目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第30話 私のカレシ


 悲しい思いをするのは自分だけでいいと思っていた。それなのにまたあの時の繰り返し。

 今度は止められる? それとも護ってあげる?

 どれが正解か分からないまま、私はこの子にいている。


 あなたを守りたい。皆を守りたい。そしてこの舞踊も守りたい。


 時が経ってまたこの年が巡ってきた。あの時の記憶、忘れられない記憶、私が私でなくなった記憶。

悔しい哀しいでも守りたいモノが私にはある。その事も忘れてはいない。この想いが分かってくれる人、私はこの子の後ろでずっと待ち続けるだろう。





 俺は頭を抱えていた――

 目の前には伊織とカレンと幽霊の母さんが座っている。もちろんカレンには母さんの姿は見えていないけど。


 ここは俺の部屋。真夏の暑い最中である。


 俺の背中には暑さから流れ出る和えではない冷えたモノがツツーっとシャツを濡らしていた。俺が固まってる間に伊織が対応したみたいで気づいたら電話は切れていた。

 それから1時間後が今の状況だ。


「な、なんでカレンがここに?」

「あ、ごめんね。お義兄にいちゃんが違う世界に行ってる間に話が進まないからカレンさんに来てもらっちゃった」

 ペロッと舌を出しながら顔の前で手を合わせる義妹いもうと。まぁ、あの状態だから怒ることはできないけど。


「そろそろ夏休みじゃない? だからみんなでどこかに行こうって話になったんだけど、どうかな?」

 まるでさっきの会話が無かったみたいに笑顔で話を振ってきたカレン。その周りをフワフワ飛び回りながら興味津々な母さん。


――どこを突っ込んでいいやら……。


「みんなって?」

「もちろん、響子と理央とあんたたち義兄妹きょうだいよ」

「え!? 私もご一緒していいんですか!?」

「もちろんよ!! 伊織ちゃん大好きだものぉ~!!」

 きゃ~きゃ~言いながら顔をくっつけあってすりすりしている二人は非常に絵にはなる。なるんだけど……。


「母さん!!」

『なによ?』

「???」

 カレンが不思議そうな顔でこちらを見ている。そういえば、はまだ誰にも言ってないんだから、カレンの前でと話をしたりすることはまだ避けた方がよさそうだ。


「ごめんカレンちょっと待っててくれ」

「え? あ、うん」

 伊織の方をツンツンして一緒に廊下に出ていく。


「伊織、話をする間だけ母さんをれておいてくれ」

「あ、うん。わかった。ごめんなさいお義母かあさんお願いします」

『えぇ~!! もうちょっとカレンさんだっけ? 彼女の事みていたかったのにぃ~』


 頭を抱えて壁に手をついた。

「母さん。そんな事言っても伊織の中から感じられるんだろ? 同じじゃないか」

『ばれたか!!』


 言いながらス―って感じに伊織の中に消えていった。

「伊織……この話は後でな」

「う、うん」

 ぽんっと一度だけ伊織の頭に手を乗せた。

 部屋の中に戻るとカレンが窓の外を見ていた。


「ゴメンお待たせ。さっきの話だけど、具体的にはどういう話なんだ?」

 慌ててこちらに戻ってきて座り直すカレン。

「あ、うん。実は浜辺の近くに市川家の別荘があるんだって。最近は使ってなかったらしいんだけど、私達が話してるのを聞いてたご両親がちゃんと管理してくれるなら使ってもいいって言ってくれたんだ」

「待て待て、それじゃ元々俺達は関係ないんじゃないのか?」

「この話はあんたたちが居ないと話になんないのよ」


 伊織と二人顔を見合わせる。

「「どうして??」」

 声がハモった

「う~ん。言ってもいいかな。実は市川夫婦からの提案なんだ」

「???」

一件でかなり藤堂義兄妹に恩を感じてるみたいでね、そのお返しにって。何もできないけど自由に使っていいってさ。言ってくれれば食べ物とかも用意してくれるって」

「え!? でも俺達何もしてないぞ」

 伊織も手をブンブン振りながら否定する。

 ソレにそれに本当に何もしていない。あの一件は頑張ったのは理央であり響子であり市川家みんななのだ。俺達がしたことと言えば、ただ一緒に学校に行ったくらいの事。それを恩と取られてしまうには少し大げさな気がする。そして何もできなかった自分が恥ずかしくもある……。


『ありがたくしてもらうってのも、優しさなのよ』

 伊織の脇から優しい声が聞こえる。


 視線をそこに動かした。

――あ!! 油断したらまた母さんが出て来てた!!

 伊織にツンツンと合図する。伊織も手をクチに当てて慌てている。

「その話はそれで決まったらまた連絡するから」

「あぁ、うん、わかった」

「ソレから話は変わるんだけど……」

「うん?」

 伊織とともにカレンに顔を向ける。


「シンジ君てカレシだよね?」


「…………」

「…………」


「あれ?」

 カレンが困っている。

 何しろ俺が固まってしまったからだ。


「カレンさん、もう一度言ってもらえますか?」

「えっと……だからシンジ君が私のカレシ……かな?」


 再び部屋に沈黙が訪れた。

「あの……それってどういうことですか?」

 伊織の眼になぜか涙がたまっている。


「え、あの、伊織ちゃん。ち、近い……落ち着いて」

 カレンの目の前にまで迫った伊織の肩に手を乗せて落ち着かせている。


「す、すいません」

その間も俺はまだ言葉をクチにすることができずにいる。

「もしかしてシンジ君も忘れてるの!?」

「な、なにを?」

 クチから絞り出すにはこれが精一杯だった。何しろ覚えがないから。

「はら、私が最初にシンジ君にいてた時に言ったじゃない」

 カレンの顔がほのかに赤らんでいる。



『もし、無事に身体があって、元に戻ることができたら……シンジ君、あなたの彼女になってあげるよ』

 キャッって感じで両手をホホに添えてもだえるカレンと、その言葉を聞いて目が見開かれる伊織。


そして俺の脳裏にもようやくあの時の事が思い浮かんできた。

「あれかぁぁぁぁぁ!!」


 絶叫から生還してカレンに詰める。

「おまえ、あれの事言ってたのか!?」

 俺は今更ながら混乱していた。確かにそんな話をしてたような気がしているけど、まさか今更そんな話が持ち上がるなって思ってなかったから。

――あれからどれくらい経ってると思ってんだコイツ……


「そうよ!! だって約束したでしょ!! だから私が今シンジ君のカノジョなわけよ」

「だって、まさか本気で思ってるなんて考えてなかったし。それに……」

「何よ!?」

「みんなからそんな事聞かれてもおまえも否定してただろ?」

「あたし、否定した覚えなんて一回もないけど?」

 首をかしげてこちらを向くカレン。

――こんな状況じゃなければかわいいって思っちゃうんだけど。今はそれどころじゃないな。そんな事言ったって、響子さん達に聞かれた時とか…。あれ? セカンドのみんなに聞かれた時とかも……。 あれ? あれ?? た、確かに思い出してみれば、俺が否定してるだけでカレンは一回も否定はしていない。


 ブワッ! っと体中から汗が噴き出してくるのが分かる。


「まて、だいたいあの時のカレンは自分の意識のもとで霊になったわけじゃないんだから、普通は戻ったら記憶とか無くなってるはずなんだよ。そのままなんて事は考えてなかったから想定外だ」

む~っと口を結んでいたカレンが一言。

「じゃぁ今から考えなさいよ」

「え!?」

「答えを出せって言ってるわけじゃないわ。考えといてって事よ」


 顔を真っ赤にしてカレンが下を向く。

「あの、え~っと……私ってお邪魔ですかね?」

 部屋にいたけど声を出せずに固まったままだった伊織が涙を眼にいっぱい貯めて聞いてきた。

「え、あ、そんなことないよ伊織ちゃぁ~ん。大好きだよぉ~」

 すぐにカレンが飛びついてまたすりすりし始めた。


 こういう時のカレンって改めてすごいと思う。

 それからしばらくして、言いたいことを言い終えたカレンが帰って行った。見送りに行っていた伊織が勢いよく部屋の中に戻ってくる。なぜか母さんも外側に出て来ているのが気になるが。


『真司。ちょっとそこに座りなさい』

「はい……」

 しかもちょっとお怒りのようだ。

—―ですよねぇ……。


『真司、あのとはどこまで進んでるの?』

「はぁ!?」

「お義母かあさんは黙っててください!!」

『はい』

—―あ、母さんが怒られて凹んだ。初めて見る光景でなんか新鮮。


「お義兄にいちゃんどういう事? いつの間にそんな事になってたの?」

「いや、だから、誤解だって。カレンとはそんなんじゃないよ。だってほら今までだってそんな素振りしてなかっただろ?」

「それは……お義兄ちゃんがニブちんなだけでしょ!?」

「に、にぶちんって。そ、そうなの?」

「『そうです!!』」


「でもほら、さっきも言った通り今は彼女じゃないって決まったわけだし」

「それはそうだけど……」

「それに、今の関係を壊したくないんだ。せっかくみんな仲良くなれたんだから。俺にはそっちの方が大事なんだよ。わかるだろ伊織」

「う、うん……うぅ~~ん?」

――相変わらず伊織は素直でかわいい良い子でよかった。


 カレンから連絡が来たら報告しあうと約束したところで、この緊張感のある話し合いは終わった。

『あ、真司。言い忘れてたけど、私はただいてるわけじゃないわよ。守護霊ってやつかな』

 母さんがそれだけを言い残して伊織の元へと戻っていた。自分一人だけになった部屋に静けさが戻る。大き目のため息をついた。


—―まったく、なんなんだ今日は……。


 しかし伊織にいていた母さんが伊織の守護霊という話は少し納得できるような気がする。伊織のあの耐性はもしかしたらそこに秘密があるのかもしれない。小さいころからずっと中にいるって事は、それだけ消耗も激しくなるわけでそれを今まで続けて来てるんだから、やっぱり伊織は凄い。


 なぜ俺にではなくて伊織に母さんがいたのか……それだけが疑問に残る。もう少し時間がたったら聞いてみようと思いながらベッドに倒れ込むように横になった。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?