言葉に詰まっていると、彼が助け舟を出してくれた。
「最初は普通に『いいね』したりコメントし合っていたんだけど、晴臣くんの空の写真が、すごく素敵だったんだ。それで、どんな人が撮ったのかと興味がわいて、僕からDMしたんだよ」
「へえ、そうなんだ。私も晴臣くんの写真、見てみたいなあ。アカウント教えてもらえる?」
「あっ……はい。最近は、ずっと放置したままなんですけど」
「仁兄ちゃんもそうだよね」
ちらりと彼を見ると、目が合った。彼は苦笑している。
アカウントを教えると、スマホを操作しながら彼女が言った。
「じゃあ、今のハンバーガーの写真、久々に上げたら? 仁兄ちゃんもそうしなよ」
「えっ、僕はもう、かじっちゃったよ」
「わあ、ホントだ。素敵!」
僕のSNSの写真を見た真子さんが歓声を上げた。
「また再開したら? フォローしちゃおうっと」
「あっ、じゃあ、僕も」
「えへっ、なんか強要しちゃったみたいだね」
「いえ、そんなことは」
彼女がフォローした通知が来たので、そこからフォロバする。彼女が言った。
「仁兄ちゃんも再開しなよ。そうだ、真子といる間、二人とも、ご飯その他モロモロの写真を撮ってSNSに上げること。いい?」
彼が言った。
「それは命令?」
真子さんが、ツンと顔を上げて言った。
「そうだよ」
スマホをしまい、ハンバーガーに取りかかりながら、真子さんが言った。
「あのね、SNSですごく当たるって評判の占い師さんがいてね、この後、そこに行きたいんだけど、いい?」
彼が答える。
「もちろん。僕たちは真子に付き合うために来ているんだから」
「だよね」
「何を占ってもらうの?」
「それ聞く?」
「いや、別に言わなくてもいいけど」
そう言う彼に、結局真子さんは自分から話し出す。
「乙女が占いをすると言えば、決まっているでしょう」
「恋愛?」
「まあね」
「真子、好きな人いるの?」
「それはまあ。片思いだけど」
「へえ、そうなんだ」
コーラをチュッとストローで飲んでから、真子さんが言った。
「二人も占ってもらったら?」
彼がひらひらと手を振る。
「僕はいいよ」
「でも仁兄ちゃん、ずっと彼女がいないじゃないの。イケメンなのに彼女が出来ないのは、何か問題があるんじゃない?
そこのところ、占ってもらったほうが……」
じっと二人の会話を聞いていた僕は、こちらを見た彼女と目が合い、ぎくりとする。
「晴臣くんは?」
僕は、首を横に振る。
「いえ、僕も」
「ふうん。晴臣くんは、かわいいからモテるか」
「そんな、全然。かわいくないし、1ミリもモテませんからっ」
ムキになって否定する僕を、一瞬、冷めた目で見た後、真子さんは、大きな口を開けてハンバーガーにかぶりついた。
「真子が勝手なことばかり言ってごめんよ」
「ううん、全然」
ここは、占いの館が入っている商業ビルの休憩コーナーの一角だ。ベンチが並び、壁際に自販機が置かれていて、読書をしている人や、ノートパソコンに向かっている人もいる。
僕たちは、真子さんが占ってもらいに行っている間、ここで待つことにした。カフェで待とうかとも話したのだけれど、ハンバーガーを食べたばかりでお腹がいっぱいだし、喉も乾いていなかったからだ。
彼がくすっと笑う。
「でも、ちょっと安心した」
「何?」
「晴臣くんかわいいから、真子が惚れたら困るなあと思っていたんだ。でも、好きな人がいるって言うから」
「かわいくないし、好きな人がいなくたって、僕になんか惚れないよ」
彼はニヤニヤしながら言う。
「君は自己評価が低過ぎだよ。真子だってかわいいって言っていただろ?」
「それは、子供っぽいとか童顔だとか、そういうことでしょう?」
彼が、さもおかしそうにくすくすと笑う。
「頑なだねえ」
「そんなこと……」
ムッとする僕に、彼が言った。
「でも、そういうところも込みで好きだよ」
「あ……」
相手もまんざらでもないから、素直な気持ちを伝えれば可能性は大いにあると言われたそうで、占いを終えてやって来た真子さんはご機嫌だった。
そのままビルの中をウィンドウショッピングしていると、すぐに夕方になった。
彼が、雑貨店のアクセサリーを手に取っては眺めている真子さんに言った。
「夜は何が食べたい?」
「焼肉!」
「どこか行きたい店はあるの?」
「ううん、別にないけど」
「じゃあ、この近くで探してみようか」
彼がスマホを出して操作する。真子さんが、僕を見て言った。
「勝手に決めちゃったけど、よかった?」
「もちろんです。僕も焼肉大好きだし」
「よかった」
彼女がほっとしたように微笑んだ。とてもチャーミングな人だと思う。
かわいらしいし、笑顔が素敵だし、きっと想い人ともうまく行くことだろう。
お腹いっぱい焼肉を食べ、デザートも食べて、僕たちは真子さんをビジネスホテルに送り届けた。彼が荷物を持って、一緒に部屋の前まで行く。
カードキーでドアを開けて、荷物を受け取りながら真子さんが言った。
「どうもありがとう。部屋で一休みして行く?」
彼が言う。
「いいよ。明日もあるから、僕たちはもう帰る」
「そっか。じゃあ、また明日もよろしくね。晴臣くんも」
「はい」
最初のうちは緊張したけれど、真子さんは明るくて気さくで、人見知りの激しい僕にしては、今日一日でずいぶん打ち解けられたと思う。
手を振る真子さんに見送られ、僕たちはエレベーターに向かった。
エレベーターの中で、彼がため息をついた。
「明日はケーキか。真子と一緒だと、おそろしく栄養が偏るな」
明日はランチもかねて、この近くのホテルのケーキバイキングに行くことになっている。すでに予約済みだ。
「でも、ホテルのケーキなんて初めてだから楽しみ」
僕の言葉に、彼が苦笑する。
「明日の朝ご飯は軽めにしておこう」
今日はこれから、僕も彼の部屋に行って泊まるのだ。
「甘くないものがいいね」
「じゃあ、ご飯に味噌汁かな」
「うわー!」
真子さんが歓声を上げた。
「すご……」
ホテルの広いラウンジには人が溢れている。そのほとんど、いや、ホテルの従業員と僕たち二人以外は、すべて女性だ。
だが、みな目の前のケーキに夢中で、僕たちに注目する人などいない。真子さんが、勇ましく拳を突き上げて言った。
「さあ、60分一本勝負よ」
60分間のケーキ食べ放題の始まりだ。
「ふー……」
「もう入らない」
お腹をさする僕たちを横目に見ながら、真子さんが言う。
「まだ時間はあるよ。もう一個くらいいけるでしょう」
そう言う彼女は、フルーツとクリームたっぷりのロールケーキをフォークで切り分けて口に運ぶ。
「晴臣くん、何個食べた?」
「ええと、5個かな」
「僕も同じだ」
真子さんが、素っ頓狂な声を上げる。
「え~っ、それだけ? それじゃ元が取れないよ」
「そうかな」
「別に取れなくてもいいよ……。そういう真子は何個目?」
「6個」
彼がおかしな声を出した。
「ほぇ~……」