ポレモスは、ミラの命を救うために持ってきたエーテルを必死にミラの父に伝えようとしていた。エーテルの瓶を掲げ、ジェスチャーで訴えかける。しかし、ミラの父の目には、アンドロイドへの憎しみしか映っていなかった。ポレモスの行為は、彼にとってまったくの無意味であり、さらなる怒りを引き起こした。
「アンドロイドめ……!」
ミラの父は怒りに満ちた目でポレモスを睨みつけ、迷わず猟銃を構えると引き金を引いた。銃声が響き、弾丸はポレモスの左腕を直撃した。ポレモスの腕はエーテルの瓶ごと吹き飛び、粉々になったガラス片が空中に舞った。腕から火花と煙が上がり、彼の金属の身体は衝撃で大きく揺れた。
「……!」
ポレモスの視界に「重大な損害」の警告が浮かび上がり、片腕が完全に使えなくなった。エーテルも砕け散り、治療の希望は彼の手からこぼれ落ちた。だが、それでもポレモスは動きを止めなかった。彼は必死にミラの父に訴えようと、残った右腕でジェスチャーを続けた。
しかし、ミラの父の怒りは冷めるどころか、さらに燃え上がっていた。彼はすぐに再び猟銃を構え、追い打ちをかけようとした。その瞬間、ポレモスは本能的に動き、銃を奪い取ろうと父に掴みかかった。
悲劇の瞬間
「……やめろ!」
ポレモスに殺意はなかった。ただ、もう一度撃たれれば、自分も破壊されてしまう――そう感じたからだった。しかし、力任せに猟銃を取り上げようとしたその瞬間、引き金が引かれてしまった。
銃声が響き渡る。弾丸はミラの父の胸を貫いた。
「……!」
ミラの父は一瞬、驚いた表情を見せた後、膝から崩れ落ちた。胸から溢れる血がポレモスの足元に広がり、彼の目は次第に色を失っていった。ミラの父はその場で絶命した。
ポレモスは動けなかった。彼の中には殺意などなく、ただミラを救おうとしただけだった。しかし、その結果として、取り返しのつかない悲劇が起きてしまったのだ。彼の手は、もはや何も救えない。
その時――
「お父さん……?」
家の中から、ミラがふらふらとした足取りで現れた。彼女は病で体力を失っていたが、父の叫び声と銃声を聞いて外に飛び出してきた。そして、彼女の目に飛び込んできたのは――
父が血まみれで倒れている姿。そして、その手には猟銃を握って立ち尽くすポレモス。
「お父さん!?」
ミラは目を見開き、恐怖と絶望が交錯する中で父の元へと駆け寄った。彼女の手は震え、必死に父の胸の傷口を押さえて血を止めようとした。しかし、彼女の力では何も変わらなかった。父はすでに冷たく、動くことはなかった。
「……なんで……なんで……お父さん、起きてよ……」
ミラは嗚咽を漏らしながら、父の体を揺り動かした。彼女の涙が父の顔に落ちても、彼は応えることはなかった。
「ポレモス……」
彼女の声が低く、そして鋭く変わる。涙を拭うことなく、彼女はポレモスを見上げた。親友だと信じていた存在が、今や彼女の前で最も大切な人を奪ったと思わざるを得なかった。
「なんで……なんでこんな酷いことをしたの……」
ポレモスは何かを言いたかった。しかし、言葉を持たない彼にできるのは、ジェスチャーで伝えることだけだった。だが、彼の左腕はすでに壊れており、エーテルもなくなってしまっていた。ポレモスは必死に右手を動かして訴えかけようとするが、ミラにはそれが伝わることはなかった。
「……アンドロイドには近づくなって……お父さんが言ってた……」
ミラは立ち上がり、地面に落ちていた猟銃を手に取った。彼女の体は震え、心の中は混乱と怒りでいっぱいだった。かつて親友だと思っていた存在が、今では彼女にとって最も恐ろしい敵となってしまった。
「親友だと思ってたのに……」
彼女は震える手で猟銃を構え、ポレモスに向けた。そして、引き金を引いた。
銃声が響き、ポレモスの顔の3分の1が吹き飛んだ。機械の部品が飛び散り、彼の体は後ろに倒れ込んだ。視界は片目しか機能せず、彼の動きは鈍っていった。
しかし、ミラは止まらなかった。反動で倒れながらも再び立ち上がり、再度引き金を引く。しかし、弾はポレモスに当たらなかった。彼女の手は震え、目には涙が溢れていた。
その時、住民たちが家から飛び出してきた。銃声を聞きつけ、何事かと集まってきたのだ。
「何があったんだ!?」「誰かいるのか!?」
住民たちはミラに駆け寄り、彼女の父を見て驚愕の表情を浮かべた。一部の者はポレモスを敵と見なして襲いかかろうとし、他の者はミラを抱きしめて慰めようとした。混乱が広がり、怒号が飛び交った。
ポレモスはその場から逃げ出すしかなかった。壊れかけた体を引きずりながら、住民たちの怒りから逃れるために必死に走った。彼の視界は徐々に暗くなり、片腕の痛みが全身を襲っていたが、それでも彼は止まることなく走り続けた。
背後からは、ミラの泣き叫ぶ声が聞こえた。
「ポレモス……なんで……!」
彼は振り返らず、ただ前を見て走った。壊れた体で、誰も追ってこれない場所まで――