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第27話 いいからいいから


「えっと……」

 俺は視線だけを理央の方に向けた。

「あら? もしかして私だけが知らなかったのかしら?」


 理央がクチを手で覆うような仕草をして少し俺から隠れるように響子の後ろに廻りこんだ。俺は理央から伝わっていると思っていたけど、理央の行動からするとそんな話はしていないようだ。


「ごめんな響子さん。こないだ集まったときにみんなにはその事を話したんだ」

「へぇ~、そうなんだ 私がいないときにねぇ……」

 なんだろういつもはふんわりしてる感じがあるのに、今は怒ってるのがはっきりわかる。そして…怖い。とりあえずこの場の雰囲気を変えなければと考える。


「そうだ、次はどうするんだ伊織」

「え!? わたし!!」

 突然話を振られた伊織がビックリして体を震わす。


――ごめんな伊織。


「えと、それじゃぁですネ。まずはその現場にいた人たちからもお話を伺ってみましょう」

「そ、そうね。そうしましょう。で、いつにする?」

 こういう時冷静な伊織は凄く助かる。そしてカレンもそれに合わせてくれる。

「次は私もしっかりと聞きますからね」

「うん、ごめん。やっぱりみんながいてくれて良かった」

「照れくさいこと真顔で言わない!!」

 バシッと背中をたたく理央。ジンジンする背中の痛みも心地いい感じだ。顔を上げてみんなの後を追い、駅へと向かって歩いていった。




 連絡を取り合ってもらった結果、どうやらその時何があったのかを知るメンバーに会えることになったようだ。もちろんその話し合いに俺は関与していない。だって女の子となんて話せないし。

 その場所はこの前の集合場所の公園。明るい所と明るい時間がいいという提案があったみたいだ。


「なぜ君がいるのかな?」


 俺が言うそのとはもちろん大野クンの事なのだが。


「先日は本当にすいませんでした。あの後考えたんです。自分は何がしたかったのか」

――おおう。何か突然熱く語りだしたけど。

「僕は、その……ただ嬉しかったんです!! 自分と同じ世界を視てる人が他にもいたことに。しかも間近にいたことに。だからつい興奮してしまって。なにか役に立たなきゃ!! なんて思ってしまって」


――ああ、そうか……この子は少し前の俺なんだ……


 何も言わず彼の頭をポンポンと軽くたたいた。大野クンはすごく恥ずかしそうに頭に手をまわして赤い顔をした。


――なんか伊織唇がとがってるけどなんでかなぁ? 



「こんにちはぁ」

「こんなところまで来ていただいてありがとうございます」

 そこに女の子が三人並んで現れた。この前の菜伊籐さんと、今日初めて顔を合わせる2人は皆川理恵みながわりえさんと新井加代あらいかよと名乗った。

 俺達も一通り自己紹介をする。それが終わると皆川さんがすまなそうに頭を下げた。


「ごめんなさい。こんなに暑いのにこんな昼間の屋外で待ち合わせなんて」

「ああ、それは大丈夫。気にしなくていいいわよ。それにここにいる大半は同級生だから、敬語とかなしで気楽に話そうよ」

 カレンがすかさず話しかける。この辺りアイドルカレンのようなコミュ力はさすがだと思う。

「じゃぁここで話してるのもあれですから、皆さんで座れる場所、そうだあそこの木陰に行きましょう」

 理央が誘導する。

 響子と伊織と大野の三人がみんなから好みを聞いて、自販機へと歩いて行った。この辺り、いつの間にかチームワーク的なものが築かれつつあるようだ。


 その中で俺はというと。

「あんたが動いちゃ意味ないでしょ!!」

 自販機へと歩いて行くメンバーの後を追うとしてカレンに怒られていた。みんなもうなずいてるし。


「いやでもみんながやってるのに俺だけ座ってるってのも……」

「私たちは自分でやりたくてやってるんだから気にしなくていいのよ?」

「そうそう。それにここにシンジ君がいなかったら、三人に来てもらった意味が無くなっちゃう」

 姉妹にも言われて座って待つしかなくなった。


 先に木陰に座っている三人の元に飲み物が配られた後、ようやく俺が近づいていく。大きく深呼吸をいた。初めて対面する女の子と話をするのはすっごい緊張を伴うのだ。

「そろそろ落ち着いたかな? 話を聞きたいんだけどいい?」


「は、はい」

「大丈夫です」

 コクンと最後に菜伊籐さんがうなずいた。


「その時の状況をなるべく詳しく教えてくれるかな?」

 三人が顔を見つめあいコクンと合図しあう。クチを開いたのは新井さんだった。


「初めにその話をし始めたのは、私達三人だったんです。それからあの子……理沙も加わって4人でやろうって事になって……」


 今初めて知ったことがある。この前行った女の子の名前が理沙っていう事だ。


「みんな帰ってたから教室には4人しかいなくて、カーテン引いて電気も一列だけ残して消して暗くしたんです」


「初めのころは何も起きなくて、途中からふざけて触ってる人たちで勝手に動かしてたりしたんですけど……」

 チラッと菜伊籐さんの方へ視線を向ける。

「華夜と理沙がすることになってから理沙が少しずつ様子がおかしくなって……」

 皆川さんが新井さんの後を継いだ。

「突然掴んでたコインが勝手に動き出して、声が変わって、目つきが変わって……もう最後の方は理沙じゃなかった」

 菜伊籐さんが締めくくる。三人で下を向いてしまった。


「そうか……」

 俺は伊織の方に視線を向けた。

 伊織はコクンとうなずく。


「君たちはたぶん……霊を呼び出しちゃったんだね」

 俺は大きなため息をついた。



「君たちは遊びのつもりでやっていたんだろうけど、その行為で本物を呼んでしまったみたいだね」

 俺の前の三人が目を丸くしている。


「え……? じゃ、じゃぁ理沙は……」

「あの感じからすると人だと思うんだけど、かれてしまったんだろうね」

「そ、そんな……」


 俺は少し気になったことがあるので、隣にいた伊織とカレンに耳打ちした。突然されたから二人ともビックリしてたけど。

 伊織はうなずき、カレンは目を見開いた。


「ちょっと気になることがあるから一人ずつ話を聞かしてくれるかな」

 そう言って3人をバラバラにして、詳しく話を聞く事にした。


 先ずは皆川さん。次に新井さん。最後に菜伊籐さんだ。内容は同じだけど聞く事は違う。その意図を伊織は感じ取ってくれたらしい。


「ありがとうございます。だいたいの話は分かったと思います」

「ううん。こちらこそ。あの……私達暗くなる前に帰りたいからそろそろ……いいかな?」


 周りはまだ日も落ち始めてはいないけど、余ほど暗いあの時怖い目にあったのだろう。だからこそ今日は早めに集まってもらったんだけど、話を聞いたりしてると時間の経過はあっという間だ。


「あ、うん。今日はありがとう。気を付けて帰ってね」

 立ち上がってお礼を述べて頭を下げる。


 三人とも立ち上がってそれぞれに挨拶し並んで公園を後にした。周りにいたメンバーが近くに寄ってきて腰を下ろす。


「まったく。また厄介な話にあんた巻き込まれちゃったわねぇ」

 ため息交じりにカレンがもらした。

「それもシンジ君らいいんじゃない?」

 理央が言う。


「お、俺だって好きで巻き込まれてるわけじゃないぞ!! だいたい好きじゃないし……」

「ハイハイ、慣れてるわけじゃないし慣れたくないって言うんでしょ? 分かってるって」

「あうぅ……」

 カレンにセリフを取られて変な声が出た。


「それで、これからどうするの? 何か考えがあるんでしょ、シンジ君」

 いつものふわふわな感じで響子が話す。


「うん。みんなに少し頼みたいことがあるんだ……」


 俺の周りに円を描くように集まって話をし始めた。


「わかった。任せておいて」

「このぐらいなら私達にも出来そうね響子」

「そうねぇ。頑張らなきゃ」


「それから、みんな気を付けてね」

「「「 おう!! 」」」

 みんなが拳を振り上げて気合を入れた。なんかこういうの慣れてないから恥ずかしい。


「あ、あのお兄さん、僕は何をすればいいでしょうか?」

「ちょ、ちょっと大野君!!」

 俺の前に出て来ようとするのを伊織が止めようとしている。


「大野君も手伝ってくれるのかい?」

「え!? お義兄にいちゃん!?」

 良いからいいからって手で伊織を落ち着かせる。


「ぼ、僕に出来ることがあれば協力したいと思います!」

「ありがとう。そうだなぁ……じゃぁ伊織の調べ物の手伝いをしてやってくれないかな?」

「ふえぇ!?」

「は、はい!! 頑張ります!!」

 気合が入る大野君とは対照的に、がっくりと落ち込む伊織。


「ねぇシンジ君。あの子も仲間に入れてあげるの?」

 カレンと市川姉妹が寄ってきた。

 三人で俺の顔をじぃ~っと見つめてくる。こういうのって慣れてないからかなり照れる。特に相手は女の子だし。

「う、うん。まぁ今は視える人が多いにこしたことは無いと思うし、それに……」

「それに?」

 俺は大野君と伊織の方に視線を移した。

「それに、悪い子じゃないみたいだからなぁ」


「はぁ~~」

 カレンが大きくため息をついた。

「まぁ、シンジ君がいいならあたしはいいけどね。あんたらしいしさ」

「そうね」

「それにシスコンが治るかもしれないしねぇ」

 最後に響子がくすくすと笑う。


「い、いや、違うから!! シスコンじゃねぇし!!」


「またまたぁ」

「いいからいいから」

「分かってる分かってるって」

 なんてていいながら歩いて行く三人。

「いや、わかってねぇだろうぉぉ!!」



 こうしてこの日の作戦会議は終わった。

 それぞれが家に帰るべく、みんなで一緒に駅まで並んで歩いて行った。


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