目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第6話 「過去の侵略者」

ポレモスは夜の闇の中を静かに走っていた。ミラを助けるために作った薬を手に、彼は必死に街へと戻ってきた。しかし、昼間とは異なり、夜の街には独特の緊張感が漂っていた。人々は眠りについているとはいえ、灯りがちらほらと家々の窓から漏れている。もし誰かに見つかれば、すべてが終わってしまう。ポレモスはできるだけ影に身を隠し、細い路地や物陰を選んで進んだ。


街の中では、人の足音や窓から聞こえてくる声に神経を尖らせながら、一歩一歩慎重に進んでいく。数回、巡回中の衛兵の姿が視界に入り、そのたびに息を潜め、壁に身を寄せてやり過ごした。ポレモスは不安を感じながらも、ミラの家へ向かうことを止めることはできなかった。


街の角を曲がり、ようやく彼女の家が見えてきた。ポレモスはほっとしたように息をついたが、その瞬間、通りを巡回する兵士の一団が近づいてくるのに気づいた。彼らの甲高い声が夜空に響き渡る。


「誰だ!?」


ポレモスは反射的に物陰に飛び込み、姿を隠した。彼の金属の身体は夜の闇に溶け込み、兵士たちに見つかることなくやり過ごした。兵士たちが通り過ぎるのを確認し、ポレモスは再び立ち上がり、足早にミラの家へと向かった。


家の前にたどり着いた時、ポレモスの胸には安堵と不安が入り混じっていた。これでミラを助けることができる。しかし、彼が薬を届けたとしても、ミラの父に見つかればすべてが台無しになってしまう。ポレモスは足音を立てないように、慎重に家の扉へと近づいた。


だが、その瞬間――


「やっぱり来やがったな、アンドロイド野郎!」


突然、家のドアが勢いよく開き、ミラの父の怒号が夜の空気を裂いた。ポレモスは驚き、体が固まった。最悪のパターンだった。ミラの父に見つかってしまったのだ。


ミラの父は憎しみに満ちた目でポレモスを睨みつけていた。彼の顔には疲労と苛立ちが刻まれており、その目の奥には絶望と怒りが渦巻いていた。何日も仕事に行かず、ミラの看病をし続け、そしてアンドロイドが再び家を襲うのではないかという恐怖に苛まれていた彼の心は、今や完全に限界に達していたのだ。


「俺は分かってたんだ。お前がまた現れるってな……」


ミラの父は、かつて自分たち家族が経験したあの惨劇を決して忘れていなかった。彼らが住んでいた国は、文明が発展し、繁栄していた。だが、その平和はある日、突然崩れ去った。空に大きなワームホールが現れ、無数の機械兵器――アンドロイドたちが都市を襲ったのだ。それは「多次元同調世界」が生まれた瞬間だった。


世界が崩れ去り、平行世界との境界が崩れ、人々は次元を越えた戦争に巻き込まれた。その中で、ミラの家族は逃げ遅れ、絶望の中で母親が身を挺して家族を守った。だが、彼女は冷酷なアンドロイドによって引き裂かれ、残酷な最期を迎えた。


「お前らは、あの時もそうだった……冷酷に、俺たちを弄んで、あいつを殺したんだ……!」


ミラの父の声は震え、彼の目には憎しみの色が濃くなっていた。彼の心の中には、あの時の恐怖と絶望、そして妻を奪われた瞬間の記憶が鮮明に蘇っていた。ミラの母親がアンドロイドに無惨に殺された時の断末魔の叫び、肉が引き裂かれ、骨が砕ける音――すべてが今も彼の夢に出てきて、彼の心を蝕んでいた。


「お前も……同じ目でミラを見ているんだろう……!」


父は怒りのままに、ポレモスに向かって突進しそうな勢いだった。その目にはすでに、ポレモスが何をしようとしているかなど関係なかった。彼にとって、ポレモスはただのアンドロイドであり、家族を再び傷つける存在だった。


ポレモスは動けなかった。彼の中には何も言い返す言葉が見つからなかった。彼はただ、ミラを救うためにここに来た。しかし、彼の存在がミラの父にとってどれだけの苦痛をもたらしているか、それも理解していた。


父はミラを守るため、全てを犠牲にしてでもポレモスを排除しようとしている。ポレモスはそれを目の当たりにしながらも、どうすればいいのか分からなかった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?