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第22話 バスルームで

 そしてシャワーを浴びた後、僕たちは、パジャマを着てベッドで横になっている。今では、彼の部屋に、着替えもテディベアの部屋着も置いてある。


 もう日付も変わり、今はクリスマス当日だ。彼が言った。


「クリスマスが終わると、もう年末だね。なんだか早いなあ……」


「ホント。SNSで仁さんの写真を見つけたの、ついこの間みたいな気がするのに」


 彼が笑った。


「あれから3ヶ月かあ」


「それまで僕は、いつも一人ぼっちで、それが当たり前過ぎて、寂しいとも思っていなかった」


「そう。僕も似たような感じだったなあ」


「でも、今はもう、仁さんのいない人生なんて考えられない」


 それが今の僕の正直な気持ちだ。彼が、体をこちらに向けて、僕を見つめながら言った。


「大丈夫。これからの君の人生には、ずっと僕がいるから、もう一人ぼっちになることなんてないよ」


「あ……」


 そして、彼の顔が近づいて来て、唇と唇が触れる。彼の首のチェーンが、僕の喉元をくすぐる。



 何度かついばむようにキスを繰り返した後、彼がため息交じりに言った。


「さっきあんなにしたのに、またおかしな気分になってしまった。僕って淫乱だな」


 少し照れながら、僕は答える。


「僕は、してもいいけど、仁さん、明日、じゃなくて今日、お仕事でしょう?」


 彼は苦笑する。


「そうだね。年末は忙しいんだ」


 ふと思いついて、僕は言った。


「僕、年末まで毎日来てもいいよ」


 大晦日は、僕は実家で、彼は叔母さんの家、つまり真子さんのお母さんの家で過ごすことになっていて、次に会えるのは年が明けてからなのだ。


 彼が、切なげな表情で僕を見ながら言った。


「そうしてくれるとうれしいな。年末進行で、遅くなることも多いと思うから、合鍵を使って入って」


「うん、そうする」


 さっそく合鍵が役に立つことになった。彼のためにいろいろと準備を整えて帰りを待つことにしよう。


 僕も、すごくうれしい。彼が合鍵をくれたことも、毎日一緒に過ごせることも、何もかもが。


 彼のためなら、どんなことだってしたいと思う。愛しいっていうのは、こういう気持ちを言うんだろうか。


 そんなことを考えていると、彼がつぶやいた。


「晴臣くんが待っている部屋に帰れるなんて幸せだな」


 あなたを待つ僕も、とても幸せです。



 30日まで、毎日夕方頃に来て、多分、泊まって行くことになるだろう。


 もしやこういうのを「半同棲」と言うんじゃないのか? うわー……熱愛中のカップルみたいじゃないか。


 いや、「みたい」じゃなくて、まさにそのものなのだ。僕たち二人は、めっちゃ熱愛中だ。 うわー……。



 その夜、僕たちは、いつかのように手をつないで眠りについた。




 翌朝、マンションに帰ると、僕はもらった合鍵をキーホルダーに付けた。それは、叔父さんに部屋の鍵を渡されたときにすでに付けられていたキーホルダーで、ファッションブランドのものだ。


 高級マンションの部屋には、よく似合っていると思う。彼の部屋の鍵には、もっとかわいいキーホルダーを買って付けたいけれど、失くすといけないので、とりあえず。




 夕方、いつものスーパーでいろいろと惣菜を買って、彼の部屋に向かう。あのスーパーの惣菜が気に入った彼のリクエストだ。


 この僕が、食料を買って恋人の部屋に行き、留守中に合鍵で入るなんて、まさかこんなことがねえ……。ついついにやけてしまいそうになり、僕は何度も表情を引き締める。


 きっと彼は疲れて帰って来るだろうから、すぐにでも食べられるよう、それからお風呂の準備もして待っていることにしよう。いやあ、世の中には、こういう幸せもあるんだなあ……。




 部屋に着き、合鍵でドアを開けながら、僕は思う。あー、記念すべき初合鍵。



 サラダとデザートは冷蔵庫にしまい、温めるものは、電子レンジですぐに温められるように用意して、ケトルでお湯を沸かす。すべて整え、スマホを見て時間をつぶしていると、彼からメッセージが来た。


―― 今電車の中。あと30分くらいで着くよ。


 僕は、すかさず返信する。


―― ご飯とお風呂、どっちが先?


 こういうの、言ってみたかったのだ。


―― お腹ペコペコ。


―― じゃあ、帰ったらすぐに食べられるように準備しておくね。


―― ありがとう。




 チャイムが鳴った。僕は、急いで玄関のドアを開ける。


「おかえりなさい」


「ただいま」


 スーツの上にコートを羽織った彼が、優しく微笑む。ドアを閉めて部屋に上がるなり、コートのまま僕を抱きしめた。


 コートの生地が、ひんやりと頬に冷たい。


「寒かった?」


「うん。でも、こうして晴臣くんが迎えてくれるなんて、すごくうれしい。待っていてくれる人がいるっていいね」


「僕も、仁さんを迎えられてうれしい。お仕事お疲れ様」


「ありがとう」


 ああ、何もかもが幸せだ。




 何げない会話を交わしながらご飯を食べ、僕が後片付けを引き受けて、彼に先にお風呂に入ってもらった。


 片づけを終えて、手を拭いていると、バスルームから声がした。


「晴臣くん、ちょっと来て」


 何か用事だろうか。そばまで行って、ドアの外から声をかける。


「なあに?」


「そこ、ちょっと開けて」


 そう言われ、ちょっとドキドキしながら、細くドアを開けると、バスタブに浸かった彼が、笑顔でこちらを見上げながら言った。


「片づけが終わったなら、一緒に入ろう」


「えっ……」


「今さら照れる仲でもないだろ?」


 たしかに、もう何度も愛し合っているし、なんなら自分が見たことのない部分まで彼には見られているけれど、それでもお風呂に一緒に入るのは、また別の恥ずかしさがある。


 だが、戸惑っている僕に、彼は言った。


「ほら早く。体を洗ってあげるから、今そこで全部脱いで」


「え……」


 かっ、体を洗ってあげるって……。ただでさえ恥ずかしいのにっ!


「早くう」


 かわいい顔ですねたように言われ、僕は渋々うなずく。


「じゃあ、ちょっと待ってて」


 いったんドアを閉めて、僕はのろのろと服を脱ぎ始める。まったく、仁さんったら……。




 宣言した通り、彼は僕の体を、それは丁寧に洗ってくれたのだけれど。


 当然のように体が反応してしまい、結局、初めてバスルームで、した。すごく恥ずかしかったけれど、でも……。




「大丈夫?」


 彼が、横たわる僕の髪を撫でる。今は二人とも、パジャマを着てベッドの中にいる。


 バスルームで、初めてのやり方で激しく愛し合い、僕はへとへとに疲れてしまった。それで、パジャマを着た後、彼がドライヤーで髪を乾かしてくれ、ベッドに落ち着いたところだ。


 僕は、彼の顎の下に顔をうずめながら聞く。


「仁さんは疲れてないの?」


「ああ、ええと、ちょっとだけ」


「……ちょっとだけ?」


「ごめん。晴臣くんがかわいくて、つい興奮してしまった。痛かった?」


「痛くはない。でも」


「うん?」


「明日の朝、起きられないかも」


「あっ……そうか。じゃあ、寝てていいよ。そのまま夜までいてもかまわない」


「じゃあ、そうしようかな」


「うん、そうして。朝ご飯も昼ご飯も僕が用意しておくし、夜も何か買って来るから」


「うん……」


 彼に身を寄せたまま、いつの間にか眠ってしまった。

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