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始まる新しい生活

「さってと~喜屋武ちゃん……言いにくいなぁ、杏ちゃん、なにしよっかぁ~?」


 同じ見た目だが口調は全然違うもう1人の私がそう問いかける。


「ここは旅立ちの場所だけど、あんまりもぼ~っと突っ立っていると少ないとはいえアクティブモンスターに襲われちゃうよ~?」


 見渡す限りの草原、所々に木々は生えているが遮蔽物という遮蔽物はない、つまり私たちは今良い的、ないし獲物になりかねない。


「今井さん、この近くに街とかある? ひとまずそこまで避難しよう」


「うんうん、順応力高いねぇ~、いいと思うよ~」


 目の前で腕を組みうんうんと頷く今井さん、今はそんなことよりも避難したいんだけど……


「でももう遅いかな~☆」


 そう言った瞬間私たちはオオカミタイプの魔物に囲まれていた、獲物を見つけたオオカミたちはグルグルと喉を鳴らし私たちを取り囲むように、そして逃げられない用に円を描きながらゆっくりと近づいてくる。


「……今井さん? 初期配布されるって言ってたアイテムや武器は?」


「そこにあるよ~」


 指さした先には腰、右側にはポーチが、左側にはナイフが。


「ポーチには回復薬が入ってるから、危なくなったら飲んでね~」


 そう言いながら今井さんはナイフを右手で取り出し、逆手に持つ、私はそういう経験なんてもちろんないので右手で普通に持って、オオカミに目を向ける。


「いい、杏ちゃん? この世界には武器や防具はあるけど、ステータスも魔法も何もない、あるのはただただ自分の思い込みの力だけ、それ故にネームレス」


 なるほど、自身の力だけでこの場を切り抜けないとダメってことね。


「ただ杏ちゃんはこの世界においてさっきも言ったけど順応力がずば抜けている、最初にやった適性試験でも普通じゃない力を出した」


 つまりどういうことなのだろうか?いつオオカミが襲ってきてもおかしくない状況で私は冷や汗が顎を滴り落ちる寸前だった。


「思いっきり、なりたい自分、なりたかった自分……開放しちゃお? 現実でなれなかったけど、ここではなんにでもなれるよ、杏ちゃんなら」


 なりたい私……そういえばずっとここに来てからそう聞かれてるなぁ……なりたい私……やってみたいこと……私に今できること……


「決めた! 私は私のやり方でこの世界で生きる!!」


 そう宣言し、私は目の前にいたオオカミ1匹にナイフを投擲、命中、その行動にオオカミ達は硬直する。


「私はここで……魔法少女になる! 困っている人がいれば助ける! 魔物がいっぱいいあるになら退治する! それに……友達と一緒にいっぱい遊ぶ! だからこんなところでつまづいていられない!!」


 そう宣言すると私の身体が変化を始めた、ここに来た時はローブに皮の服に短い皮のズボン、皮の靴だったが、今は"体操着にスポーツ靴"に変化した。


「……普通もっと可愛い服に変化じゃない? ここは?」

「ま、まぁまだチュートリアルだしねぇ~、これから可愛い服、いっぱい買えるようになっていこう?」


 そう言った今井さんも同じ格好になっていた。


「あれ? なんで?」

「細かいことはあとあと~、あと6匹いるよ~!」


 思い込む、私はいま普通じゃない、魔法少女だ。

 力……全身の力はいつもより比べないくらいに強くなっている。


「ふっ!!」


 その1呼吸で1匹のオオカミの横にたどり着きそのまま右手を握り込み……


「ごめんね、でも私はまだこんな所で終わりたくないから」


 そのまま振り抜いた。

 その光景を見た残りのオオカミは勢いを無くしたのか徐々に距離を取り出した。


「杏ちゃん~! オオカミさんたち戦意喪失してるけど全部やっちゃうよ~! せめて今日の私たちのご飯と宿のために!!」


 そう言った今井さんも逆手に持ったナイフで器用に立ち回りに瞬く間にオオカミを切り伏せていく。

 私も負けずとさっき投げたナイフを拾い、残りのオオカミに切りかかる。

 戦意がなくなったオオカミは逃げることもできずあっさりと倒すことができた。


「うんうん、やっぱり杏ちゃんすごいねぇ~」

「そ、そうかな?」


 正直今起こった出来事で私はもう精神的にいっぱいいっぱいになった、初めての事すぎてもう頭がパンクしそうだ。


 ――――――

 ユグドラシル、それがこの街の名前。

 街の中央には大きな樹がそびえ立ち街はそれ中心とし、様々な建物が建っている。


「ふぅ、何とか無事に着けたねぇ~」


 私と今井さんは元の姿、ローブに皮の服とズボン、靴にもどっている、どうやらこの格好が初期装備と言うやつらしい。


「とりあえず、冒険者アカデミーに行こっか~、

 さっきのオオカミさんの素材を引き取ってもらってお金に替えよう~!」


 倒したオオカミは自然に消え、ランダムドロップされた素材がポーチの中に自動で収納されていた。

 アカデミーの場所や素材についてはまだ私はよくわからないので今井さんについて行くことにする。


「そうだ、杏ちゃん、いつまでもリアルネームで呼びあっていてもあれだからネットネーム登録しようか~」


 確かにここは現実ではなく仮想世界……その方がいいのかな?でも急に名前を考えるとなると……


「私はキョウでいいよ~やっぱり杏の別名と言ったらキョウでしょう~」


 満面の笑顔で今井さん、もといキョウさんがそう言う、私はどうしようかな。


「ん~……杏の花言葉からノゾミでどうかな?」

「いいと思うよ~! じゃあ今から私たちはキョウとノゾミね~!」


 お互い笑顔になりつつアカデミーを目指す。


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