ミラは、オズと別れて一人で街の道を歩きながら、再び孤独な感覚に包まれていた。夕闇が街を覆い始め、街の喧騒が徐々に静まっていく中、彼女は胸の中に渦巻く怒りと孤独感に耐えていた。友達なんていらない――ミラの心には、その強い決意だけが残っていた。
「もう誰にも頼らない……誰も信じない……」
彼女は無意識に呟きながら、歩みを止めた。空はもう完全に暗くなり、足元の影が長く伸びていた。胸の奥に燻っていた感情が、少しずつ外に溢れ出しそうになっていた。
「こんな感情、いらない……」
その瞬間、足元の石畳が微かに揺れた。ミラは驚いて下を見たが、地面が普通であることにすぐに気づいた。しかし、その感覚は確かに何かが違う――まるで自分の感情が周囲の世界に干渉しているような、得体の知れない感覚だった。
「……どうして……?」
ミラは胸に手を当て、その奥にある抑えきれない怒りと孤独感を感じ取っていた。彼女は復讐のために生きると決めたはずだった。しかし、オズとの短い会話や、自分の無意識の感情が徐々に彼女を苦しめていた。心の中に湧き上がる感情が、彼女の体に奇妙な感覚を与えていた。
足元が再び揺れ、彼女の周囲の空気が微かに揺らめいた。街灯が一瞬、ちらつき、まるでミラの感情に呼応しているかのように光が不安定になった。彼女はその現象をじっと見つめ、次第に自分の感情が周囲に影響を与えていることに気づき始めた。
「私が……?」
手を見つめると、彼女の指先にわずかな震えが感じられた。感情が高ぶるたびに、その震えが強くなり、周囲の空気がピリピリと張り詰める。まるで、自分の内側に隠された力が呼び起こされようとしているかのように。
「止まって……!」
ミラは叫んだが、心の中の感情が抑えられることはなかった。それどころか、ますます激しくなり、彼女の周りの世界に干渉し始めていた。目の前の街灯が一瞬明滅し、彼女の後ろにある建物の窓ガラスがカタカタと音を立てて震え始めた。
「どうすれば……」
彼女は混乱し、立ち止まって深呼吸をしようとした。しかし、怒りと孤独感が彼女を支配していた。ポレモスへの復讐心、父を失った悲しみ、そのすべてが彼女を縛りつけ、力が制御不能に陥っていた。
ミラの心の中では、記憶が次々と蘇ってきた。かつての平和な日々、父と一緒に過ごした温かい時間、そしてポレモスとの出会いと裏切り――すべてが彼女の胸を引き裂き、感情を爆発させる原動力となっていた。
「私は……こんな力なんていらない!」
彼女は叫び、拳を強く握りしめた。その瞬間、彼女の背後でガラスが一気に粉々に割れた。周囲の物体が震え、街灯が明滅し続ける。彼女の感情が暴走し、目に見えない力が次第に膨れ上がっていく。
ミラは目を閉じ、何とか自分を落ち着かせようとした。深く息を吸い込み、心を静めようとするが、それでも感情は完全に消え去ることはなかった。しかし、徐々に力の暴走が収まり、周囲の街も静けさを取り戻していく。
「私が……やってるの?」
彼女は震える手を見つめながら、これまで感じたことのない力が自分の内側で渦巻いていることを理解した。感情が高ぶるたびに、自分の周囲が変わり、力が暴走する。この力を制御することができなければ、彼女は――。
ミラは静かにその場を離れ、再び歩き始めた。今まで感じたことのない恐怖が彼女の胸に芽生えていた。自分の力は何なのか、そしてそれをどう扱えばいいのか。その答えが見つからないまま、彼女は夜の闇に消えていった。