朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みながら、ミラは静かな廊下を歩いていた。昨夜、ベロニカと語り合ったことで少しだけ肩の力が抜けた気がしていた。訓練のない今日、部屋でゆったりと休もうと決めていた矢先に、遠くからオズの大きな声が耳に届く。

「おーい！ミラ！今日は街に行かないか？また何か面白いものが見つかるかもしれない！」

オズがこちらに向かって手を振りながら走ってくるのが見える。ミラは少しためらいを覚えたが、前回街へ出たときのことを思い出し、どこか胸が躍るのを感じていた。異世界の街並みや、見たことのない食べ物、奇妙な生き物が行き交うバザール。前回は何もかもが新鮮で、完全に楽しむにはまだ心の準備ができていなかったが、今日はもう少し余裕がある気がしていた。

「仕方ないわね……」ミラは小さく息をつきながらも、心の奥では少し嬉しさがこみ上げてきていた。オズはその返事に満面の笑みを浮かべ、元気よく「よし、行こう！」と声をあげる。

そこへ、ベロニカとギルバートも合流してきた。「私たちも一緒に行くわ」とベロニカが少し照れくさそうに笑い、ギルバートも「たまには探索もいいだろう」と静かにうなずく。

こうして4人は連れ立って城を出発し、街の中心に向かって歩き始めた。広場に着くと、活気に満ちた市場の景色が広がり、色とりどりの露店がずらりと並んでいる。目に飛び込んでくるのは、異世界ならではの独自の装飾品や、鮮やかな色合いの果物、そして見たこともない動物を売る露店などだった。ミラはその光景に思わず足を止め、前回以上に心が躍るのを感じていた。

「ミラ、見て！この果物、また売ってるよ！」オズが指さしたのは、少し不気味な見た目をした果物の山。前回、ためらいながら口にした果物が意外に美味しかったのを思い出し、ミラは微笑みを浮かべた。

「また食べてみたら？」とベロニカが促す。ミラは少し照れくさそうに果物の切れ端を手に取り、口に運んだ。甘酸っぱさが口の中に広がり、前回の記憶が蘇ってくる。

「意外と美味しいのよね……見た目に反して」

「だろう？こういうのが異世界の楽しさってやつさ！」オズが楽しげに笑いながら、他にも色々試してみようと提案する。ミラは「無理に押し付けないでね」と言いながらも、心の中ではワクワクする気持ちが少しずつ広がっていた。

しばらくして、ギルバートが異世界の独特な装飾品に目を奪われ、そっと手に取った。「ミラ、これを見てみろ。異世界の手仕事で、非常に緻密に作られている」

ギルバートが持っていたのは、手のひらに収まるほどの小さな装飾品で、色鮮やかな石が埋め込まれ、複雑な模様が彫り込まれていた。ミラは静かにそれを受け取り、指で模様をなぞる。異世界の技術に触れたその瞬間、心の奥で微かな感動が湧き上がった。

「すごい……こんな細かい細工、見たことないわ」

「異世界ではこれが普通なのよね」とベロニカが言うと、ミラは静かにうなずいた。異世界の風景や文化、そしてそこに生きる人々。ミラはその場の空気を全身で受け入れるように、再び歩き始めた。

昼過ぎにはさらに奥のバザールに入り込んでいた。そこには、より風変わりな品々が並び、異世界特有の魔法で動く玩具や道具も売られている。オズが「これ、面白そうじゃないか？」と言って見せたのは、小さな魔法で動くロボットのようなもので、触れると勝手に動き出す仕掛けが施されていた。オズが楽しげに操作しながら笑うのを見て、ミラは少しだけ微笑んだ。

「君もやってみるといいさ！」とオズが手渡してきたロボットを受け取ると、ミラはその動きに釘付けになった。自分が操作しなくても、ロボットがまるで意思を持つかのように動き回り、周囲の人々を驚かせていた。

「こういう異世界の品々って、なんだか不思議ね……」ミラがぽつりと呟くと、ベロニカが笑って言った。

「ねぇ、ミラ。こうして仲間と歩くのも悪くないでしょ？」

彼らと過ごすうちに、ミラの心は少しずつ解放されていくのを感じていた。家族を失い、深い悲しみに閉ざされていた彼女が、もう一度誰かとつながり、楽しさを共有する。その喜びが、彼女の胸の奥でゆっくりと膨らんでいくのだった。

「確かに、こういう日も悪くないわね……」と、ミラが小さく呟いたその瞬間、ベロニカが軽く微笑むのを見て、ミラも少しだけ笑みを浮かべた。

少しずつ、彼らと過ごすことで心が解放され、ミラはもう一度、人とのつながりを感じ始めていたのだった。