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走る、ただ走る

 私のわがままで競技場、主に陸上競技場と言われる場所へ来た。

 流石になんでも出来るが謳い文句のVRMMOゲーム、こういった現実世界でもある設備が街中にはある。


「それでノゾミちゃんどうする~? ただ走るだけじゃもったいないから賞金付きのレース……でる?」


 そう、これも「シームレス・オンライン」の売りのひとつ。

 お金はどんな手を使ってでも稼げ。


「うん、せっかくだし、現状お金はどれだけあってもこまらないしね? ただ……」


 そう、ただ私は生まれてこれまで走ったことがない、だからこそ、思いっきり走ってみたくてここにきたのだが。


「今まで走ったことがないからあんまり期待しないでね?」


 私はキョウちゃんにそう告げる。


「あはは~? さっきあれだけの動きで魔物を倒したんだからなんの問題もないよ~?」


 そう言ってキョウちゃんは手元にコンソールを呼び寄せ、操作を始めた。


「んっと~、1番賞金が良いのは……このレースかぁ~、はい! ノゾミちゃん、エントリーしたからね~」

「えぇっ!? もうエントリーしちゃったの!? 走ったことないんだよ!? せめて走る距離とか考えさせてよ!?」


 そう言いつつ、キョウちゃんの手元にあるコンソールを覗き込む、そこには種族、年齢、性別条件無し、100m走と表示されていた。


「100mならまぁ……でも条件無しって! 絶対に負けちゃうよー……」

「大丈夫、大丈夫~、さっきみたいに強く思いながら走ってみるといいよ~? 私は走れる、誰よりも早く! ってね~」


 キョウちゃんはそう言うが不安しかない。


 そこからはレースに向けての準備……と言っても仮想世界なので特にやることはない……のだが、不安からかやはち身体を動かしたり、ストレッチをしたりとしてしまう。


「ノゾミちゃんレースって言うか走ったことないのによく準備する事わかってるね~?」


 キョウちゃんがぼーっとしているようでキチンと私のことを見てくれていた。


「準備って言うかなんかただ待ってるだけじゃ落ち着かなくて……」

「そっかぁ……」


 そう言ってまた遠くの方を見つめる。


 そうこうしているうちにレースの時間がやってくる。


「ねぇ、キョウちゃん、棄権……いいかな?」

「あはは~」


 レースに出るのは8人、それもみんな男性、しかも何人かは明らかに獣人種のアバターでいかにも速そうである。


「大丈夫、大丈夫~、見た目に惑わされないで~」

「いやでもみんな男の人じゃん!? 体格的、体力的に絶対無理じゃん!?」


 そう、文句を言う私をキョウちゃんは、ほらほら、スタート位置に着いて~と背中を押す。


「良い? ノゾミちゃん、さっきも言ったけど思いが強いほどこの世界では強くなれるから、スタート位置に着いたら集中だよ?」


 そう言って送り出してくれた。

 あぁ、もう逃げれない……やれるだけやろう、そしてこんな状況ではあるが走れることに感謝し、ただただ思いっきり走ろう。

 そう、心に決め、スタート位置につく。


 すると、ゲーム開始時の時……オオカミと戦った時と同じように光に包まれ、その時と同じく体操服姿になった。


 (なんだろ、これ? でも走りやすいし、いっか?)


 そして、見様見真似、軽い練習でやったクラウチングスタートの体勢をとる。

 この時周りのことは何も意識せずただスタートの白線を見つめ……スタートのピストルが鳴る。


 その瞬間私は走り出す、前へ前へ、足を1歩ずつ確実に。


 気がつけば1着でゴールしていた、それどころかまだ他の人は半分にも達していない。


 (なにこれ? いみわかんない!!)


 会場は歓声とどよめきに支配された。

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