目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
竜さん買い取れ……ます?

 闘技場の受付のその奥、そこに私たちは通された。


 そこはいかにも偉い人が使ってますとわかるくらい立派な机や、来賓用に使われるであろう立派な装飾が施され、立派なテーブルクロス、それに座り心地が良いソファ。

 今そこに座っている。


「うぅ……今さらになって緊張してきたよ……」

「ノゾミちゃんがやり始めたことなんだからちゃんとやってよ~?」


 ようやく機嫌が治りはじめたキョウだが未だ完全には許してくれてはいない。


「……自分から見せてきたのにいつまでも拗ねないでよー」

「何か言ったぁ~? キョウちゃん~?」

「な、何も言ってないよー!!」


 私は小さく溜息をつく、もうすぐこの闘技場の偉い人が来る……はず。

 受付のお姉さんに話をしたいと告げたあと、一旦奥へ行き、それから私たちをこの部屋へ通してくれた、そして忙しい人なのですぐには無理……もしかしたら会えない場合もあるかもと言い残し、部屋を去っていった。


「来てくれるかなぁ」

「きっと来るでしょう~、昨日のことも噂になっているみたいだし~? 今さっき私たちがやったことも含めると……ね~?」

「うぅ……あんまり目立ちたくなかったのにぃ」


 私たちが談笑という名の反省会をしていると扉がガチャっと開いた。


「やぁやぁ、待たせてしまって申し訳ない、色々と後始末やら、手続きやら、色々することがあって、本当に申し訳ない」


 年齢はそこそこに見えるがその身体は鍛え抜かれ、また色々苦労したのであろう白髪と白いヒゲ、そして鋭い視線。


「さて、お嬢さんたち? なんでもあの竜を欲しいんだって? あの竜はあの状態だからこそ、ここでいるんだぞ?」


 その視線だけでもう怖気つきそうになり、ここから一刻も早く出て帰りたくなる。

 でも……それでも私は!!


「わかっています、すごく……すごく難しいことだって!! でもあんな状態の子を見たら放っておけません!!」

「お嬢ちゃん……それはこの闘技場にいる魔物全部引き取るっていう考えか?」


 あ……そうか……ここはそういう場所だ、あの子だけを引き取ったとしてもまだまだ他にもああいう子がいるってことだ。

 隣を見ると全てをわかっていたかのような顔のキョウちゃんがいる。


「……そうだよ、ノゾミちゃん、ここは遊びの場所じゃないし、何よりも絶対の檻に入れられ外に出られず、それでいて死なないように完璧に教育、管理をされている場所でもあるの」


 私は拳を膝の上でグッと握りしめる、それでも、私のエゴだとしても……あの子だけでも……!!


……あの子だけでもいいです!! いつかきっと私がここの子たちをみんな引き取ります!! だからあの子を引き取らせてください!!」


 そう言って、私は今持っている全財産を机の上に置く。


「これで足りないのなら私がここで戦い見世物ます!! だからどうか、お願いします……」


 最後はもうただの頭を下げての懇願になっていた。


「ふむ、なぜそこまであの竜を欲するんだい?」

「……正直わかりません、でも1目見たとき、あの子を助けてあげたいって、一緒に居てあげたいって思ったんです」


 闘技場の偉い人はどうしたものかと真上を向き、髭に手をやって考えている。


「……正直、あの竜がいなくなるとうちも稼ぎ頭がいなくなる、勝てないとわかっていても人は挑戦したくなり、その度にお金挑戦金を落としていってくれる、それも外でなら死ぬしかないがここでの挑戦なら死なないから余計に……な?」


 ダメかな、やっぱり私じゃあの子は救えない……?


「それにあの竜が仮に君に譲ったとしよう? するとどうなると思う? 次の傷ついた竜が用意されるだけだ」


 ……なんてひどい、私の頭の中は真っ白になりそうだった。


「さて、どうするかね? それでもあの竜を引き取りたいと言うかね?」


 どうすればいいの?私はいったい……?


「……はぁ~、ノゾミちゃん!!」


 ――パァン!!


 キョウちゃんが溜息をつきながら私の頭をはたいた。


「い、痛いよ!! キョウちゃん!? なにするの!?」

「あのねぇ~? 何をなやんでいるの~? ノゾミちゃんの覚悟はその程度なのぉ~?」

「だ、だって私じゃみんな魔物たちを助けられないよ!?」

「違うでしょ!! 今はあの竜さんをどうしたいかでしょ!! しっかりとしなさい、ノゾミちゃん!!」


 そうか、そうだよね……今はまずあの子だけでも!!

 そう思い、顔を上げ偉い人を見る。


「ふふっ、申し訳ない、試すような真似をしてしまい」


 何故かにこやかな表情で謝られた。


「重ね重ね申し訳ない、実はこちらとしても非常に助かる申し出だったのですが、中途半端な覚悟、思いだとたちまちあの竜にやられるとおもいましてね? それと安心してください竜以外の魔物は全て無傷で教育、管理していますし、あの竜を譲ったとしても変わりの竜は来ませんよ」


 え、え?どういうこと?


「そもそも死なないとわかっていても竜に挑戦する者なんていないんですよ、だってこわいでしょう? あの竜の維持費だけで私たちの経営は圧迫しかねないんですよ」


 ……試されていた?


「なのでお代も要りません、そのお金でまず竜を安全に連れて行けるよう竜専用の手綱を用意してください、こちらの条件はそれだけです」


 ……手綱?

 話が急に進み出し私の頭は理解が追いつかない。


「え? え?」

「用意できるまであの竜はここで今まで通りいてもらいますので安心を」


 えぇ……?

 だ、ダメだ頭が追いつかない。


「ノゾミちゃん~? 良かったね~?」

「う、うん? 良かった……のかな?」


 私たちをにこやかに見る偉い人。

 嬉しそうに私を見るキョウちゃん。

 戸惑い顔の私。


 それでも、うん、なんとかなりそうでよかった。

 もう少しだけ待ってってね、竜さん?

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?