オズと共にバザールの通りを歩くミラ。彼女の表情は依然として無感情で、少し苛立っているように見えたが、オズのペースに引きずられる形で歩みを進める。バザールはさらに賑やかになり、耳に入る音や目に映る光景が、彼女の感覚を刺激していた。
「なあ、ミラ、これ見てみろよ!」
オズが指さした先には、金色に輝く奇妙な生き物が檻の中で跳ねている。ミラは最初、無関心そうに見つめていたが、その生き物の動きがまるで踊っているかのようで、思わずもう一度視線を送り直した。
「……あれ、何なの?」
「これは『ダンシングフェリア』っていうんだ。跳ねながら音に合わせて踊るんだぜ。ほら、試しにこいつに歌ってみろよ!」
「……冗談でしょ」
ミラは無表情のままそっぽを向こうとしたが、オズはそれを許さず、軽く手を引いて檻の近くに誘った。ダンシングフェリアがミラの目の前で跳ねながらくるくると回る姿に、ほんの少しだけ彼女の胸が動いた。内心では、奇妙だが面白いと思っている自分がいた。
「ほら、楽しそうだろ?」
オズの言葉に対してミラは何も答えず、そのまま歩き出した。しかし、彼女の心の中には、わずかな興奮が残っていた。
「お、こっちはどうだ?」
オズが再び立ち止まったのは、屋台で売られていた異世界の食べ物だった。カラフルな果物や、見たことのない形の菓子が並んでいる。ミラは最初、無関心に見えたが、オズが興奮気味に「食べてみろよ」と渡してきた果物に手を伸ばした。
それは紫色の果物で、触った瞬間に少し冷たく感じた。恐る恐る一口かじると、中から甘酸っぱい果汁が広がり、ミラは一瞬驚きの表情を浮かべた。
「……どうだ?」
「別に……普通」
そう答えたものの、ミラの中にはほんの少しの満足感が広がっていた。知らないものに触れることへの抵抗感が次第に薄れ、むしろこの異世界のものに興味を抱き始めている自分に気づいていた。
「なあ、こっちにも珍しいものがあるぜ!」
オズは次々と異世界の品々をミラに勧め、彼女も最初は渋々ながらも、少しずつそれに応じていった。カラフルな飲み物を手に取り、青い果物のジュースを一口飲むと、彼女の中に広がる新しい感覚が、彼女の興味を引きつけていく。
「ほら、もっと楽しめよ」
オズがそう言いながら笑顔を見せる一方で、ミラは相変わらず無表情だった。だが、心の奥底では、新しい世界に触れることに対するわずかな期待感が湧き上がっていた。彼女はそれを表には出さない――少なくともまだ――が、この世界の未知のものが、彼女の感覚を少しずつ刺激していることは確かだった。
彼女は次の屋台で奇妙なアイテムを手に取り、それをじっと見つめた。内心で「何だろう?」と思いながらも、表情には出さない。だが、その瞬間、彼女の心は少しだけ躍っていた。
「まあ、いいんじゃない?」
そうぼそっとつぶやき、ミラはオズとともに次の場所へと向かった。外見こそ無感情のままだが、彼女の心の中には、異世界への新たな興味が少しずつ芽生えていた。