風呂から上がって下着を履いて浴衣を羽織って出てくる。帯はせずに前を肌蹴させ、ドスドスと歩いて部屋に入る。ドスンと座って胡座をかく。スマホに手を伸ばしてイヤホンを耳に突っ込み、通話ボタンを押す。
「ウィース。」
挨拶すると仲間がおかえりーと言う。タバコに手を伸ばした時だった。俺の前にキョウコが正座する。
「あ?」
聞いてもキョウコは何も言わない。何も言わずに俺に手を伸ばして俺に抱き着いてくる。
「おっと…」
俺は体勢を崩しそうになる。
何、どうしたよー?
仲間が聞く。
「あー、何かキョウコが抱き着いて来てる。」
言うと電話の向こう側で仲間が笑う。キョウコは俺に抱き着いて俺の膝の上に乗る。
「あー悪ぃ、何かキョウコが俺の膝の上に乗ってんだわ、1回切るわ。」
おー、了解ー
仲間が言う。通話を切ってイヤホンを外す。
「何だよ。」
言ってもキョウコは何も言わない。ただ俺に抱き着き、そして口付けて来る。
「ん…」
口付けながらキョウコを支える。唇を離して聞く。
「何だよ。」
キョウコを見るとキョウコは泣いている。
「は?何で泣いてんの?」
キョウコは俺を見上げて言う。
「慶一さん…」
ポロポロと泣くキョウコを見て舌打ちする。
「チッ」
俺はキョウコの手を掴んで立ち上がる。キョウコを連れて部屋を出る。ドスドスと廊下を歩いて奥の部屋に行く。襖を開けて部屋に入る。真ん中には布団が敷いてある。そこへキョウコを連れて行くとキョウコはペタンとそこに座る。戻って襖を閉める。布団に座るキョウコを押し倒す。キョウコは俺に手を伸ばして俺の首に手を回す。
「何だよ、どうした?」
聞くとキョウコは小さな声で言う。
「慶一さん、私と別れるの…?」
そう聞かれて驚く。
「はぁ?何言ってんの?お前…」
キョウコは泣きながら言う。
「だって昨日、電話で話してた…」
そう言われて思い出す。
「あぁ、あれか。あれ、聞いてたんだ、お前。」
昨日、仲間内でワイワイ話してた時にそんな事を話した気がする。もし付き合ってる女と別れたら、別れるなら、そんな話。
「私、別れたくない…」
キョウコが言う。俺は聞く。
「別れたくねぇの?」
キョウコは涙を流しながら頷く。あーヤバい、めっちゃ可愛い。
「お前が俺の事、こんなに好きなのに、別れる訳ねぇだろ。」
違う、そんな事言いたい訳じゃない。
「ホントに…?」
そう聞くキョウコが堪らなく可愛い。
「別れねぇよ、俺と別れたらお前、生きて行けねぇだろ。」
違う、ちゃんと言え、俺!俺はキョウコを抱き締めて言う。
「愛してる…頭ん中、お前だらけだよ…」
キョウコは泣きながら俺にしがみつく。キョウコの頭を撫でる。
「大丈夫だよ、離れねぇよ、ずっと一緒に居る。だから泣くな。」
「寝てて良いぞ。」
そう言って俺は下着を履き、浴衣を羽織って部屋を出る。ドスドス歩いてリビングに戻る。ドスンと座ってタバコに火をつける。イヤホンを耳に突っ込み通話ボタンを押す。
「ウィース。」
挨拶する。
おー、おかえりー
仲間が言う。別の仲間が聞く。
何だよ、落ち着いた?
「あぁ、まぁ、抱いたら落ち着いた。」
言うと仲間が冷やかす。相変わらず熱々だなー云々。仲間が言う。
っつーかさ、ホントお前らよく続いてるよなー
全然タイプ違うのになー
トタトタと足音がしてキョウコがリビングに来る。キョウコは俺の傍に来て座ると俺に手を伸ばして俺と手を繋ぐ。
「あー、まぁな。」
俺がそう返事をすると仲間が言う。
お前、キョウコちゃんにゾッコンだもんなー
バーカ、キョウコちゃんが慶一に惚れてんだろ
俺はキョウコを引き寄せて言う。
「寝てて良いぞ。」
仲間がん?と言う。俺は少し笑って言う。
「あ、いや、キョウコが俺んとこ来てるから。」
キョウコが横になる。近くにあった座布団を丸めてキョウコの頭の下に入れてやる。
「待ってな。」
そう言って頭を撫でてやり、立ち上がる。ドスドス歩いてさっきの部屋に入り、タオルケットを持って戻る。横になってるキョウコにそれを掛けてやる。元居た場所に座り、灰皿の上に放置したタバコを吸う。キョウコが手を伸ばして来て俺の足に触れる。
キョウコちゃん、寝てんのー?
仲間が聞く。
「あー、何か隣で寝てる。俺の足に触ってるわ。」
仲間がまた冷やかす。
仲間の言う通り、俺とキョウコはタイプが全く違う。キョウコは良いとこのお嬢さん。俺はヤンキー上がりのチンピラ大工。俺とキョウコが出会ったのは今から2年前。暑い夏の夕暮れ。土砂降りの雨の中。