私たちが今日の晩御飯はなにかなーとお宿にある食堂に向かっている最中だった、もはや存在も忘れていたあの人が目の前に現れた。
「はぁはぁ、やっと、やっと見つけたぜぇ?」
そう言って息も絶え絶えで身体中ボロボロになっている……昨日の夜、高級旅館のプールで星の彼方まで飛んで行った兄貴分の方だった。
「いえ、私たちは特に用はないのでお引き取りください?」
私は言葉に圧をかけ、牽制する。
「いいや、いいや……そうもいかねぇんだ、俺にも引けない"理由"ができた」
全く、スクール水着の趣味のいい歳してそうなお兄さんが私たちみたいな学生を捕まえてなんだっていうのだろう。
「おい、お前たち俺の弟分……何処へやった?」
弟分……?そういえばこの人とは別の方向に飛ばしたっけ?
「さぁ? あなたとは別の方向に飛ばしたけどー?」
「なにィ? 本当か?」
表情から余裕がなくなり、顔も真っ青になっている。
「ノゾミちゃん、ノゾミちゃんここだとちょっと他のお客さんの邪魔になるかも~、場所移そう?」
「それもそうだね……あなた、私たち今からご飯食べるの、そこで詳しいお話、聞かせて?」
――――――
「さて、私たちはご飯食べながらで申し訳……いや別に申し訳なくない……よね?」
そうだった、そもそもこの人たちが私たちにちょっかいをかけてこなければ何も問題は起こっていなかったのだった。
「ノゾミちゃん~、それを言っちゃうと話が終わっちゃうよ~?」
「え? なんか勢いで話を聞くことになったけど冷静に考えると聞く必要なくない?」
「まぁ、それもそうか~?」
キョウちゃんも首を傾げ納得しつつあった。
「いやちょっとまて、その件は悪かった、ちょっかいもかけて悪かった、だから教えてくれアイツをどこまで飛ばした?」
「どこまでって……うーん、手加減はしたつもりだけど……」
「あれで手加減したのかよ……死ぬかと思ったぞ……」
「キョウちゃん、どれくらい飛んだと思う?」
「えぇ……流石に私でもわかんないよぉ~? あなたたちパーティー組んでなかったのぉ~?」
確かにパーティーを組んでいるとマップを開くと同じパーティーメンバーの居場所がわかる。
「いや、あいつとはあの旅館前で知り合って、なし崩し的に弟分になったんだ……パーティーはまだ組んでいなかった」
「……ノゾミちゃん、これはすごく面倒なことになる、断ろう」
「ちょ、ちょっとまってくれ!? 流石に知り合ったばかりとはいえ、弟分にしたんだ、そんなやつを放ってはおけない」
「別れ別れになった時の集合場所とかも決めてなかったのぉ~?」
「あ、あぁ、そういったこともまだ決めてなかった……」
「あのねぇ~? ちゃんとそう言ったことを決めてないのもダメでしょ~?」
キョウちゃんの言うことはもっともだが今さら言ってもしょうがない。
「出会って間もない、パーティーも組んでない、落ち合う場所も決めてない、お手上げだねぇ~?」
そう言ってキョウちゃんはバンザイをする。
「まぁしょうがない……か、飛ばしちゃったのは私だしね……?」
私がそう声を出すとキョウちゃんはやれやれといった顔になる。
「その人はこの街には戻ってきてないの?」
「あ、あぁ、今日1日探したのと、アカデミーで一応言伝もお願いしてある」
「じゃあ待つしかないんじゃない~? 一応このゲームでは"記録"している街には戻れるしぃ~、まぁ死に戻りか、アイテムを使ってになるけど~?」
でも戻ってきてないということはアイテムを所持しておらず、そして死に戻り……死ぬ事が怖いってことなんだろう。
「アイツは1人じゃ何も出来ない……と思う、知り合って間もねぇがアイツの抱えてる闇は深そうだった、おそらく"死"そのものに恐怖を抱いている」
と、言うことは飛んで行った先で助けを待っているか、ガクガクと震えているか……かぁ。
「まぁ~みんなそれぞれで色々抱えているもんねぇ~」
「しょうがない……手伝ってあげるよ、原因の1部は私にもあるし……ね?」
「手伝ってくれるのか? ありがてぇ、そういうことならここは俺に奢らせてくれ寧ろそれで手伝いの報酬にさせてくれ」
「……流石に安すぎない~?」
3人が顔を合わせ笑いあった。
まだ問題は解決してないが、こういう時間も大切にしたい。
「あ、でも昨日の件はまだ許してないからね?」
私はにっこりとそう告げた。