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第28話 ばかぁ!!


 電車の中で市川姉妹は難しい顔をしながらお互いの顔を見ていた。

「ねぇ理央?」

「なぁに?」


 響子は双子の妹と並んで立っていた。

「今日って結局私達何もできなかったわねぇ」

「確かにそうね。でも私達だって何かできることがあるはずなんだけど……」


 私達はあることがきっかけとなって、藤堂義兄妹とうどうきょうだいと知り合って、兄の能力を目の前で見せられその事で身も心も救われた。

 特に妹の理央は、自分の命を救われたことに非常に恩を感じており、自ら率先して義兄妹のサポート役を買って出ている感じだ。私も恩を感じてはいるんだけど、サポートをしているのはどちらかと言えば兄の真司への恋心からである。


――それは理央にも話してあるので理解してはもらってるんだけど……。

「響子……。最大のライバルが更に強力になってるわね」

「むぅぅ~!! ソレに関しては何故教えてくれなかったのかちょっと怒ってるのぉ」

「ゴメンね。ショックを受けると思って……」


 私のライバルは現状で二人いる。


 一人は日比野カレンと言って私達姉妹の幼馴染。中学時代からアイドルグループ[セカンドストリート]に所属していて今ではトップアイドルとして、TVをはじめいろいろなメディアで活躍している。

 普段は束ねたお下げ髪に赤い縁のメガネ姿で少しいる。


 もう一人。

 こちらが自分なりに強敵と思ってるんだけど、真司クンの義理の妹伊織ちゃん。一緒に行動するようになってからまだそんなに時間は経ってないけど、女の勘ってよりも見てれば分かる。あのコは真司くんにれていると思う。


 その強敵が義妹と言うだけでなく、彼の能力と同じものを持ってるなんて更に差がついてし

まった気がする。


「どうしよっかなぁ……」

 ため息交じりで小さな言葉がもれた。


「じゃぁ、諦める?」

「ううん、まだ諦めないよぉ……」

「だよね 」


「探そう!! 私たちに出来る事!!」

「うん!! 頑張ろう!!」

 お互いにがっしりと手を握りしめあう。


「で、どうする?」

「うん!! まずは……私もようになる!!」


 ガタタンッ ガタタンッ


「ソレは無理でしょ」

「えぇぇ!! 即答なのぉぉ!!」

 最寄り駅まで姉妹の会議は続いた――





 その日の夜。自分の部屋のパソコンの前に座って考え込む俺。


 何を考えてるのかというと、今自分が思っている事は果たして現実的に起こり得るものなのか?

 と、いう事。

 これは、視えない達が居るのかいないのかの論争以上に俺には分からないからだ。

 それは[女の子の感情]だから。俺にはお手上げである。俺の考えでは今回の元凶は理沙ではない。それどころか被害者といってもいい。ただそれが本当だと考えるならば……今日の話を聞く限り出来そうな人はたった一人。

 だからこそ悩んでいたのだ。


 ブブブブッ、ブブブブッ


 ベッドの上でケータイが震えている。

 表示された名前は伊織。

 一緒に帰ってきてから、ご飯を食べて自分の部屋へと入ったはずなので、この電話はおそらく二階の伊織の部屋から掛けられているのだろう。わざわざ電話してくることもないとは思うんだけど……。


「はい、どうした?」

「あ、お義兄にいちゃんまだ起きてる?」


 時計を見るとまだ針は午後十時を回ったばかり。


「こんなに早くは寝ないよ」

「そう。今から部屋に行ってもいいかな?」

「ん? 別に構わないけど」

「じゃぁ、今から行きます」


 そう言って電話をきった。


 数分後――

 こんこん


「開いてるから入って来ていいぞぉ」


 ガチャ


「おじゃましまぁす」

 かわいいクマさんのプリントされたパジャマ姿の伊織が入ってきた。


「どうした伊織こんな時間に珍しいな」

 椅子に座ったまま声をかける。

 伊織はそのままベッドまでとことこ歩いて来てぽすっと腰を下ろした。


「お義兄ちゃん」

「ん?」

「お義兄ちゃんが考えてることが本当だとしたら、私達は何か出来るのかな? 私には何も感じられなかったんだけど」


あの時伊織に耳打ちしたのはたった一言だけ。

「俺は菜伊籐さんが怪しいと思う」 

 このことしか言っていない。


「確かに何もできないかもしれないけど、たぶんあの子も苦しんでるんだと思うんだ。なら、助けてあげたいなぁって思ってさ」


「うん……そうだね。お義兄ちゃんの言う通りだね。お母さんも言ってたし。人の役に立てるようにって」

――あれ? 義母かあさんもそんな事言ってたかな?

 ちょっと不思議に思ったけど俺もうなずいた。


「よし!! じゃぁ私も出来る限り頑張るよ」

「うん。頼りにしてるよ」

「それと、私と大野クンはホントに何にも関係ないからね!!」

「わかったよ!! そんなにムキになるなって」

 伊織がクチをもごもごさせながら何か言ってるけど、さすがにきこえなかった。たぶん文句を言ってるんだろう。


「じゃぁ、寝るね。おやすみなさい」

 立ち上がって部屋を出ていこうとする伊織。

「ありがとう、伊織。それと……」

 ドアのところで立ち止まりこちらを振り返る。

「なに?」

「そのくまさんパジャマ似合ってるぞ」


 かぁ~!!

 途端に伊織の顔が赤くなっていく。


「お義兄ちゃんのばかぁぁぁぁ!!」


 バッタ――ン!!


 勢い良く閉められたドアと伊織の声で耳がキ—ン!! と響いた。失敗したかぁなんて思いながら、一人になった部屋で何ができるのかを考え始めた。



またみんなに集合をかけて集まることになった。

「ねぇねぇここにね……」

 カレンと理央が棚の中をきゃいきゃい言いながらごそごそして。


「おう! これいいですねぇ」

 大野君がCDを漁り。


「ごめんなさぁ~い コップとってもらえるかなァ」

「はい、響子さん」

 伊織と響子が人数分の飲み物を注ぎ分けている。

 俺はというと、パソコンの前んで椅子に座りカチカチと調べ物をしていた。


 そう集まった場所は何故か俺の部屋だ。

 前回の女の子2人は都合がつかず、1人は後で合流することになっている。

 で、このメンバーだけがそろったわけだけど……。


「お前らいい加減にしろ!!」

「「「はぁい」」」

 振り向いた俺が一喝する。

 立っていた人は空いてるところに腰を下ろし、座っていた人は俺に視線を向けた。


「みんな、頼んでたものはどうだったかな?」

「話は聞いて来てるよ」

「こっちも大丈夫よぉ」

「藤堂さんも、僕も頑張ってきました」

「わかった。俺も話を聞いてきたよ。これから何をするのかは、皆の話を聞いた後に説明するよ」

 部屋の中でみんながうなずいた。



 それから1時間後。

 俺達はこのことの始まりの学校に来ていた。普段はなかなかこういいう自分の学校と違うところには入れないのだが、事前に皆川さんと新井さんに頼んで許可を取ってもらっていた。そしてその二人も今は合流している。


 俺達はその教室で一人を待っていた。


「ごめんなさい。遅くなっちゃいました」

 息を切らせながら入ってきたのは今回の相談者の菜伊籐さんだ。


「大丈夫だよ。後は君だけだったから。じゃぁちょっと準備するね」

 教室にいたみんなでカーテンを閉めて暗くしたり、教室の電気を消したりと手際よく進めていく。


「あ、あの……。これは?」

 顔を少し曇らせた菜伊籐さんが聞いてきた。


「うん。これで良し。さぁ菜伊籐さんその日の事を検証してみよう」

「え!?」


 明らかに動揺しているようだ


「な、なぜ? 今? ここで……」

「やってみないと分からないこともあるよね。だからかな。今日はその他にも人がたくさんいるから、何かあったときはすぐに止められると思うよ」


 少し考えていた彼女が俺の前に歩み寄ってきた。


「だ、誰とするの?」

「もちろん俺がお相手するけど良いかな?」

 俺が返事をすると、のどを鳴らしてコクンとうなずく菜伊籐さん。


 とりだ用意しておいた紙を机の上に置いて、対面になるように椅子に座る。

 ポケットからコインを取り出してその上に置いた。


「いいですか?」

「は、はい」


 神を呼び出す儀式がはじまった。


 数分間は何も起こらずに経過した。

 俺は頃合いみて伊織に目線の合図を送る。その伊織からみんなに合図が送られ、それぞれが起こる事に対応するために態勢を取る。


 みんなが一斉にうなずく。

 それを確認した俺が前を向きなおして……始める。


「そろそろ菜伊籐さん」

「始めるって……もう一緒にしてるじゃない」

「いえ、これの事じゃありませんよ」

「え!?」


 小さなため息をついた。


「それとも今日は出さないんですか? 理沙さんがいないから」

「な、なんで……それ……」

「本人から聞いてきたんですよ」

「……」

「俺と伊織で行ってきたんですがちゃんと話してくれましたよ。あなたとの関り合いからすべてを。そしてその時は全く他の存在を感じなかった。そうその部屋にはから。ですよね?」


 辺りに重く冷たい空気が漂い始めた。


 —―来る!!


 俺の全身の感覚がそう警戒してきている。


「彼女いる時にしか怪奇現象が現れないみたいですし、なによりあなたがいる時にしかでていない。これを考えると……」

「そこまで分かってるのね」


 それまでの雰囲気と変わって菜伊籐さんから強い暗いイメージのプレッシャーが湧き出してきていた。


「『では遠慮はいらないって事ですよね』」


 その言葉と同時にいままでそこにいた菜伊籐さんがさんではなくなった。

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