さて、助けると言ってみたはいいが、どう見ても今は激昂しているので話は絶対通じない、激昂していなくても通じるかどうかは別問題。
「キョウちゃん、竜って言葉通じる?」
「え? う~ん、長く生きてる竜だと多分通じ……じる?」
可能性は0じゃないってことだね、じゃあとりあえず話が出来る様になるまで……大人しくなってもらおう。
「あ、あの~? ノゾミちゃん? 目が、目がね? もう覚悟決めました~ってなってるけど、本当にやるの~?」
「うん、決めたから」
このゲームではやりたいことをやる、そう決めているし、そうしたいし、何よりあんな子を放っておきたくない。
「わ、わかったよぅ~、私もまさかあんな状態の子を出されるとは思ってなかったし、私もやるよ~」
キョウちゃんが私の隣に来て同じように十字架を構える。
「ありがとう、ごめんね? わがまま言って」
「ううん、私こそごめんね~? ちゃんと確認しなかったから」
「でもだからこそ、あの子を助けられる、助けてみせる」
お互いの覚悟が決まったのを待っていてくれたのか、闘技場の審判役の人が高らかに、しかしそれでいて安全な場所から宣言する。
「昨日から噂になっている期待の新人の2人が今日はこれ! 闘技場で
その合図と同時に竜を閉じ込めていた鉄格子がゆっくりと持ち上がり、竜が今にも飛び出しそうに興奮している。
「キョウちゃん! 出し惜しみ無しで全力でいくよ!」
「もちろん! 手加減なんてしてられないもんね!」
鉄格子が完全に持ち上がり、手負いとは言えないほどの速さで竜は私たちの眼前に迫る、しかしそれと同時に私たちもいつもの
「キョウちゃん……あの子強くない? なんで普通にやって戦える相手を選んだハズなのに避けるだけでいっぱいいっぱいになるのかな? かな?」
キョウちゃんは視線を泳がせ、質問には答えない。
「あぁ、もう! とりあえずあなた! 少しだけ大人しくなって!!」
そう強く言って、十字架を隙だらけのお腹にめり込ませる。
その反対では背中にキョウちゃんも同じく十字架を叩き込んでいた。
「ど、どう? ちょっとは大人しくなってくれるかな?」
「Grrrrr……」
ダメだ、今の一撃で私たちのことを警戒しちゃったよ、出来れば今ので気絶するくらいにはしたかったんだけど。
竜は私たちを遠巻きから見つめ、近づいてこない。
「ノゾミちゃん、どうする~? あの子結構強いよ~?」
「じ、自分で選んだ対戦相手でしょ!? 私に言われても!?」
私たちが口論したその瞬間、竜が大きく息を吸い吐き出す、その吐き出した、息は
「え、ちょ、流石に炎は!?」
「ノゾミちゃん、私に任せて!!」
キョウちゃんが十字架を地面に突き立て炎からの盾にする。
「こんな炎に負けないんだからーーーー!!」
いつものキョウちゃんからは想像できないほどの声量と真剣な顔付き、見えない何かが十字架に乗り移り光り輝き……炎を防いだ。
「ノゾミちゃん……あと、お願い……」
そう言って、キョウちゃんは前のめりに倒れる。
炎の影響か辺りには煙、土煙がたち、竜には私たちの姿が見えていない、でも私には……キョウちゃんが残してくれた
「いっけぇーーーーーーー!!」
そう叫び、竜の頭上まで飛び、両手に十字架を握りしめ……振り下ろした。
竜の動きは止まった。