閑散とした家だ。人の気配が無い。リビングに通される。女がトタトタと走って行き、戻って来てタオルを渡してくれる。


「あ、サンキュー。」


そう言ってタオルを受け取り、びしょ濡れの頭や顔を拭く。服までびしょ濡れだ。脱ぎてぇ、そう思った。


「着替えてきます、お風呂溜めるんで、良かったら。」


そう言って女がまたトタトタ小走りになる。土砂降りの雨は止まず、雨音だけが響く。何だろう、この寂しい感じ。誰も居ない家、このデカイ家にあの女一人で住んでいるんだろうか。トタトタ足音がして女が戻って来る。


「あの、すみません、背中のファスナー、下ろして貰えますか…」


女は俺に背を向けて長い髪を片側に寄せる。ドキドキし出す。ファスナー下げるだけだろ、しっかりしろ、俺!小さなファスナーを掴んで下ろす。真っ白な肌、黒の下着、レース、黒のパンスト。目眩がしそうな程のエロさだった。俺は堪らず喪服の中に手を突っ込み、抱き寄せるように引き寄せ、胸を鷲掴みにする。女は抵抗せず、俺に寄り掛かる。濡れた喪服を落とし、女を振り向かせ口付ける。そのまま押し倒す。



あーやっちまった…そう思いつつ、俺は女を抱き寄せる。きっと引いてるだろうな、俺、刺青入ってるしな、見たとこ、良いとこのお嬢さんっぽいしな。


「お風呂、入りますか。」


そう言われて少し安心する。起き上がり、女の腕を掴む。


「風呂、どこ?」



湯船から湯を掬い、女に掛けてやる。自分にも湯を掛けて、女の腕を掴んで一緒に湯船に浸かる。女を引き寄せて腕の中に収める。


「今日は葬式か何か?」


聞くと女が言う。


「今日は三回忌だったんです…」


あーね、三回忌か。


「っていうか、服、どうやって着たの?」


聞くと女が少し笑って言う。


「三回忌始まる前までは親戚が来てて。」


あ、なるほどね、と思う。


「誰の三回忌?じいちゃん?ばあちゃん?」


聞くと女が言う。


「家族全員です…」


言われて驚く。全員?!


「え、全員って…」


言葉を失う。女は悲しそうに微笑んで言う。


「父と母と姉と弟…」


一気に四人も死んだのか。


「皆、事故で…私だけ生き残って…」


そう言って俯く。あー、それはショックだよなと思う。そこで女が少し笑う。


「親戚からは疫病神だって言われて、近所の人たちも気味悪がって…買い物も町外れまで行かないと売って貰えなくて…」


ハアーと溜息をつく。田舎の嫌なとこだ。閉鎖的な考え、女は悪くないのに。そう思ったら怒りが湧き上がって来る。


「俺さ、親、居ないのね。」


そう言うと女が俺を見上げる。


「すげー小さい時に捨てられてさ、養護施設で育って、見ての通りグレて、今ではチンピラ大工やってんの。」


女が笑う。


「チンピラ大工って。」


笑うと可愛いんだなと思う。女を抱き寄せる。


「仲間も皆似たり寄ったりでさ。だからここら辺では俺らに歯向かう奴ら、誰も居ねぇんだけど。大工やってっから、ジジイババアも俺らの事、無視は出来ねぇし。買い物くらいなら俺が付き合ってやるよ。」


女が俺の首に腕を絡めて俺に寄り掛かる。


「名前…」


そう言われて思う。そういや、名乗ってもいなかったなと。


「俺は慶一、前島慶一。」


女が言う。


「今日子です、渡瀬今日子。」



風呂から上がる。キョウコはバスタオルを巻いて、トタトタと歩いて別の部屋に行く。俺はバスタオルを腰に巻いてリビングに戻る。


「これ、着てください。」


そう言ってキョウコが出して来たのは浴衣だった。


「あー、着た事ねぇや。」


言うとキョウコが浴衣を広げ、俺に言う。


「どうぞ。」


浴衣を着せて貰う。バスタオルを落とす。フルチンかよ、そう思いながらも帯を締めてくれるキョウコを見て何か良いなと思った。


「私も着て来ます。」


そう言ってキョウコがびしょ濡れの服を拾って消える。土砂降りの雨はまだ降っている。



古い日本家屋だけど、設備は悪くない。風呂も洗濯機もそれなりの物が揃っている。浴衣なんて初めて着たな。何か意外と俺、似合ってね?とか思っていた。キョウコがトタトタと歩いて来る音がする。現れたキョウコは薄い紫色の浴衣を着ていた。


「これ、前島さんの…」


そう言って差し出したのは俺のスマホと財布と濡れたタバコとライター。



「あぁ、サンキュー。」


そう言って受け取る。スマホは大丈夫、タバコは…


「チッ、濡れてんのかよ…」


これじゃタバコが吸えない。


「お洋服はお洗濯して乾燥しておきます。」


俺はタバコの箱をぐしゃっと潰す。吸えないと思うと吸いたくなる。


「あの、私、買って来ます。」


キョウコはそう言って立ち上がるとトタトタ歩く。って、おい、まだ雨降ってるじゃん。俺はキョウコを追いかける。


「待てって!」


玄関でキョウコを捕まえる。キョウコは手にお財布を持ってキョトンとしている。


「いいよ、自分で行くから。せっかく風呂入ったのに冷えたら風邪ひくだろ。」


キョウコは俺を見上げて言う。


「でも前島さん、タバコ濡れちゃって…」


「慶一!」


遮って言い直す。


「慶一、俺、苗字呼ばれんの嫌いなの。」


キョウコを見ると少し怯えている。言い方がちょっと強かったか。キョウコの腕を離して抱き寄せる。


「名前で呼べよ、な?」


キョウコが俺の胸に頬を寄せる。


「慶一さん…」


呼ばれて胸が締め付けられる。


「買い物なら俺が行くから。キョウコは家に居な。」


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