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第15話 「新しい始まり」

グリムスは、夜空を静かに滑るように飛び続けていた。翼を大きく広げ、月明かりに照らされる銀色の鱗がまるで星の光を反射して輝いている。ミラはその背中にしっかりと座り、風を受けながら夜空を見上げた。彼女の心は冷静でありながらも、これから何が待ち受けているのかを無意識に感じ取っていた。


上空はただ静かな夜ではなかった。遠くの空に、一点だけ異様な光を放つ場所があった。それは、空にぽっかりと開いた巨大な穴――ワームホールだった。複数の光が渦を巻くようにして回転し、その中心には異世界へと通じる歪みが広がっていた。まるで次元そのものがねじれているかのように、空間が不安定に揺れていた。


「見えるか?あそこだ」


男がミラに声をかけ、指を差した。その先には、確かにワームホールが待っていた。異世界へと繋がる道――そこは、多次元同調世界の影響を受けた場所であり、彼女の新たな運命が待ち受ける場所だった。


ミラはその光景を黙って見つめ、冷静に頷いた。力を手に入れるには、この道を進むしかない。彼女の瞳には、決して揺るがない意志が宿っていた。


グリムスは、まるでミラの決意を感じ取ったかのように、翼を力強く振り上げ、ワームホールへ向かって加速した。風がさらに強く彼女の髪を揺らし、空気が彼女の周囲を疾走する。ミラはしっかりとグリムスに掴まり、次元の裂け目へと突き進んでいった。


ワームホールに近づくにつれ、空気が重く、異様な圧力が彼女の体にかかるのを感じた。空が次第にねじれ、光と闇が渦を巻くようにして混ざり合っている。その中心部は、まるで空が裂けているかのように暗黒が広がっていたが、そこには別の世界への道が隠されていた。


「これから、君は新しい世界へ足を踏み入れるんだ。今の世界とは、違う場所だ」


男は冷静に言葉を投げかけたが、その言葉に恐れは含まれていなかった。むしろ、それはミラの覚悟を試すようなものであった。


「……問題ないわ」


ミラは短く答えた。その言葉には強い決意が込められていた。今や彼女には、迷いも不安もない。復讐を果たすための力を手に入れるためには、この道を進む以外の選択肢はなかった。


グリムスは大きく翼を振り上げ、ワームホールの中心へと飛び込んだ。彼女が目の前に見るのは、まるで宇宙空間に飛び出すかのような、無限の闇と星々の光が交錯する光景だった。世界がねじれ、目の前に無限に広がる次元の裂け目に、グリムスは迷うことなく飛び込んでいく。


一瞬、すべてが静かになった。ミラはその瞬間、まるで時が止まったかのような感覚に襲われた。風も音も消え去り、ただ自分の心臓の鼓動だけが耳元で響いていた。


グリムスがワームホールを通り抜けると、ミラの視界が一瞬暗転し、すぐに再び広がる風景が現れた。そこに広がるのは、ミラがかつて住んでいた世界とよく似た空と大地だった。空は澄み渡り、柔らかな青色が広がっている。雲はゆっくりと流れ、遠くの山々がかすかに見える。異世界という言葉が頭に浮かびつつも、その景色は驚くほど元の世界と似ていた。


だが、眼下に広がる大都市が、この場所が違う世界であることを強烈に示していた。都市は壮大で、建物のデザインは現代的でありながらも、どこか異国の雰囲気を漂わせていた。街の通りには人々が行き交い、活気が感じられたが、遠くからでもその独特な服装や建築様式から、ここが異世界であることがわかった。


そして、何よりも目を引くのは、都市の中心にそびえ立つ巨大な城のような建造物だった。黒い石で作られたその城は、圧倒的な存在感を放ち、まるでこの都市全体を見下ろしているかのようだった。ミラはその城を見つめ、そこが自分の新たな運命が待っている場所であることを直感した。


グリムスは、都市の中心へと向かって飛び続けた。空は彼女の元いた世界と変わらぬ穏やかな青空で、時折雲が流れていく。その空の下で、この異世界の都市は静かに脈打っていた。高層の建物や、自然と調和するようにデザインされた公園、そして城を囲む美しい街並みが広がっていた。ミラは、元いた世界と大きく異ならないその光景に、少しだけ安堵を覚えたが、それも一瞬のことだった。


彼女は、自分がこれから進む道に対してすでに覚悟を決めていた。どれだけ風景が似通っていようと、この場所が彼女にとって全く新しい運命の舞台であることには変わりなかった。


「ここが君の新しい家だ。さあ、準備はいいか?」


男が静かに言葉を投げかけたが、ミラはただ黙って頷いた。彼女の視線は、都市の中心にそびえる城に固定されていた。


グリムスはゆっくりと都市の広場へと降り立った。目の前には、巨大な城がそびえ立っていた。その黒く光沢のある石造りの壁が、圧倒的な力を感じさせる。ミラは飛龍の背から降り立ち、城の門を見上げた。その荘厳な姿に、彼女の胸の内には再び冷たい決意が沸き上がっていた。


「これが、私の新しい始まり……」


ミラは静かに呟いた。復讐のために力を得る場所として、この城が彼女を待っている。周囲の空間や雰囲気は元いた世界と変わらないが、ここは間違いなく異世界であり、彼女の運命が大きく変わる場所だった。

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