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閑話 第1話 二人の出会い


 時は少し遡る。その時間約数年前まで。



 恥ずかしいけどこれは[藤堂慎吾]と[藤堂唯]のという一組の夫婦のお話。そう俺と伊織の父と母である。


 妻に先立たれた慎吾と言う名の父さんは、まだは幼い息子だった俺をを男手一つで育てていた。一方の伊織の母である唯は夫の育児放棄を理由に離婚をして伊織を女手一つで育てていた。

 そんな二人は偶然にも同じ時期に同じ地域へと引越しをしてきた。そして偶然にも自分の子供が、同じ[人では無いモノが見える目を持つ]という境遇を抱えていたのだがまだ周りには言えないでいた。二人の職業柄でもあるのだろうが、他人ひとにいらぬ不信感を与えないようにと思っての事だったと、後になって父さん達から直接聞いた。


 若い時から刑事である父さんと医師である義母かあさん。本来なら絡まるはずのない二つの親子。どうして関わり合い俺と伊織が義兄妹になったのか、家族として4人で過ごすことになったのか、少し時間がかかるかもしれないけど、思い出と共に話してみようと思う。




 それは、俺が小さい頃に起きた事件が元になって、俺の父親[藤堂慎吾]と伊織の母親[柏木唯]が出会い、時が経つのと共にお互いの家族が近づきあった結果がもたらした事。結論的にはそういう話なのだが、まぁ時間が有るなら聞いて欲しい。





 何もない平和な普通な家族になるはずだった。


「ほら、いおり、はやくおいでよぉ~」

「まってよ、おにいちゃぁん」


 今目の前にいる子供たちは幸せになれるのか。横にいる妻は幸せに思っているのか。聞きたくても聞いてはいけない感じがして、その想いだけがずっと胸に重りをつけてるみたいにズシっとのしかかり続けている。

 俺の名前は藤堂慎吾。目の前にいる二人の父親である。

 息子の真司は霊感体質というらしく、人ではないが見えているらしい。らしいというのは、俺自身の職業柄、そう簡単に信じることはできないからだ。おれは刑事で事件を足を使って調べるタイプ。証拠は自分で現場を回って掴むもの。そうやって今の俺が出来上がっている。

 だが、このまだ幼い真司の力で解決したことが少なからずあることも事実。だから今は、頭っから否定できずに向き合っている。

 そして義娘の伊織、この子は再婚相手の唯の連れ子であるが今は本当の家族としてかわいがっている。ただ気になるのは、たまに誰もいないはずの方を向いて、すごく嫌そうな顔をしてることかな。


 妻は救急医療の医師で、今はそのリーダーをしているらしく、家に帰ってくることの方が珍しい。帰ってきても俺の事はほったらかしでいつも二人の子供と一緒にいる。たまに嫉妬してしまうことがあるが、今はそれがこの家の当たり前の風景なのだ。


「うあぁ~ん、おにいちゃんのばかぁ~~」

「あ、そ、そんなぁ~」

なんて考え事も出来ないのが辛いところでもあって嬉しいことでもある。

「真司、伊織ちょっとおいで」

 素直にてこてこ歩いてくる二人を見ながら親になったんだなぁって実感する。


――今は幸せだ……。



――今から二年前、それはまだ俺たち夫婦が他人だった頃。


「真司、今日から行く学校で早く友達できるといいな」

「僕は友達はいらないよ……」

 少し大人良いというか、自己主張の少ない息子が静かにそう返す。

「そんなこと言うなよ、まだ前の学校の友達の事を気にしてんのか?」

「友達? そんなもんいなかったよ……」

 刑事という職業柄、異動になることも当たり前なのだが、俺の場合は本当に突然異動になった。仕方なく異動先で早めに生活基盤を整えるために、息子の学校に近い場所を選んでアパートを決め、先週息子よりも先にアパートへと荷物を運び入れてようやく2日前に落ち着いた。その間息子は両親に預けていたのだが、なかなか心を開いてくれないとぼやいていた。

 両親の気持ちは分かる。妻が生きていた頃はまだ真司はすごくいい顔をして笑って過ごしていたら。


――今はもうあの頃の笑顔を見ることはできないのだ。


 一週間が過ぎ、両親からある話を聞いた。真司がアパートには一人でいたくないと言っているとの事を聞いた。まだ子供なのだから一人で留守番は寂しいのは当たり前だと思ったのだが、両親からの話には続きがあった。

「アパートにいると、知らない人が入って来て、助けてくれと何度も言うんだ」と。

 これを聞いたときに「またか」と思った。


この日、真司に事の内容を聞く。

「真司、ちょっといいか?」

「なに?お父さん」

 呼ばれた真司は素直に俺と向かい合うようにテーブル越しに座る。

「ああ、爺ちゃんから聞いたんだが……見えるのか? なぜ言わなかったんだ」

「うん。お父さんに言っても忙しそうだし。それに……お父さんあんまり好きじゃないでしょ?」


 この時の真司の「好きじゃないでしょ?」に含まれている意味を俺は理解できなかった。

「ああ、まぁ、そういう話は苦手だが。一応聞いておきたいと思ってな」

 息子は下を向きながら大きなため息をついた。まるで大人がつくようなため息だ。

「……じゃぁ話すけど……は毎日こう言うんだ。『俺を助けてくれ、俺はまだ死んじゃいない。死にたくない』って」

「じゃぁそいつはまだ生きてるのか?」

「それは僕にもわかんないよ。調べるのは父さんの仕事でしょ?」


――痛いとこをついてくるな。しかし身元が分からないんじゃどうしようもない。

「名前とか言ってたか?」

「ううん」

 真司は大きく首を振った。

――手がかりがない以上は探しようもない。それにこれは真司だけの言う話だしな。


 俺が考え出そうとした時真司が思い出したかのように言い出した。

「でも、この近くの倉庫に閉じ込められてるって言ってたよ」

「ほんとか!?」

「うん」

――そうか、なら動けるな。

 すぐに同僚にウラ取をさせようかと電話を取り出そうとする。ふと真司の顔が目にはいった。普段は全く表情が変わらない真司が笑顔だったのだ。


「どうした?」

「ううん、何でもないけど、お父さん探してくれるんでしょ?」

「あ、ああ、まぁそのつもりだけど」

「じゃあ僕、少しは役にたてたかな」

 ああ、言いたいことは分かった。妻の残した言葉をこの子はこの子なりに守ろうとしているのだと。

「そうだな。また聞くかもしれないから、今度はもう少し聞いといてくれるか?」

「う~~ん、頑張ってみるよ」

――すごく嫌な顔してたな。

 ちょっと無理させすぎかもしれないな。子供なんだから怖くて当たり前だ。慣れるはずない。いくら小さい時から見慣れているからって……。そいつは生きていないかもしれないんだからな。


 息子から話を聞いたその日のうちに、現場に出ている同僚に電話して近いところでの行方不明事件や捜索願が出ていないか等の情報を、一通り洗ってもらうようにお願いしておいた。

 俺にはこの話が事件だと確信している。親バカとか周りには言われるだろうけど、俺は息子の言う事は信用している。特にこういう事をクチにするときの真司は、子供特有の妄想もうそうやウソをついたことが無い。それどころか以前にもこのチカラのおかげで、解決した事件もあるのだ。


 休日が明けた次の日から、任されている事件とは別に相棒と二人で、息子の言う件も並行して調べることにした。

 今は相棒と共に車に乗って移動中。この相棒も俺と一緒に前の警察署から異動になって、さらにまた同じ部署で相棒になっているという、腐れ縁的な相手の村上良一むらかみりょういちなので、気兼ねすることなく進めることができる。何よりこいつは真司の言うことを信じてくれている、俺以外では今は唯一の存在だ。


「おい慎吾、今追ってるこの件はもらった手元の資料には無いみたいだが何だ?」

「ああ、お前には悪いが息子絡みだ」

「そんなことだとは思ったぜ。今回はなんて言ってるんだ?」

「今回のは自分を探して欲しいらしい」

「事件か?」

「たぶんな……」

 それだけの会話だが通じるから楽でいい。それにこの男は余り小さい事は気にしない。根が陽気な奴である。

「この辺は、もう他の奴らが聞いて回ったらしいぞ?」

「そうなんだけど真司は近くにいるって言うんだ。何か見落としてるかもしれないだろ? それに…」

「それに?」

「お前以外のヤツはあんまり信用できん」

「あはははははは。慎吾らしいな」


 少し広い駐車場に車を停め、所有者に断りの挨拶を済ませて二人で住宅街へと歩いて行く。少し歩くと、道の先で孫を連れたであろう老夫婦がキョロキョロと辺りを見回していた。

 道にでも迷ったかと思い、村上に目で合図を送りうなずいたことで承諾を経て声をかけた。

「どうなされました?道に迷われましたか?」

 お爺さんがチラリと連れの二人を見てからクチを開いた。

「まぁ、迷ったと言えばそうなのですが……。実は孫がですね、この辺りから助けを呼ぶ男の人の声がするっていうもので、その人を孫に聞きながら探していたところなんですよ」


 お爺さんの話と、自分たちの調べていることが偶然なのか似たような感じがした。俺はしゃがんでその話の主であるお孫さんと目を合わせる。

「こんにちは。おじちゃんにその話聞かせてくれないかな?」

「あんた達は何者ですか?」

 怪訝そうな顔をしたお爺さんに聞かれた。

 あ、そういえば名乗りもいていなかったなと、相棒に合図しようと思った時、それを悟ったように村上は警察手帳を手にして老夫婦に説明を始めてくれた。さすがは頼れる相棒だ。

「心配しなくてもおじちゃんたちは悪い人じゃないよ。女の子かな?」

「うん」

「お嬢ちゃんお名前は?」

「いおり、かちらぎいおり」

 お婆さんが聞いていて「あ、すいません柏木です」と訂正してきた。


 そう、この時会った女の子こそが伊織であり、後に自分の義娘になるなんてこの時は思っていなかった。


「この辺で聞こえるってほんと?」

「うん」

 その子はクリクリとした大きな目で俺を見つめていた。この目には覚えがある。そう真司と同じ目だ。こういう時のあの子は嘘なんてついた事はない。


「村上、悪いけどこの辺の聞き込みをもう一度するから手伝ってくれ」

「ああ、構わんよ」

 先ほどの老夫婦との会話を思い出す。あのは近くに住んでいるんだろうけど、あの老夫婦は「道に迷った」と言っていた。つまりはこの辺と土地を良く知らないのだ。ならば探していない場所も必ずあるはず。

 俺はひらめきに似たこの感覚を疑うことなく行動するという行為で肯定した。


――しかし俺の息子と同じような子もいるもんなんだなぁ……偶然にしちゃ出来すぎだ。


 村上と共にその辺りの聞き込みを続けていると、なにやら見かけない車や人が最近多い場所がある事を聞き出すことができた。その場所へと村上と向かっていると何やら怪しい二人の男とすれ違う。


「あぁっと、申し訳ありませんが少しお話を伺えませんか?」

「な、なんだてめぇは!!」

 突然その二人組に声をかけた俺を相棒はビックリしていたが、この男の返事にピンと来たのか瞬時に対応した。

「あ、私らこういうモノで、怪しいモノじゃないんですが事件の捜査をしてまして聞き込みを行っているんですよ。少しのお時間でいいのでご協力願えませんか?」

 こういう時の村上は意外と素早くて頼もしい相棒だ。

「るせぇよ! 時間なんてねぇよ!!」

 と、聞いてる時だった。


 ダッ


「あ、くそ! 逃げやがった!」

 もう一人の男が突然走り出したのだ。これはドラマでもよくあるパターンで俺達もその辺は分かっている。

「俺が追うから後よろしく」

「おう! 後でな!」

 俺はすぐに追いかけ始めた。


「くっ! この!  足早いなお前!!」

「なめんじゃねぇぞ、つかまってなんかやんねぇからな!!」

 まだ捕まえられずに追いかけていた。

 男は目の前の金網フェンスを乗り越え更に走りだそうとしていた。

「ま、待てこら!!」

 ドスッ

 フェンスを越えて着地した地面から悲鳴にも似た音が上がる。ようやく乗り越えた俺はまた走り出した。男は先の路地を右に曲がる。重い体をようやくと使いながら俺も角を曲がろうとした時。


ドゴッ

「あ、ぐわぁ!!」


先に曲がったはずの男がまだいて、手には鉄パイプのようなものを持っている。どうやら俺は注意が足りなかったらしい。まんんまとその鉄パイプによって足を殴られていた。

「ばぁ~か!!」

「く、この!!」

 男はその場から走り去ってしまった。


 ようやく自分たちが停めておいた車を運転して村上がやってきたころには、男はとっくに消えていた。最初の男は応援の仲間に任せてきたらしい。

「す、すまん。迂闊うかつだった」

「なぁ藤堂、悪いことばかりじゃねぇぞ。お前の話によると鉄パイプで殴られたんだろ? ここに落ちてんのってじゃないのか?」

 白い手袋をはめてひょいっと持ち上げる。

「これで指紋照合できるだろ」

 村上はニヤッと笑って言った。


「藤堂、それ……折れてるよな?」

 車に乗せられ痛みが響く足を見つめている。背中には滝のように汗が流れていた。

「いい。大丈夫だ。それよりもさっきの男の身元調べないと」

「おいおい、バカ言うなよ。俺は走れない奴とは組まんぞ」

「くそっ!!」

 車はそのまま近くの病院へと向かっていた。村上は初めから有無を言わさずに俺を病院に連れて行く気だったらしい。連れていかれた病院は近くにある救急外来のある総合病院で、お世辞にも[おおきな]とは言えない所だった。


「すいません、急患なんですが診てもらえますか?」

「どうなされました? あらぁ……足が折れてるかもしれませんねぇ。今、医師せんせいを呼んできますのでしばらくお待ちください。それから患者様の事を考えましてこの車イスをお使いになってください」

「ありがとうございます」

 そう言い残して、看護師さんは足早に奥へと歩き去って行った。

「割としっかりしてる病院みたいじゃないか」

「病院なんてどこも同じだよ。どこでもいい」

「そうかぁ? まぁお前さんが動けない間に俺は少し聞き込みに行ってくるよ」

 そんなことを言い残して村上は病院の中を歩いて消えていった。

――まったくアイツは……なんだか……。


「藤堂さまぁ、藤堂慎吾さまぁどうぞぉ~」

「ああ、はい」

「押しますねぇっ」と看護師さんが車イスを押してくれた。


「藤堂さん今日はどうなさいました?」

「え?」

 長い黒髪にメガネをかけたとてもきれいな女性が椅子に座っていた



 この時、一目見ただけの印象でどこか妻に似ているって思った。

「藤堂さん? 今日はどうなされたんですか? 」

「あ、ええ、失礼しました。実は鉄パイプで殴られまして」

「は?」

「いえ、ですから鉄パイプで殴られたんですよ」

「あははははははは」

 突然大声で笑われてしまった。しかし何を笑われたのかわかんないな。

「あ、あの、医師せんせい? 」

「あはは、あ、し、失礼しました。まさか真顔で冗談を言われるとは思ってなかったので」

「いえ冗談ではなくてですね、事実なんですが」

「え? 本当なんですか?」

 そこまで話してから思いつく。ああそうか、この時間にこんなスーツ姿の中年男性がそんなことを言って病院に来るはずがないのだ。普通は。


「ああ、失礼しました。自分は〇〇警察署の刑事で藤堂というモノです。上着のポケットに手帳が入ってますんで確認してください」

 看護師さんが言われた通りにポケットの手帳を取り出して確認し、更に医師せんせいにも見せて確認を取った。

「藤堂さん、失礼しました。改めて伺いますが、今日はいかがされたんでしょうか?」

「ええ、ちょっと事件の関係で男性を追っていたら、その男性に鉄パイプで殴られてしまって」

「そうですか……。ではまずはレントゲンを撮ってきてもらいましょう。これお願いします」

 ハイっと看護師さんが医師せんせいから差し出されたファイルを受け取った。その折に職業の性というかそのファイルに書かれた名前などを覗き見てしまう。


 医師名[柏木唯]


 柏木……「いおり、かちらぎいおり」


 名前を見たことであのの事がふと頭に浮かんできた。

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