暗くなった頃、彼の部屋の前に着くと、中から灯りが漏れている。チャイムを鳴らすと、すぐに足音が聞こえて、ドアが開いた。
「待ってたよ。入って」
優しく微笑む彼は、僕がプレゼントした部屋着を着ている。後ろ手にドアを閉めると、彼が荷物を受け取ろうと、両手を差し出した。
僕は、ケーキの箱だけを差し出して言った。
「あの……」
「うん?」
首を傾げる彼に、僕は、もう一つの手提げを示しながら言う。
「これ、僕からのクリスマスプレゼントだよ。この前のお返しっていうか」
すると、彼が笑いながら言った。
「ああ、この前の四角錐のツリー? たしかにプレゼントするとは言ったけど、そういう意味じゃないよ」
「え?」
「とにかく入って」
促されて、僕は部屋に上がりながら、ダッフルコートを脱いだ。
「あれは、晴臣くんが気に入っていたし、僕の部屋にツリーを飾るから、君の部屋にも飾ってほしいと思っただけで、クリスマスプレゼントってわけじゃないよ」
「あ……そうなんだ」
なんだか拍子抜けする。
「でも、すごくうれしかったし、今日まで毎日あれを眺めて幸せだったから、仁さんにも何か贈りたいと思って」
「ありがとう」
シンクの横にケーキの箱を置いて、彼が振り返る。
「クリスマスプレゼントなら、別に用意してあるよ。じゃあ、ちょっと早いけど、まずはプレゼント交換からしようか」
「え……」
僕たちは、まだ何も置かれていないテーブルに向かい合って座った。壁際のツリーから、金色の天使たちがこちらを見ている。
さっそく僕は、プレゼントの箱を差し出す。
「気に入ってもらえるといいんだけど」
「へえ、なんだろ。楽しみだな」
彼が、箱にかかったリボンに手をかける。一生懸命に選んで買ったものだけれど、なんだかドキドキして来た。
「うわ、かわいい!」
彼が、歓声を上げて、一枚一枚手に取ってテーブルに並べる。それは、キッチン雑貨の店で見つけた5枚セットの小皿で、それぞれに違う猫の絵が描かれている。
白猫、黒猫、三毛猫、ブチ猫、トラ猫。すごくかわいいと思ったし、彼も猫が好きだと言っているし、猫を抱く彼の写真から二人の関係が始まったという意味でも、これ以外にはないと思ったのだ。
「……気に入ってくれた?」
「もちろん」
彼がにっこり笑う。
「すごく気に入ったよ。ちょっともったいない気もするけど、大切に使わせてもらうよ。
やっぱり食器は、使ってこそだもんね。どうもありがとう」
「うん」
喜んでくれて、ほっとした。よかった……。
大切そうに、再び小皿を箱に収めてから、彼が言った。
「それじゃ、今度は僕の番だよ」
そして、横の椅子から手に取ってこちらに差し出したのは、クリスマスカラーのリボンがかかった細長い小箱だ。
「ありがとう」
受け取りながら、いったい何が入っているんだろうと思っていると、彼が言った。
「プレゼントとは言いながら、実は僕とお揃いなんだけど」
「え?」
「まあ、開けてみてよ」
「あ……」
それは、小さなプレートがついた銀色のチェーンだ。彼がプレートを指差して言う。
「そこ、見てみて」
指でつまんで見てみると、正円ではなく、あえて少し歪んだような形に作られているプレートに、しゃれた字体で「H」とイニシャルが刻まれている。
じっと見つめている僕に、彼が言った。
「僕のは『J』だよ。一応プラチナ。指輪も考えたんだけど、これを見つけて、すごく気に入っちゃってさ」
いつまでも見つめていると、彼が心配そうに言った。
「晴臣くん?」
僕は、ようやく顔を上げて、彼を見る。
「すごく、うれしい」
うれし過ぎて泣いてしまいそうだ。彼が、もう一つの同じ箱を出して、中のチェーンを見せてくれる。
「ほらね」
プレゼントをもらっただけでもうれしいし、それがイニシャルの入ったチェーンだということが本当にうれしい。しかも、彼とお揃いだなんて……。
うるうるしている僕を見て、彼がにっこり笑った。
「着けてあげるよ」
そう言うなり、椅子から立ち上がってテーブルを回って来ると、僕の手からチェーンを受け取って、首にかけてくれる。金具を留めると、すぐに前に回って、確認するように僕を見ながら言った。
「うん。すごく似合ってる」
あー、うれしい。こぼれそうになった涙を拭いながら、僕も言う。
「仁さんにも着けてあげる」
「じゃあよろしく」
今度は、彼が椅子に座り、僕がチェーンを持って後ろに回る。背の高い彼を、この角度から見るのは初めてかもしれない。
首筋も、髪も、つむじさえもきれいだ。金具を留めると、そのまま僕は、後ろから彼に抱きついた。
「仁さん、ありがとう。大好き」
彼は、優しく僕の腕をさすってくれる。
「晴臣くんが喜んでくれて、すごくうれしい。僕も大好きだよ」
そのままの姿勢でいると、彼が言った。
「そうだ、忘れるところだった」
「……え?」
顔を上げると、彼が、僕の腕を外しながら言った。
「ちょっと待ってて。もう一つ渡すものがあったんだ」
ベッドのヘッドレストについている引き出しを開けて何かを取り出すと、戻って来て、僕に向かって差し出す。
「これ」
反射的に手を出すと、彼が手のひらに置いたのは。
「この部屋の合鍵だよ。僕が仕事で遅くなるときだとか、いつでも好きなときに来られるように」
「いいの?」
「もちろん」
「うれしい……」
感激している僕に、彼がにっこり笑って言った。
「さあ、食事にしよう。パーティーはこれからだよ」
僕は、ようやく我に返る。そう言えば、さっき部屋に着いたばかりだった。
彼が用意してくれた料理は、ローストビーフと、色とりどりの温野菜と小さく切ったバゲットのチーズフォンデュだ。
「すごい! 家でこんなの作れるの?」
彼が微笑む。
「意外と簡単なんだ。ローストビーフは表面だけフライパンで焼いたら、保存用の袋にいれて湯せんにするだけだし、チーズフォンデュのソースなんて市販のものを温めただけだよ」
「へえ……。でも、すごくおいしそうだし、見た目もきれい」
「晴臣くんは、お母さんと鶏モモを食べるって言っていたから、夜はビーフがいいと思って。チーズフォンデュも簡単で楽しいしね」
「ありがとう」
そこまで考えて作ってくれたのか。簡単だとは言いながら、切り方も盛り付け方もきれいで、プロが作ったみたいだ。
さすが、カフェ開店を目指しているだけのことはある。
「さあ食べよう。ケーキも楽しみだな」
彼は、後でのお楽しみだと言って、まだケーキを目にしていないのだ。クリスマスらしいかわいいケーキがいっぱいあって、選ぶのに苦労したのだった。
やっぱり今日は、生まれてから一番幸せなクリスマスイブになりそうだ。いや、すでにここまでだけでもそうなっている。
幸せ過ぎるぅ……。
彼の料理は最高においしかったし、小さくてかわいらしい、一人用のブッシュドノエルもおいしかった。もう一つ、色鮮やかなフランボワーズのレアチーズケーキも買ったのだけれど、二人ともお腹がいっぱいになってしまったので、それは明日の朝のお楽しみだ。
食事の後は、腹ごなしというわけではないけれど、いつにも増して、たまらなく淫らな時間を過ごした。
ツリーの天使たちに見つめられながらするのは、少し恥ずかしい気がしたけれど、すぐに気にならなくなった。というか、それどころではなくなってしまったのだった。