目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第24話 体育館裏での告白!?


――人が大勢いるのは楽しい。男の子同士のふざけた遊びも楽しい。

 女の子同士の秘密の恋バナも楽しい。聞いてるだけでも楽しくなる。でも話しかけられない。話を聞いてもらえない。


 呼ばれた時は嬉しかった。必要とされてる気がしたから。私にとっては大切で大事な事でも、この子たちにとってはただの遊び。呼ばれることが多い時もあるけど、それも長く続かない。


 そして人は変わっていく。

 今年も来年もまた人変わる。

 今年も来年もまた人変わる。

 その時また呼ばれるのだろうか……。


 私はまた待ち続ける。その時が来るまで、その人が来るまでいつまでも、いつまででも――。





 今、鼓動はバクン! バクン! いっている。立ってるだけなのに手汗がびっしょりだ。

 授業が終わった放課後だというのに、涼しくなるどころか熱い日差しもあって、全身から汗も噴き出して滝のように流れている。


 俺は今、体育館の裏で女の子と二人だけで向き合っている。



 二時間ちょっと前――。

 昼飯を食べに屋上に行っていた俺は、予冷が鳴る前に自分の教室に向かった。特に早く戻ってもやることは無いけど、席についてぽ――っと窓の外を見ているのが結構好きだったからだ。

 しかしなぜかこの日は、俺が教室へ戻るとクラスメイトがざわついた。いつもそんなことはないから少し気になったが、特に変わった様子はないので自分の席に着いたのだ。


 [藤堂 真司 様へ]


 見慣れぬかわいい封筒に俺の名前。


「よう、真司。なんかさっき女子がソレ置いて行ったぞ」

「なんだ藤堂やるなぁ!!」

 とか、周りの男子は言ってるけど。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!」

 叫んだのは言うまでもない。



――で今である。


「あの……手紙……読んでもらえたかな?」

「う、うん……」

 こんな感じのシチュエーションに憧れてなかったわけじゃないけど、自分がいざその立場になってみたらわかる。

――これはやばい!! 下手すると死んでしまうくらいヤバイ!!


「あ、あのね!!」

 ゴクッ!!


「あ、あの!! 藤堂クンって幽霊見えるってホント!?」


「は、はいぃぃ!?」

 すっごい所から声が出た。自分でも聞いたことないくらいの高いやつ。


「あ、あのね、聞いたんだ友達から。それでね、えと、助けて欲しいかなって……」

 ここで俺の夢ははかなく散ったのであった。 

――ちくしょう~!! て、あれ? ちょっと待てよ……今なんて? 友達から?


「えと、君は……」

――誰の友達ですかね?


「あ、ごめんね。わ、私、相馬夢乃そうまゆめのって言います。1年A組の」

「そうじゃなくて。あ、まぁそれもそうなんだけど、その聞いた友達って誰かな?」

「あ、えと、三和玲子って知ってますよね?」


—―えーと、そうきたか。うん。なんとなくわかる様な気がする……。


「どういう風に俺のこと聞いてるのかな? ゴメンね質問ばかりして」

「いえ、そうですよね。突然そんな事言われたら驚きますもんね」

 俺の場合そればかりが理由じゃないんだよね。最近なんか友達という関係から、友達の友達にまでが広まってるのが問題というか。

――視えるイコール好きとか慣れてるとかでは決してないんだけどなぁ……。


「じつはですね、玲子とは中学校まで一緒で仲も良くて、今でも時々遊んだりするんですけど、つい最近遊んだ時にある相談をしたんです」

「相談?」

「はい。ここ最近……と、言うか一か月ほど前からなんですけど、の周りで不思議な事……いえ、怖いことが起こり始めて、それで玲子に「怖いんだけどどうしたらいいかなって」

――だんだん話が見えてきたぞ。


「そしたら玲子が、「それならいい人知ってるよ!」って言うから、紹介してって言ったら……」

「言ったら?」

 もうわかってるけど、あえてその先を聞いてみる。

「あら、近くにいるじゃない。藤堂真司クンよって」

「……」


—――何だろう。すごく暑いはずなんだけど、背中に流れるのが冷たい汗に感じるなぁ……。


「う~んと、まず相馬さん……だっけ?」

「は、はい!」

「その話に間違いないのなら、確かに答えはイエスだけど、俺には何の力もないんだよ。払ったりとかなら、神社とかお寺とかに頼んだ方が確実にいい」

「え!? でも玲子が頼りになるわよ!! て言ってましたけど」


「はぁ~~」

 下を向きながら大きくため息をつく。


「聞いて、もらえないかな?」

「知り合いから相談されてるのなら、聞かないわけにはいかない……かな」

「ありがとう!! 言ってみて良かった!!」

「それじゃ、ゆっくり話聞きたいから時間に余裕が出た時に連絡してくれないかな?」


 ケータイを取り出してお互いのメールアドレスを転送する。

 もちろんのアドレスを相馬に教えた。


 彼女は「また連絡するからねぇ」って言いながら走り去って行ったが、俺はその場に立ち尽くしソノ後ろ姿を見つめていた。


「はぁぁぁ~」

 それからまた大きなため息がもれるのであった。




 ほどなくしてそれから数日がったある日の事。俺は何も用事が無いので家にいた。

「お義兄にいちゃん!! どうして私のケータイに知らない女の人から電話とかメールが来てるの!?」

 義妹いもうとが結構なお怒りモードで俺の部屋に突撃してきた。

 何を言ってるのか意味を理解できないでいた俺に、伊織がケータイ画面を目の前に「ほら!!」って感じで差し出してきた。暑くなり始めたこの時期は部屋の入り口は寝る時以外は開いていることが多い。


「お義兄ちゃん?」

「え? あ、ああそうかケータイにだっけ?」

「そうだよ!!」


 ぐぐぅ~!! と目の前にケータイがさらに押しつけられてきた。


「ほ、ほら!! あれだよ!! 前に伊織が言ってたじゃないか!!」

「え! 私が!?」

「そうだぞ! ほら! 前にさお義兄ちゃんが知らない……」

「わぁぁぁぁぁ~!!」


 取が目の前でワタワタしてる。

――なんかこういう伊織の仕草ってあんまり見たことないから新鮮だ。しかもかわいいし。


「で? これはどういう事? また関係?」

「ああ、そ、そうなんだよ実は……」


 なぜ知らない女の子から妹に連絡が行くようになったのか、数日前に起きた事を伊織に伝える。


「はぁぁぁ」

 伊織から大きなため息が漏れた。


「お義兄ちゃんってホントにお人よしというか、巻き込まれ体質というか。今回もお話聞くだけじゃないんでしょ?」

「そりゃまぁ……知り合いからの紹介って言うか、頼って来てくれたんだからそんなに無下にも出来ないだろ?」

「うん、そう……だね」

 考えるように小さくうなずいた。

「わかった。じゃぁ私から連絡取っておくけどいつがいいかな?」

「そうだなぁ、次の土日とかでいいんじゃないかな?」


 伊織は「オッケー」と言い残して二階の自分の部屋へと戻って行った。



 正直言うと、俺はまだ戸惑っている最中なのだ。前にあった出来事の最後に義妹の伊織からの発言が、俺の心の中でモヤとなって漂っている。

 それまでの自分はが視えていて他人ひとには見えてない世界があたりまえだった。でもすぐそばに同じ世界をみている人物が現れただけでも驚きなのに、それがまさかの義妹なのだ。

 あの時の公園での告白からまだ日にちはそう経っていないんだけど、伊織はもう平常運航でいつもと同じ優等生な義妹になって、俺はなんかとろけたスライムみたいにねばついている。


――このどうしようもない気持ちを何とかしたいんだけどなぁ……。


纏まらない考えをこねくり回していると、どこかから音が聞こえてきた。

 ブブブブッ、ブブブブッ

 ベッドの上に置きっぱなしのケータイが俺を呼んでいる。と、取るのを少しためらう。


――まさかなぁ。

 表示を見ると日比野カレン。俺が唯一まともに会話できる女の子の一人だ。


「はい」

『あ! シンジ君? 聞いたわよ!』

 女の子同士の情報伝達の速さは予想以上だな。さっき伊織に言ったばかりなのに。

「おお。なんかそんな話になってさ」

『……そんな話って何の話?』

「何のって……じゃないのか?」

『う~ん、それもちょっと気ななるけど、シンジ君が告られたって話だよ』

「はいぃ!!?」


――いったいどこからそんな情報が回ったのか知らないけど、まったく心当たりのない事をコイツ、今サラッと話したぞ!! 


「な、なに言ってんだよ!? そんな事ねぇよ!! あったら嬉しいわ!!」

「あれ? だって体育館の裏に呼び出されて告られたって聞いたけど?」

「あれかぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 確かにある種の告白ではあったけど、こんな勘違いをされてるとは思ってなかった。と、言うかあの相馬さんは一体どんな説明をしたんだろ? コイツに伝わったのがこの状態という事は……考えたくもない。


『ちょ、ちょっと!! う・る・さ・いぃ!! 今のリアクションで分かったわよ。なかったんでしょ? 良かったって言うか……』

「わ、悪い。取り乱した」

『いや、うん。で? そっちのって何よ?』


 落ち着け俺!! 心に言いながら、この間の体育館の裏の事から、この電話の事までを素直に話した。


『ふ~ん……じゃぁ土日空けとくわ。決まったら連絡ちょうだい』

「え? カレンも来るのか? 」

『なによ!! 私が行っちゃダメなの!! 邪魔なの!?』

「いや! 邪魔ってわけじゃないけど……その、今回はカレンには遠い存在というか、友達の友達というか、そういう相手だから興味ないのかと思ってさ」

 カレンは黙り込んだ。

「カ、カレン?」

『いい? 私は友達というか……。だから関係者なの!!』

 耳にキーンッとなるほどの音量で返事が返ってくると、そのまま電話は切れてしまった。

「なんだよ、アイツ……」


 そういう言葉とは反対に、心の中では「さんきゅ」と言っていた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?