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第40話 お宝画像

 日曜日の翌朝起きると、ケガしたところ以外にも、体のあちこちが痛い。それでも、なんとか起きて、両親と朝食を取った後、部屋に戻ると、彼から自撮りとメッセージが届いていた。


―― おはよう、今起きたところ。具合はどう?



 本当に寝起きのようで、ベッドの上でパジャマ姿だ。髪に寝癖がついているのがかわいい。


 さっそく返信する。


―― おはよう、僕は朝ご飯を食べ終わったところ。あちこち痛いけど、お宝画像を見たら元気が出たよ。


―― それはよかった。僕は今日は、部屋の片づけをしたり、作り置きの料理を作ったりするつもり。


―― 仁さんの料理食べたいな。


―― ケガが治ったら、たくさんごちそうするよ。


―― 楽しみにしてる。


―― 今日は一日部屋にいるから、メッセージもたくさん送るよ。


―― うれしい。自撮りもいっぱい送ってね。


―― オッケー!




 お昼にも、自撮りとメッセージが届いた。


―― 今日のお昼ご飯だよ。


 パンケーキとコーヒーフロートを前に微笑む彼。



―― おいしそう。うちはチャーハンだったよ。


―― そっちもおいしそうだね。


―― おいしかったけど、パンケーキとコーヒーフロートもいいな。



 この前、泣いた後に、彼がコーヒーフロートを作ってくれたことを思い出し、胸が切なく疼く。



―― クリームソーダは、今度晴臣くんと一緒のときに作ろうと思っているんだ。


―― それまで仁さんもお預けなの?


―― そう。初めては君と一緒がいいからね。



「あ……」


 うれしいのと切ないのとで、涙がこみ上げる。


―― 楽しみにしてる。早くケガを治さなくちゃね。


―― いつかは必ず治るんだから、焦らなくても大丈夫だよ。



 彼らしい優しい言葉に、涙がこぼれてしまう。


―― うん、そうだね。


―― クリームソーダもパンケーキも、それから炊飯器ケーキも、いくらでも作るから。


―― ありがとう。すごくうれしい。


―― 晴臣くんのリクエストならなんでも作るよ。


―― じゃあ、煮込みハンバーグとグラタンとプリンも。


―― オッケー!




 夜は、鼻血ものの画像が届いた。風呂上がりらしく、濡れ髪に上半身裸と思しきアップの自撮りだ。


―― さっぱりしたー。



 すぐに返信する。


―― ちょ、ちょっと、刺激が強すぎるよ…


―― そう? ちゃんと下は履いてるよ


―― そういう問題じゃなく。


―― どういう問題? 履いてないほうがよかった?


―― もう…


―― 怒った?


―― 怒ってないよ。


―― こういうのダメだった?


―― ううん、すっごく好き♥


―― えへっ、よかった。晴臣くんもお風呂に入った?


―― うん。昨日は怖くて入らなかったけど、明日近くの病院に行くから。



 母に車で連れて行ってもらうのだ。



―― 大丈夫だった?


―― なんとか。腕を濡らさないように、ビニール袋でくるんで。



 その状態で体を洗うのも大変だったが、実はその前に、首のチェーンを外すのに苦労した。母に見られたくなかったので、部屋で一人で外したのだ。


 腕のビニール袋は、上半身裸になってから、母がくるんでくれた。これも、自分ではうまくできないが、外すほうはなんとかなる。


 チェーンは着脱が大変なので、不本意ながらティッシュに包んで財布にしまってある。



―― それは大変だったね。



 その後も、ずいぶん長い間チャットを続けて、日付が変わる頃に「おやすみ」を言い合った。その後すぐに、僕はさっきの画像を開く。


 風呂上がりの、ほんのり上気した彼は、たまらなくセクシーできれいだ。こんなきれいな人が自分の恋人なのかと、信じられないような気持ちで見つめる。


 こんな素敵な人が、僕のことを好きでいてくれるなんて……。とてもうれしいけれど、会いたくてたまらなくなった。


 会って、キスして、抱きしめられたい。そんなことを思っていると、からだが反応しそうになって、僕は慌てた。




 翌日、病院で診察を受けた後、左腕は、手首から手の甲までしっかりギプスで固められた。医師は、ギプスにしたほうが確実だからと言う。


 とは言え、この状態のまま1ヶ月過ごさなければならないのだ。それまで一人で生活できないということは、マンションに戻れないといいうことで、つまり、彼の部屋にも行けない。


 もっとも、足はそんなに長くかからずに治るだろうから、彼と会うことはできるだろう。でも、その場合、母になんと言って出かければいいのだろう……。



 夜、スーツ姿の自撮りを送ってくれた彼に、さっそくそのことを言う。


―― 仁さんに会いに行くとき、お母さんになんて言えばいい?


―― 普通に、友達に会いに行くって言えばいいんじゃない?


―― でも僕、高校の頃からずっとぼっちだったから、急に友達なんて言ったらびっくりされるよ。


―― ネットで知り合ったって言えばいいんじゃない?


―― そうかなあ。


―― そうだよ。本当にネットで知り合ったんだし。



 ただし、彼は友達じゃなくて恋人だけれど、もちろん、それは内緒だ。


―― じゃあ、足が治って仁さんに会えるようになったら、そう言うことにする。


―― うん、それでいいよ。会える日を楽しみにしてる。



 捻挫と打撲だから、意外とそんなにかからずに出かけられるようになるかもしれない。うれしいけれど、いろいろ考えると、ちょっと不安だ。




 実際、1週間もしないうちに、足のケガはずいぶんよくなり、僕は二階の自分の部屋に移った。まだ痛みはあるし、上り下りは一段一段ゆっくりだけれど、多少の運動も兼ねて。



 夜、メッセージとともに、彼から自撮りが届いた。


―― 遅くなってごめーん。



 思いっきり変顔をしているのだが、それがとてもかわいい。噴き出しながら返信する。


―― こんなかわいい変顔初めて見た。ところで、今から電話してもいい?


―― えっ、それってもしかして?



 電話をかけると、出てすぐに彼が言った。


「今二階にいるの?」


「そう。今夜から自分の部屋で寝るんだ」


「階段は大丈夫?」


「まだちょっと痛いけど、ゆっくりならなんとか」


「無理しないでよ」


「大丈夫だよ。ソファは寝にくいし、ずっと下にいたら足の筋肉が弱っちゃいそうだから」


「なるほどね」


 それから彼は、感慨深げに言った。


「話すの、久しぶりだね」


「うん。仁さんの声が聞けてうれしい」


「僕もだよ。会えるまで、あともう少しだね」


「もう二、三日したら、運動がてら、近所を散歩しようかと思っているんだ」


「あっ、じゃあ、週末に近くまで会いに行くよ」


「え?」


「遠出はまだ無理だろ? だから、晴臣くんの家の近くまで行く」


「あ……」


「ダメ?」


「ダメじゃない。会えるのはまだまだ先だと思っていたから、うれしくて……」


「僕もうれしいよ。一緒にお茶でも飲もう」


「うん」


 うれしい。実家に帰って来たときは、もう当分会えないのだと思ってずいぶん落ち込んだけれど、あともう少し、ほんの数日後には会えるのだ。


 にやけていると、彼が言った。


「あのさ、晴臣くんの自撮りも送ってほしいな」


「変顔? あんまり自信ないけど」


「いいね、キス顔でもいいけど」


「えっ、ちょっと待ってね」


 キス顔は恥ずかしいので、唇を突き出した変顔をして、ギプスの手で投げキッスをするポーズを撮って送った。彼が笑い声を上げる。


「いいね、めっちゃいい」


 今さらながら、恥ずかしくなって、ちょっと後悔する。これなら普通のキス顔のほうがマシだったかも……。


 ひとしきり笑ってから、彼が言った。


「腕、早く治るといいね」


「うん」

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