キョウちゃんが高らかに素材の買取をお願いするとアカデミー内がどよめいた。
「おいおい、素材の取引だって? 始めたばっかりの初心者が何を狩ったっていうんだ?」
「もしかして最弱のモンスターでも狩ってきたっていうのかな?」
「あんなの狩っても対した金にならねーし、時間のムダだろ」
周囲はそう言って私たちを嘲笑している、だけどキョウちゃんは自信満々の顔でアイテムポーチを差し出している。
「ほらほら、ノゾミちゃんも早く~」
そう言って私にもアイテムポーチを受付のお姉さんに差し出すようにうながす。
お姉さんは黒髪のロングヘア、黒縁メガネをかけており、いかにも職員の制服です!といった服を着ている。
「え、えっと? じゃあ一応中身の確認を致しますね?」
お姉さんも若干戸惑いながら私たちのアイテムポーチを引き取り中身の確認を始めた。
「ねぇ、キョウちゃん、なんでみんなあんなに面白おかしそうにしてるの?」
「ん~? 多分私たちが狩ったモンスターを知らないからだよ~、初心者でアレを倒せるのなんてそうそういないもん~」
そうなのかな?確かにちょっと怖い見た目だったけど、私みたいな初心者でも倒せたんだから、他の人でも倒せると思うんだけどなぁ?
「えぇ!? こ、これウルフの素材じゃないですか!?」
NPCであるはずの受付のお姉さんが大声をあげる。
「え? ウルフってあのウルフ?」
「いやいやあんなお嬢じゃん達がウルフを……」
「あんなおっかないモンスターを狩れる訳がない」
お姉さんの声を皮切りにまた周りに囁かれる、たださっきと違い、嘲笑ではなく驚愕の声だ。
「え、えと、ウルフはまだ討伐者がいないため一旦仮の金額をだしますね? キチンと査定と検品後さらに上乗せという形で後日支払わせていただきます」
そうお姉さんが言うと同時に、カウンターの上に数え切れない程のコイン?が現れた。
「ん、ありがとう~、さぁ、ノゾミちゃんこのお金は半分こだよ~」
そうキョウちゃんが言うと同時にコインが目の前から消えた。
「あ、あのコインってこの世界のお金なんだ? どれくらいの金額になったのかな?」
「ん~、始めての討伐と言ってもやっぱり一番最初の初心者用の魔物だからね~、普通の宿屋さんに1週間はご飯付きで泊まれるくらいかな~?」
それって結構な金額じゃないのかな?
私たちがそんな会話をしながら冒険者アカデミーを出ようとしている間もアカデミー内はまだどよめきに包まれていた。
「そうだ、キョウちゃん? なんでみんなあのオオカミ? ウルフ? を倒しただけでこんな大騒ぎになってるの?」
キョトンとした顔になったキョウちゃんは笑いながら答えた。
「だって、ノゾミちゃん? 普通目の前にオオカミがいたらどうするこ? 戦おうって思える? いくらゲームの世界とはいえ、みんな何かしらのハンデを背負って現実世界で生きていたんだよ~?」
なのに急にオオカミなんか怖いでしょう~と笑いながら扉をくぐり抜け、アカデミーの外へと出ていった。
「ん~……ノゾミちゃん? 先にお宿決める? それともなにかやりたい事ある?」
……ぶっちゃけある、目が見えるようになり、この世界でやりたいことはある。
「その顔はあるんだねぇ~、いいよ、できるかどうかは別として言ってみて~」
キョウちゃんに促され答える。
「えっとね、目が見えるようになったし、景色も見えるし……」
「うんうん~」
「お、思いっきり走ってみたい……です」
「そっか、そっかぁ~、走りたいんだねぇ~」
なぜか遠い目をするキョウちゃん。
「だ、ダメかな?」
「あ、ううん、大丈夫だよ~? ただ私は案内もするし、応援もするけど……ごめん、走るのだけは一緒にできないんだ、ごめんね~」
……キョウちゃんが一緒に来ると言った時に言っていたこの世界に来た訳が理由かな?深く、詮索はしないでおこう。
「うん、大丈夫、キョウちゃんの応援心強いよ!」
「じゃあ競技場の方に行ってみよう~」
私たちは次の目的地を決め、未だ騒然としているアカデミーを背に競技場へと歩を進めるのだった。