俺達が目にした光景――。
なにやら人が多く連れられてきている。その人たちはだんだんと建物の中に入れられて行き、出てくるのは白いクーラーボックスのような箱。
「なんだこれは……」
「あまり当たって欲しくは無かったけど……慎吾の思っていた、いや真司の話はやっぱり本物だったようだな」
「ああ……。藤堂どうする? 突っ込むか?」
車の中で光景を静かに見つめる中交わされる会話。同乗してる結城は俺達所轄とは違い命令権を持っているのに、なぜか俺に聞いてくる。それが不思議でならない。
「なぁ結城」
「なんだ?」
表情が変わらないままで俺の顔をじっと見る結城。
「お前たちが先にここに網張ってるんだからすぐに動けるんだろ? なのになぜおれに聞く?」
「あぁそうか……俺や慎吾よりも動きやすいはずだな。なぜだ? なぜ動かない」
村上も
後部座席の結城はもともと何を考えてるかよくわからない奴だけど、ここで俺達に遠慮するような奴じゃない事は付き合いから分かっている。その言葉によって動員できる人数も俺達二人の比じゃない。
「ふっ……。何のことだ? 確かにここには自分の息のかかっている捜査員が数人いるにはいるが……中に入って行く事はないぞ」
「なに!?」
「何を驚く。これは君たちの事件だろ? ならばウチが動いて手を出すことは無い。俺は犯人が挙がってさえくれればいいんだからな」
「でもそれじゃぁ……今お前がここにいるのは?」
「俺か? 俺はお前たちの同僚としてだ。ただそれだけだが? 手伝って当たり前だろう?」
俺と村上が顔を合わせて苦笑いする。
「バカだ」
「あぁバカだな」
「む!! なんだと!!」
そう言いながらガチャガチャと腰に下げたモノを確認する。
「そろそろ来る時間だぞ……」
「ヤツか?」
「そのはずだ」
停めている車の前に一台の黒塗りの高級車が停まる。それから見えるはずの姿を確認してから俺達は行動する。
待つこと数分――
「出たぞ!! 確認した!!」
「良し!! 中に入ったと同時に行動する!!」
「「了解!!」」
――行くぞ!!
言葉にせずに眼だけで合図を送る。
まずは外にいる見張りと思われる二人を黙らせてから、小さなドアへと手をかけ勢いよく開く。三人で同時突入し両手で構えた銃を常に前にしながら進む。内部構造は前もって村上やウチの班で集めた情報によって頭に叩き込んである。迷う事はない。
少しずつ歩を進めて行く。 奥に入って階段を降り少し開かれた空間を抜けて更に奥に。そして目的の人物を確認。眼と指で二人に合図。それぞれが離れて散っていく。
進んでいるとその先からなにやら話し声が聞こえる。
そっと近づいて内容を確認。
もちろん後になってシラを切らせないため胸の中にボイスレコーダーも入れている。
そしてその時が訪れる。
「そこまでです……課長」
「な!! 藤堂!? それに村上もどうしてここに!?」
「それはこちらのセリフですよ。何をなさっておられるんですか? 課長ともあろう方が……」
ガタン!!
「動くな!! ココには俺一人じゃない!! すでに囲んでる!!」
「ご、誤解するな!! 私はここが怪しいと聞いて捜査に来ただけだ」
「ではその袋は何です?」
課長と向かい合う男が持っている紙袋。
「これはその……ええぃ!! 良い気になるなよ藤堂!! こんなところ見られたからってどうとでもなる!! どうにかなるのは下っ端のお前の方だ!! どうせここには藤堂班の数人しかいないのだろ!? バカめ!! こちらのこの人数で……」
「それはどうですかねぇ……課長さん」
暗闇から数人と一緒に姿を少しずつ表した結城。
「あ、あなたは……結城管理官……。ではこの捜査は……」
「ん~誤解して欲しくは無いのですが……私は藤堂刑事の連れの一人ですよ? でも動かせる人数ははるかに多いですけどね」
「藤堂!! 奥の人たちは確保したぞ!! まだ無事な人も何人かいた!!」
「わかった!! 村上は悪いがそちらを引き続き頼む!!」
「了解!!」
捜査員たちの素早い動きに起こった事のすべてを悟った課長 。そしてヒザから力なく崩れ落ちていく。
「ば、ばかな……なぜ私が……」
「残念ですが終わりです。現行犯であなたを逮捕連行します」
静かにつぶやいた課長に近づき両手にしっかりと手錠を嵌めた。
「○○月○○日 ○○時○○分 臓器売買の現行犯で逮捕します。よし!! このまま連れていけ!!」
「「はっ!!」」
手錠を嵌めた課長を他の捜査員に任せ、俺はその場で天井を見上げた。その間にも結城が連れてきた捜査員が忙しなく動き回っている。
「ふぅ~」
俺は一つ大きな深呼吸をした。
こうして事件の犯人と思われる者たちはその場で逮捕連行することができた。何よりも結城の野郎が人は数人しか……とか言ってたくせに後からなだれ込んできたのは数十人規模で俺と村上が唖然とする中、物的証拠などをあらかた回収して持ち運んで行ったり犯人を連行していったりと素早く短時間のうちに片付いてしまったのだ。その後から遅れてウチの捜査員が到着した時には結城を残してその人たちも姿を消していた。
まぁ、そのモノがウチの署に大量に届いたと連絡が入った時にはかなり驚いたが、結城が言っていた「ただの連れ」って言葉は嘘じゃなかったって事だ。
アイツには感謝しかない。
――あれ? でもこれってあの約束が……。
なんて考えてうろたえたが、この後の事務処理的な事を考えてたらすっかり忘れてしまっていた。俺の足の痛みと共に。
「「「カンパーイ!!」」」
ウチの班のメンバーだけが集まったささやかな慰労会が俺の行きつけの居酒屋で行われている。なんだかんだといいながらも、勝手な行動に走り気味の俺についてきてくれた事に感謝の気持ちを込めて開いたこの飲み会に、は俺も含めて七名が参加している。村上は諸事情が有るからと遅れてくるらしいのだが、その代わりというかなぜか乾杯の前から結城の姿があった。
「おい結城!!」
「どうした? 飲まんのか?」
「てか何故にお前がここにいる!!」
何を言っている? というような顔をして俺の事を見る結城。
「なぜって……呼ばれたからな」
「なに!? 誰に!? 俺は呼んでないぞ!?」
俺達の話を横で聞いていた同僚たちはそこにいるのがさも自然な事のように、結城に対して普通に話をしたりお酌をしたり、時には少し仕事の内情などを聞いているヤツもいたけど、意外にも盛り上がりを見せて俺と結城の会話を途中で途切れさせた。何か不自然だなぁって思いながらも、その場がしらける事もなく皆が楽しく飲んだり食べたりしているのでひとまずは安心して俺も飲むピッチを少しだけ上げることにした。
俺だけがこの盛り上がりに乗り遅れるわけにもいかない。
それから一時間はみんなと楽しく過ごしていた。
ブブブブ ブブブブ
「あん?」
けっこういい感じにアルコールが回り始めた頃、テーブルの下に置いておいたケータイが勢いよく震え始める。
[村上]
表示には遅れてくると言っていた人物の名前が表示されている。
「はい」
『おう慎吾!! そこは盛り上がってるか!?』
「あぁもちろん!! お前がいないからじゃないか?」
居ない相手にからかいの手を入れる。
『あぁ~そういう事言うのか……。まぁいいやそろそろ着くから覚悟しておけよ!!』
「何を!? お前が来たって怖くねぇよ」
ブツッ プー プー
「あ! 切りやがった!!」
ケータイを投げるように戻した俺はチョッとだけ怒りが込み上げてきた。
その電話から十分後。
「お待たせ!!」
そう言いながらこちらに近づいてくる人物。もちろん村上であることは声を聞いただけで分かる。先ほどの電話内容が少しだけ記憶の中に戻ってきて怒りがわか上がった。
「おせぇぞ(遅いぞ)!! 今までいったい何して……」
振り向きながら声を荒げた俺の言葉はそこから先が出ることは無かった。
思った通り入ってきたのは村上なのだがその隣には……真司と伊織ちゃん。そして
「え!? な、何で真司と唯さん達が!?」
村上の顔はニヤニヤと笑っていた。
それまで盛り上がっていたはずの俺達が居たテーブルも静まり返っている。振り向いた俺の眼には村上と同じようなニヤニヤとした顔が並んでいた。もちろん結城のやつまでがニヤけている。
「なぜって……おいおい慎吾本気で言ってるのか? 今回の事件の本当のお手柄はこの二人だろう?」
そう言って村上が真司と伊織ちゃんの後ろからグイっと背中を押して前面に出してきた。
「そ、それはそうだが……ゆいさ…ううん!!
「そりゃこの二人を連れてくるのに、親御さんに了解を得なきゃいけないだろうが」
「む!!」
「あきらめろ藤堂。約束は果たしてもらうぞ!」
と結城までもが参加してきた。
「な、なんだと!?」
そして少し前の村上の言葉が脳裏に浮かんできた。
覚悟しておけよ。
――あれってこういう事か!? 集まったやつらがなにも言わないという事は知ってたクチだな。て事は、これは慰労会と思ってたのは俺だけ?
――はめられた!!
「さぁ藤堂。ここまで来て自分の同僚たちの前でできませんとは言えないよな?」
「くっ!! お前知ってて!? まさか!? お前か!? これの犯人は!?」
「さぁ……何のことだか……」
結城はそういうと柏木医師たちの方へと視線を向けた。
――大げさに手を上げながら否定しやがって。
ここまでおぜん立てが整っているのに逃げるわけにもいかない。
「わぁったよ!! やればいいんだろ!!」
そう言って俺は唯さんの前に歩いて進んでいく。
目の前に立った時唯さんの頭には「?」のマークが飛んでいるのが分かった。と、いう事はこの人も何も言われずにここまで誘導されて来たに違いない。
唯さんは村上に。俺は結城にはめられたという事だ。
「
「は、はい!!」
突然名前を呼ばれてビクッとする柏木
それを不思議そうに見つめる真司と伊織ちゃん。
俺を見つめる二人の澄んだ瞳を見て俺も腹を決めた!!
「あ、あの!!」
「は、はい!!」
「し、真司の!! そう……真司の母親になって頂けませんか!?」
「は、はいぃ!?」
「いや、その……あの……。俺に新しい家族を……唯さんと伊織ちゃんと共に一緒に暮らしませんか!?」
言われたことにようやく気付いたのか、柏木医師の瞳がうるんできているのが分かった。
「俺と……結婚してもらえませんか?」
「は……はい。よろしくお願いします」
そう言った唯さんは涙が流れる頬をそのままに、俺の胸へと飛び込んできた。
残念ながらそこから俺の記憶がない。
――――――――――
そして今。
「あなた……そろそろ起きてくださいねぇ」
「あぁ……うん」
のそのそと起きて声のする居間の方へ歩いて行く。
「あれ? 真司と伊織は?」
「何言ってるんですか!! 市川さんちの別荘に行くって言ってたでしょ!? まったくもう!!」
「そうだっけ? ごめんごめん」
「今日はお休みですか?」
「いや。またすぐに行くけど……」
外に洗濯物を干していた
「唯」
「はぁい?」
洗濯物を持ったまま振り向く唯。
「愛してるよ」
少し困ったような顔をした後にホホを少し赤く染めたまま微笑んで
「私もよ……愛してるわ」
――と、いうのが俺の家族の話。こんな話は恥ずかしくてなかなか人にはできないけど、伊織を含めて仲良し家族なのだ。俺や伊織の能力の事を理解してくれる優しい父さんと義母さんの元で、俺たちは今幸せに暮らしている――。