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第31話 水着!?


 夏休みまであと二週間と迫った俺は学校で机に向かって紙をにらみつけていた。

「……わかんねぇ。もう無理……」


 キーンコーンカーンコーン


「はい!! 終了!! そこまでだ!! 後ろから順に集めてきて!!」

 先生の声と共に集められる答案用紙。期末考査の真っ最中である。

 夏休み前にあるこのテストを潜り抜けなければ、高校生になって初めての夏休みに学校に登校するっていう苦行を強いられてしまう。


 ちなみに俺はここまでの成績から言うとちょうど学年の平均くらいの位置にいる。気を抜くとかなり危ない。

 特に苦しめられているのは数学だ。中学生の時から比べると、突然レベルが上がってるように感じる。もともと苦手意識があったのに、今では完全に嫌いで苦手な教科になった。つい最近各学校共にテスト期間が近づいているという事で勉強会ならぬおしゃべり会が市川邸で行われたのだが、そこでも釘を刺されてしまった。


「いい!! せっかくの計画なんだから、補習なんかで、潰さないようにね」

「な、何で俺に言うんだよ!! カレンだって人の事言えないだろ!!」

「残念だけど、カレンは成績いいのよ?」

「そうなのよねぇ、こう見えてけっこう頑張り屋さんなのよぉ」

 以外としか言いようのないカレンの成績評価だ。なのにどうして普段はああなのだろう? 


「普段からそれらしくしてれば、良い子なんだけど」

「確かに」

「普段はポンコツお嬢だからなぁ」

「きぃ~っ!! ポンコツ言うな!! みんなで何よ!!」

 きゃいきゃい相変わらずにぎやかだ。こんなんだから[おしゃべり会]とか市川夫人に笑われちゃううんだよ。この勉強会には伊織も参加しているが、テーブルは同じだけど何も話をすることなく、黙々と下を向いて勉強していた。さすが我が義妹いもうと真面目である。


「それで、いつから行くのか決まったのか?」

 カレンの頭に電球が浮かんだ。ピコーン!! て感じで。

「そうそう! それも話しておかなきゃね。予定は夏休みが始まってすぐの日曜日から一週間よ」


「「え!?」」

 理央と響子はうなずいてるだけなんだけど、俺と伊織が同時に驚いた。


「そんなに長い間大丈夫なのか?」

「そうですね。家族の方もご迷惑なんじゃないですか?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。その分私達もあなたがたと一緒で楽しめますから」

 ちょうどそこへお茶の入ったカップを持って市川夫人が部屋へ入ってきた。伊織がそれを見て慌ててお手伝いへと向かう。


「ありがとう伊織ちゃん。これお願いね」

「わかりました」

「それと、どうせ行くのなら、濡れてもいいような格好だけは準備してきてね。あそこには近くに浜辺もあるから」

「泳げるんですか!?」

 カレンが食いついた。

「う~ん。クラゲ次第かしらねぇ。でも無いよりは……ね」


――あれ? なぜかこちらを向いてウインクされたような……気のせいだよなぁ? 


「シンジ君、ぜぇぇぇったい!! 補習とかやめてよね!!」

「な、なんで俺だけなんだよ!! お前も頑張れ!!」

 その場に明るい歓声とはしゃぐ声がこだましていた。



「うん……まずいな……」

 机の上に顔を伏せたまま一人つぶやく。先ほどの感触、自分では良くやったと褒めてやりたいぐらいなのだけど、点数的に怪しいかもしれな。みんなのあの様子から察すれば、夏の計画はかなり楽しみにしてるはず。俺だけが行かないとか言ったらどうなる事か分かったもんじゃない。それにそうなったらカレンから一方的になじられるに決まってる。それだけはどうにかして避けたい。しかし現実を見つめると、そう甘くはいかないかもしれない。


 その時フッと何かの気配を感じた。


 辺りを見回したけど、特別何かを感じる様子もない。気のせいだったのかと、この時は思っていた。



 その日の放課後。

 明日も試験があるから一夜漬けででも何とかしなければと、学校からまっすぐ帰って勉強するために足早に下駄箱へと急いでいた。


「あ、藤堂クン!! ちょうど今からあなたに会いに行くところだったんだ!!」

 教室から出てすぐに声を掛けられた。振り向いた俺が見た


「や、やぁ相馬さん」

「やっほぉ~」

 無邪気に手を振る相馬さんの横にもう二人。一人は相馬さんと同じくらいの身長の女の子。もう一人はその女の子を悲し気に見つめる


「相談にのってくれない?」


 相馬から放たれた言葉で、それまで持っていたはずの俺の勉強する強い心は折れてしまった。

 結局逃げられなかった俺は、学校近くの喫茶店に相馬さんともうの女の子と向かい合わせで座ることになった。


 もうご存知だと思うけど、俺は女の子から話しかけられて「嫌」という単語が使えるほどコミュ力は高くない。まぁ例外的に言えるやつがいなくもないけど。


「ゴメンね、藤堂クン。もしかして急ぎの用とかあったりした?」

 この相馬さんは前回の事で少し話せるようになった、今通う高校での唯一といっていいほどの女子だ。見かけたら気軽に声かけてくれるし、変な感じの眼で俺を見てくることもない。その辺りは凄く感謝してるんだけど。

「ああ。いや、だいっ丈夫だよ。うん」

 少し慌てて噛んでしまった。何しろ向かい側に見たく無いがいるし。

――でも……何だろうか、このひとから流れて来てる感情の波といか……心配してる?


 そんな感覚を覚えながらも相馬の話に耳を傾けることにした。

「まずは紹介するね。日暮綾乃ひぐらしあやのちゃん。同じクラスなんだ」

「初めまして日暮です」

 ペコっと頭を下げてきたと同時に、隣にいたそのひとも同じように頭を下げた。

 初めて見る光景にギョッとする。

「あれ? なに? どうしたの?」

 キョトンとした顔でこちらを見つめる相馬。

 これは彼女には視えてないんだから仕方ないんだけど。だけど、ここは言っておいた方が良いのかもしれない。今回の話もたぶん絡みなんだろうから。


「あの、相馬さん今日の相談ってソッチ絡みだよね」

「そうだよ。どうしてわかったの?」

 それ以外にこうしてお茶しながらお話なんてしたことないでしょ。なんてことは言えない。

「えと、大変失礼だとは思うんだけど……その、日暮さんの後ろに女のひとが見えてるから」

「やはりそうですか……」

 意外というか、やけに落ち着いた感じで日暮さんは運ばれてきた飲み物をクチもとへと運んでいた。


「やっぱりって、心当たりがあるんですか?」

 このセリフ。俺は言った瞬間にやっちまったと心の中で舌打ちした。


「やっぱり藤堂クンなら気になると思ってたんだよぉ。良かったぁ声かけて。私じゃどうしようもないもん」

 そう言いうと満足そうにマグカップに手を伸ばす相馬。完全にはめられた感がするけど、このままにしておくってのも気が引ける。この性格を何とかしたいとは思うけど、目の前の困りごとは小さい時からほっとけないんだよなぁ。


「はぁ~」 

 深いため息が自然と出てしまう。こういう流れになってしまったなら覚悟するしかない。


「わかったよ話は聞くけど、日暮さん俺には払ったりするような力はありませんよ」

「ええ。それは夢乃ちゃんから聞いています。 それに……今私の後ろにいている方はたぶん私の血縁者でしょう。そういう心配はいらないと思います」

「と、いうと?」

 自分からいてるについて知っているし、この落ち着き方。俺は少し興味がわいて来ていた。

「ええ、私は今の学校におじさんの家から通っています。実家は隣の県の〇〇市にあるんですけど、そこで夏に開かれるお祭りがありまして、そのお祭りに代々携わってきているんです」


――あれ? 〇〇市っていったら俺達が夏に行く場所の隣じゃないか。


「そのお祭りは竜神様を鎮めるというのが本来の目的で、その鎮める巫女とり人として続いてきたのが私の家なのですが、今年は荒れ狂う年と言われている数年に一度の年でもあるんです」

「へ~。じゃぁ日暮さんとか数人で鎮めるの?」

「はい。その日は三人の巫女と三人の守り人が踊りながら鎮めることになってるんです」


 俺は一度カップの中のコーヒーをすする。

 それを見て日暮も唇を潤した。

「そこまでの話を聞く限り、特別何か起きそうにはないんだけど」

 下を向いた日暮さんの肩に女性のひとが手を添えた。

「ちょっと前のこのお祭りで死者が出てしまったんです。その年以降のお祭りでは失敗が続いているのです」

「で、その話と俺とどう関係するのかな?」

「お願いです。藤堂クン。原因が何か突き止められませんか? たぶん前の亡くなった方々も関係してると思うんです」


「そのお祭りっていつなの?」

「「夏休みが始まって最初の土曜と日曜日なの」」

 相馬と日暮二人の声がそろった。


「あれ? 相馬さんがどうして知ってるの?」

「だって私も行くんだもん。綾乃のウチにお泊りに」

 何か俺の頭にピーンと来た。

「あ、まさかそのために調査?」

「そう!! せっかく楽しみに行くのに嫌でしょ? 何かあったら」

 俺の頭の中はいろいろ考えてぐちゃぐちゃになりそうだ……。ここは素直に力を借りるか。


 ポケットからケータイを取り出してタップする。

「あ、もしもし伊織? すまないけど全員集合かけといて。うん。場所は任せるよ」

 良きアドバイスを聞く為メンバーを招集した。



 試験が終わった安堵感で少し浮かれながら待ち合わせ場所へと急いでいた。相談事の名目で日暮さんと会った三日後の放課後、いつものようにカレンの事務所近くのファーストフード店へと向かっている。隣には俺よりも一日早く試験日程が終わっていた伊織も並んでいる。


 あの電話の後、連絡先を聞いて二人と別れた俺はまっすぐに自宅に帰り、事のあらましを伊織に話した。こういう話などをまとめる能力は、俺なんかよりも義妹いもうとの方がはるかに優れているからだ。


 こうしてあれからまだ間もない早い段階で、招集に応えてくれたのも伊織からの説明が大きく関係していることは間違いない。

 俺ならばたぶんここまで早く皆に連絡を回すことすら難しかったと思う。


「伊織、今日は何人来るんだ?」

「えと、いつもの人たちに日暮さんも来ていただくので、私達も含めると六人ですね」

「みんなに連絡してくれてありがとなありがとな」

 伊織の頭をなでなでする。

「ううん。大した事はしてないから」

 こちらを向いた伊織の顔が少し赤くなっている。


――ちょっと嫌だったのかな? 怒ったかな?


「お義兄にいちゃん!!」

「は、はい!!」

 少し大きな声で呼ばれてビクッとする。

「あそこでこちらを待ってるというか…こちらを見てる方がいらっしゃるんですが、もしかしてあの方が日暮さんですかね?」


 少し前の交差点でこちらを見ている女の子がいる。

 一度しか会ってないけど、彼女の後ろに居るが見えて日暮さんだと確認できた。それは視える伊織にも分かったと思う。そして彼女の立つ交差点に近づいたとき、日暮さんからペコっと挨拶をされた


「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「あ、いや、こちらこそわざわざ来てもらってゴメンね」

「大丈夫です……そちらは?」

 少し俺の後ろにいた伊織の方を向いた。

「あ、俺の義妹の伊織です。よろしくお願いします。この子もその……視えるなので。しかも俺よりも頼りになりますから」

「こ、こんにちは。初めまして藤堂伊織です。今日はよろしくお願いします」

「え!? 妹さん……なんですか?」


 首をかしげて不思議そうな顔で俺と伊織の顔を行ったり来たりする視線。


――何が不思議なんだろう? 

 思ったけど言葉にはできなかった。伊織も下を向いてなぜかもじもじしてるし。


「あ、あの、じゃぁそろそろ行こうか。遅れるとうるさいやつがいるからさ」

「そうですか。じゃぁ急ぎましょう」

 慌てて三人で走り出した。



 そこにはもう三人とも集まっていて、すでにガールズトークの真っ最中だった。そこに俺だけ一人だったら絶対に話しかけられないだろう。そんな華やかさがその三人のいる一帯から放たれている。事実その席の周りの人たちがケータイを向けたりしているのだから、男の俺が入って行けるような勇気はない。


「ごめんなさい!! 遅れました!!」

「あー!! 伊織ちゃんだぁ~!!」

「キャッ!!」

 声を掛けた伊織にカレンが飛び上がりながら抱きついた。それだけを見ても絵になる。それなのにこ四人が並んでるって贅沢な空間だと思う。


「あ、あの……俺もいるんだけど……」

「真司君はこちらにどうぞ」

 カレンのテンションにどうしていいかわからずにおろおろしてる俺に、響子が自分の席の隣をポンポンとたたいて誘ってくれた。


「お義兄ちゃんはここですよ」

 グイっと伊織にひっぱれる形でその隣に座る。

 残念そうな顔をした響子とクスクスと笑う双子の妹理央。

「えと、こちらが今回の相談者……でいいのかな? 日暮綾乃さん」

「初めまして皆さん。よろしくお願いします」

「「よろしくお願いします」」

――おおう!! そこでみんなでそろって挨拶とか、やっぱりこの三人はコミュ力が高いなぁ。


「で、話って具体的に何なの?」

 落ち着いたカレンが日暮さんの隣に座る。

「藤堂クンには少しお話したんですけど、お祭りに関係することを調べて欲しいんです」

「へぇ~。またそういう事になっちゃうんだねぇ」

「真司君らしいと言えばらしいけどね」

 なぜか市川姉妹が納得している。


「それと私たちを呼んだ理由って関係してるってこと?」

「うん。お祭りの期間がかぶってるんだ……別荘に行く期間が」

「私たちもう水着買っちゃったからキャンセルはナシよ?」

「水着!?」

 その言葉にテンションが上がる。そして少し想像してしまうのは男として仕方ない。

「ううん!!」

「いってぇ!!」

 セキ払いと共に伊織に足をギュ~~!! って踏みつけられて我に返る。


「で? どうするの?」

 俺はみんなの顔を見渡した。


「えと、その、みんなにも手伝ってもらえないかなって……」

「「「いいわよ」」」


 俺の頼みはホントにあっさりと承諾されたのだった。

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