ミラがポレモスに毎日会いに来るようになってから、季節が巡るように時が流れていた。二人はいつもの古びた列車の中で過ごすのが日課となっていたが、ある日、ミラはふと思い立った。
「ポレモス、今日は外に出てみない?」
彼女の突然の提案に、ポレモスは少しだけ顔を傾けたが、やがてゆっくりと頷いた。ミラはその反応に嬉しくなり、軽やかに外へ飛び出した。列車の外は広大な草原が広がり、風が優しく髪を揺らしていた。
「行こう!」
ミラが元気よく声をかけると、ポレモスは彼女の後に続いて列車を後にした。彼らが歩き出すと、森の木々が彼らを迎え入れるように揺れ、空には雲がゆっくりと流れていた。森の中には様々な鳥の鳴き声が響き、葉の隙間から差し込む陽光が、二人の足元を照らしていた。
しばらく森の中を進んでいくと、二人の前に大きな古びた廃墟が姿を現した。かつて人々が住んでいたであろうその場所は、今では荒れ果て、蔦が壁を覆い尽くしていた。
「すごい……ここ、誰もいないみたい」
ミラは廃墟に目を輝かせ、探検心をくすぐられた様子で中へ足を踏み入れた。ポレモスも彼女の後に続き、静かにその場所を見守っていた。廃墟の中には、古びた家具や崩れた壁が残っており、かつての住人の痕跡が薄く漂っていた。
「こんな場所があったんだね、ポレモス。知ってた?」
ポレモスは首をかしげるようにして周囲を見渡した。二人はしばらく廃墟を歩き回り、かつての暮らしを想像しながら静かに探検を続けた。
ふと、ミラが古びた階段を見つけ、その先に興味を引かれた。階段は老朽化しており、部分的に崩れかけているようだったが、ミラの好奇心は止まらなかった。
「ちょっと上まで登ってみるね!」
ミラは軽快に階段を上り始めたが、ポレモスは心配そうに彼女を見上げた。彼の不安げな表情が的中するかのように、ミラが数段登ったところで、突然足元の木材が軋みを上げ、崩れ落ちた。
「キャッ!」
ミラはバランスを崩し、足元が崩れるとともに下へと落下してしまった。衝撃とともに、彼女は何もつかむことができず、床に激しく叩きつけられた。
ポレモスは一瞬のうちに動いた。彼の目には冷静さが戻り、迷うことなくミラに駆け寄った。彼女の小さな体が動かないのを見て、ポレモスは焦りを覚えながらも、彼女の顔にそっと手を伸ばし、呼吸を確かめた。ミラは気絶してしまったようだが、幸いにも命に別状はなさそうだった。
ポレモスはミラを優しく抱きかかえ、倒れた木材を避けながら、慎重に彼女を安全な場所まで運んだ。彼の無表情な顔には何も表情が浮かばないが、その動きには明らかに彼女を守ろうとする強い意志が感じられた。
やがて、森の風が再び吹き抜ける中で、ミラはゆっくりと目を覚ました。
「……ポレモス?」
彼女の視界に映ったのは、自分を見守るポレモスの姿だった。彼の手はそっとミラの額に触れていた。ミラはすぐに状況を理解し、驚いた様子で言葉を続けた。
「私……落ちちゃったの?」
ポレモスは無言のまま頷いた。そして、彼がいかに素早く彼女を助けたか、どれほど注意深く守っていたかを、ミラはその表情から感じ取った。彼女は感謝の気持ちを込めてポレモスの手を握り返した。
「ありがとう、ポレモス……あなたがいてくれて本当に良かった」
ポレモスは何も言わなかったが、その瞳には確かな安堵が浮かんでいた。彼はミラの手をそっと握り返し、二人の間には再び静かな絆が広がった。