ミラはまだ朝の冷たい空気を感じながら、硬いベッドから起き上がった。昨夜のことが脳裏をかすめる――この新しい場所、異世界にやってきたこと。彼女の目的はただ一つ、アンドロイドへの復讐だ。窓の外に広がる青い空は、どこか遠い世界とつながっているかのように、彼女に新たな一歩を促しているように感じた。
突然、部屋のドアが軽くノックされる音がした。ミラが答える前に、シルヴァンが静かに部屋に入ってきた。
「おはよう、ミラ。今日は大事な日だ。皆と顔合わせをする前に準備を整えてくれ」
シルヴァンの声はいつも通り冷静だったが、その言葉にはどこか期待感が込められていた。ミラは無言で頷き、部屋を出る準備を始めた。彼女の頭には、過去の記憶と新しい環境への不安が交錯していたが、そのすべてを隠しながら、自分の決意を強く胸に刻んでいた。
城内の廊下は静寂に包まれており、ミラはその中をシルヴァンとともに歩いていた。長い大理石の床が反射する朝の光が、彼女の足元を照らしている。無機質でありながらもどこか温かさを感じさせるこの場所は、これから彼女が過ごす「家」になるのかもしれないという思いが、わずかに心をかすめた。
「大丈夫か?これから会う連中も、君と同じように新しい環境に来た者たちだ」
シルヴァンが気遣いを見せるが、ミラは無言で歩を進めるだけだった。やがて彼らは大広間の扉の前に立ち、シルヴァンがそれをゆっくりと押し開けた。
広間の中央には3人の人物が待っていた。広々とした部屋の中心に置かれた大きなテーブルを囲むようにして立っており、彼らもまた、何かを期待しているようだった。
ミラの視線は最初に、端正な顔立ちの少年に止まった。彼は静かに立ち、冷静な瞳でこちらを見つめ返していた。美しい金髪が光を浴び、サラサラと風に揺れている。その姿はどこか優雅で、まるで絵画から抜け出してきたような印象を与えた。
「僕はギルバート。君が新しい仲間なんだね。これからよろしく頼むよ」
ギルバートの声は低く穏やかで、彼の外見にふさわしい落ち着きを感じさせた。ミラは短く頷くにとどめたが、彼の真剣な眼差しには何か誠実さを感じさせるものがあった。
次にミラの目に入ったのは、もう少し年上に見える黒髪の少年だった。彼は少し癖のある髪を手でかき上げながら、明るい笑顔を浮かべていた。
「俺はオズだ。みんなを引っ張っていくリーダーになるつもりさ。困ったことがあったら、いつでも言ってくれよ」
オズの笑顔は屈託がなく、彼の言葉にはどこかリーダーシップを感じさせるものがあった。彼の姿勢や言動からは、自然と人を引きつけるような魅力が溢れていた。
最後に、紫色の髪を持つ少女がミラの目に入った。彼女は短い挨拶だけで済ませるように肩をすくめ、少し生意気な様子で口を開いた。
「私はベロニカ。余計なことは言わないけど、よろしくね」
彼女の頭には2本の黒い角が生えており、その存在感が異質な雰囲気を漂わせていた。彼女の紫の髪は光に照らされて、まるで宝石のように輝いていたが、その瞳には冷たい鋭さが宿っていた。
ミラは静かに3人の紹介を聞いていた。彼女の表情は変わらず無感情のままだったが、内心ではこの場の空気を慎重に読み取ろうとしていた。
「じゃあ、これで一通り自己紹介も済んだことだし……握手でもして、仲良くやろうぜ」
オズがにこやかに手を差し出し、ミラに握手を求めた。しかし、ミラはその手を一瞥するだけで、何も言わずに顔を背けた。
「……今は気分じゃない」
彼女の冷たい拒絶に、一瞬の静寂が部屋を支配した。ベロニカが彼女を睨みつけ、ギルバートも困惑した表情を浮かべたが、オズはそのまま穏やかな笑顔を崩さなかった。
「そっか、無理に握手しなくてもいいよ。まぁ、これからゆっくり仲良くなればいいさ」
その時、シルヴァンが軽く肩をすくめ、ミラに声をかけた。
「ミラ、少し落ち着け。今はまだ緊張しているだけだろう。ここは皆、君と同じ目的を持った仲間だ。無理する必要はないが、手を差し伸べてくれれば、きっと良い関係を築けるはずだ」
シルヴァンの言葉に、ミラはわずかに目を伏せた。彼女は一瞬だけ考え込んだ後、静かに息をつき、オズの差し出した手を取った。
「……よろしく」
オズは微笑んだまま握手を返し、その場にいた皆が少しだけ安心した表情を見せた。こうして、4人の新たな関係が始まった。互いにどんな道を歩むことになるのかはまだ誰もわからないが、この出会いがそれぞれの運命を大きく変えていくことになるのは確かだった。