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第8話 「軋む体」

ポレモスは、壊れた体を引きずりながら必死に走り続けていた。彼の視界はかすみ、機械の内部から漏れる火花が時折、視野をちらつかせていた。左腕はすでに失われ、右腕も力を失いかけていた。走るたびに軋む金属音が自分の耳にさえ痛く響き、足は重く、ひとつひとつの動作が鈍くなっていく。


しかし、それでも彼は止まらなかった。止まることは、追いつかれることを意味していた。背後からは住民たちの叫び声が徐々に近づいてくる。その中には、ミラの泣き叫ぶ声も混じっていた。


「ポレモス……なんで……!」


その声が胸を刺し、ポレモスの心を重く締めつけた。彼は逃げなければならない。振り返ることはできなかった。今彼が振り返ったところで、ミラの憎しみの視線が自分に突き刺さるだけだ。彼はミラのためにここに来た。それなのに、結果は最悪だった。


ポレモスは、周りの家々や木々の影を利用して、何とか人目を避けながら進んでいた。通りに面した家の窓から灯りが漏れ、夜空には淡い月光が広がっている。だが、彼の体はますます鈍くなり、視界はぼやけ始めていた。彼の片目はもうほとんど機能していなかった。


「あいつはどこだ!?」「アンドロイドを見たか!」


住民たちの声が背後から聞こえるたびに、ポレモスは恐怖に駆られ、また走り出した。壊れた体が限界に近づいているのは明らかだったが、それでも彼は足を止めることなく進み続けた。ミラの家から遠ざかれば遠ざかるほど、心の中で痛みが増していく。ミラの父を救えなかったこと、そして何よりもミラの信頼を完全に失ってしまったことが、ポレモスの胸を締め付けていた。


やがて、ポレモスは街外れの森にたどり着いた。木々が彼を迎えるように茂っており、その中へと身を隠すことができた。森の中は静かで、風が木の葉を揺らす音だけが響いている。ここに来れば、もう誰も追ってこないだろう――そう思っていたが、ポレモスは森の中を歩き続けた。


森の中は暗く、ポレモスの片目に映る世界はほとんど黒一色だった。時折、木々の隙間から月光が漏れ、足元の地面をわずかに照らすだけ。草木の匂いが鼻腔にかすかに届き、かつてミラとこの森を歩いた日のことを思い出させた。


その記憶は、痛みとともに蘇ってきた。ミラと笑い合いながら探検した日々、彼女の手が自分の腕に触れた時の温もり。ポレモスはその思い出にしがみつくように歩き続けたが、目の前にあるのは、ただ冷たい闇だけだった。


彼はどれくらいの間歩いたのだろうか。やがて、森の奥深くへと進んでいくうちに、体の限界が近づいてきた。ポレモスの足元はふらつき、何度かつまずいては転びそうになった。それでも、彼は立ち止まることなく、前へ進んだ。彼の心の中では、ミラの声が響き続けていた。


「ポレモス……なんで……」


彼は木々の間でようやく足を止め、膝をついた。体中の機械が軋み、煙を吐き出していた。左腕は完全に使い物にならず、片目はすでに見えなくなっていた。右腕も動きが鈍く、ほとんど機能しない状態だった。


ポレモスは木にもたれかかり、頭を垂れた。彼の心は、孤独と絶望に包まれていた。すべてが失われた――ミラとの友情も、彼女を守るための目的も、すべてが壊れてしまった。


「ミラ……」


ポレモスはその名を心の中で呟いた。彼女を救いたかった。ただそれだけだった。しかし、その結果として、彼はすべてを失った。今、自分は何のために存在しているのか。ポレモスの中には、もう答えが残されていなかった。


周囲の静けさが、彼の心に深い虚しさを残した。彼の存在が、ただ無意味なものであるかのように感じられた。風が吹き抜け、木々の葉が揺れる音だけが彼の耳に届いた。森の中で、ポレモスはただ孤独に立ち尽くしていた。

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