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第23話 そこにあなたがいたから



「ああ、真司。例のだけどな、分かったぞ」

「ホントに!! じゃぁ、少ししたらかけ直すよ」

「わかった」

 簡単な言葉をいいのこして電話をきる。


—―よしこれでまずすることは決まったな。


「よしみんな!!」

「「「おう!!」」」

「一時撤退!!」 

「「「えぇぇ~~!?」」」


 言いながら、そこにクルっと背を向けて先ほど来た場所を駆け戻っていく。俺の行動に合わせて、女子組の四人も後ろを追いかけるように駆けてきた。なんか途中でカレンがブーブー言ってたみたいだけど気にしない。父さんから連絡が来たなら今は目の前のらよりこっちが大事なのだ。

 勝てないと分かってて勝負するよりも、勝算が少しでもあってからの方が全然気持ちが違う。まぁ俺の心構えの問題なんだろうけど。


 元のお土産屋さんまで戻り、カレン達は腰を下ろした。座ることも考えたけどここは伊織に席を譲って電話をかけることにした。


 プルルル~、プルルル~


「はい」

「あ、父さん、ごめんさっきの件だけど……うん、うん、そうか、じゃぁあの件頼むよ。うん、父さん、ありがとう」

 大きな深呼吸をひとつした。

「シンジ君、何かわかったの?」

 席の端でペットボトルのお茶を飲みながら休憩していた理央が話しかけてきた。

「うん……。でもあまりいい話じゃないんだ。これから父さんに聞いた話に、俺の考えを加えたものをみんなに話すよ。

 自分んで説明しやすい言葉を選びながら、それでもみんなに分かりやすく説明した。


 話を終えた後少し時間を置いて一人だけ腰を上げた。

「行くんでしょ?」

 いつの間にか横にいたカレンが肩をポンと叩いた。

「うん、やっぱり話をしなくちゃいけないからね」

 その言葉を聞いた伊織に響子、理央も腰を上げた。残りの遠野と妻野にはまた万が一の為二人を見てもらうために残ってもらう事にした。

「さぁ、開放してあげに行こうか」

「「「うん」」」

「はい!!」

 俺達は再びあの女の霊と対峙するべく先ほどの場所へと戻っていった。


 そいつはまだそこにいた。

『またお前たちか。邪魔するなと言ったはずよ』

 先ほどの威圧感と同じくらいのモノを感じ、また冷や汗が噴き出るのを感じながら俺は語り始めた。

「そうはいきません。もうやめましょう」

『何ですって?』

「あなたが望むもの、望む人はあなたには付いていきませんよ」

『なぜ?』


 いったん言葉を切る。周りにいたみんなの顔を見回した。

 みんなが無言でうなずく。


「あなたがその人を好きで欲しがったのは分かります。でもあなたは、あの秋田真由美さんをどんなことをしたか知りませんが罠にはめたんですよね? その結果彼女はこの湖で亡くなった」


『そうね。その通りよ。アイツは邪魔だったわ。婚約したからって村中でお祝いした。でもね、隣村の男と浮気したって噂が流れたのよ。そしたら村から追い出されて、他の男に襲われて、挙句には湖で亡くなったらしいわ。その噂を流したのは私なんだけど……』

 やはりこの霊も自分のしたことに関しては少し思うところがあるらしい。そこを突かなければこの霊を口説き落とすのは難しいだろう。


「そろそろその男性を開放してあげませんか? あなたがやったんですよね? その男性も」


『ええ、そうよ。探しに行くんだって言ってまったく振り向いてくれないんだもの。まぁ見つかってないんだから仕方なかったかもしれないけど』

 だんだんとこの霊から放たれていた冷たく暗いものも薄れ始めていた。


「その男性がこの近くに居るんですね?」

「「「え!?」」」


 これには女子組3人が驚いていた。女子組はもちろん俺とこの女の幽霊との会話は聞こえないし見えているわけでもない。先ほど説明した時もあえて言わなかったことだから。

 なぜか伊織だけが悔しそうな顔をしていた。


『あなた、なかなかすごいわね。そうこの人はにいるのよ。それが建つときに埋め立てられた浜の一部に一緒にね』


「それで……あなたが亡くなった理由はなんですか?」


『私は……この人の事が心配で車で見に来たら見えたのよ。あの女が。それで事故を起こして湖に……』

 女の霊はハッ! としたような顔をする。


「そう、もうあなたの望みは叶ってるんですよ。その男性が心配でここに来たのなら、その男性がここにいることを知った。あなたはもう向こうに逝くべき人だ!!」


 俺の言葉を聞いて納得したかどうかは知らないけど、女の霊は少し悲し気に微笑みながらスーっとその場から消えていった。

 それと同時に先ほどまで立ち込めていた暗く冷たい空気も少しずつ元を取り戻していった。


「ふうぅぅ」

 俺から大きなため息が漏れる。

 これでここにいた男性を狙う女の霊はもう大丈夫だろう。

 問題はまだある。


『大丈夫ですよ』


「え?」


 振り向いた先。そこには笑顔で男性を見つめる秋田真由美の姿があった。


『大丈夫。この男性ひとは私が見てるから。だからあなたはお願いするわね』

 やっぱりこの人にも狙いはあったみたいだ。

――薄々は感じてたけど……。

 ここまで来たんだからこの人を信じてみようと思った。俺は彼女に向けコクンとうなずいた。


「さぁ、帰ろう!!」

「なに? 終わったの?」

 それまで俺と伊織の後ろにいた女子組がため息をもらした。


「ああ、はもう出来ることは無いよ。あっちの二人も、もう大丈夫なはずさ」


 俺たちはお土産屋さんまで戻り、居残り組の四人と合流した。

 三和と正晴が少し疲れている様子だったけど、時間が経てば元にまで回復するだろう。しばらく休んでからみんなで歩いてバス停まで戻る。俺はもう一度湖に振り返った。

 そしてケータイを取り出す。

「あ、父さん。うん。こっちはもういいよ。お願いできるかな?」



 こうしてこの日は終わりを告げた。




 一週間がたって俺達はまたあの喫茶店に集合していた――。


「いやぁ~、一時はどうなる事かと思ったぜぇ」

「まったくぅ。だから来なくていいって言ったのに」

「だってようぅ、女の子ばっかりのトコに真司が一人とか、うらやま……違う、あ、危ないだろ?」

「今、なんて言った!?」


 さっきからこんなことをずっと聞かされている。

 今日は遠野と妻野はそれぞれがデートで来れないらしい。正晴と三和だけが影響を受けたことと、俺つながりという訳でここに来た。あとはいつもの女子組四人だ。


「それでシンジ君、あの後どうなったの?」

 この後アイドル業に行くアイドルバージョンカレン(いつもより少し派手め)がグラスを手にしながら聞いてきた。

「ああ、あの後は父さんに頼んどいた事が動いて、無事に男性も秋田真由美さんもあの湖から発見されたよ」

「へぇ~、秋田さんも」

 のんびり口調の響子だ。

「うん。俺達が彼女に初めて会ったあの浜は、少し行くとかなり深くなってて、底に樹木や水草なんかが冷たい冷水のおかげで腐らずに残ってるんだって。そこに奇跡的にとどまってたらしいよ。彼の方はもう体は無くて骨しか残ってなかったらしいけどね」

「そっか。でも二人とも無事に会えたんだね」

 と理央。

「うん。十何年ぶりの再会さ」


 そんな報告がされた後、またキャイキャと騒ぎ始めた。俺はそれには混ざらず、窓の外を見つめた。彼女と彼があっちで仲良くできたらいいなぁって思いながら。


――ちなみにこの騒ぎの最中にテレビ収録に行ったカレンの出来はナチュラルハイな状態で撮られていたため、1人だけ浮いているという散々な出来だったにもかかわらず「飾らないとこがいい」とか「自然な受け答えで好感が持てる」などの感想が寄せられ、それまでどちらかというと男性よりだった人気が、女性と五分五分になったと事務所では喜んでいるらしい――。



 その帰り道。

 俺と伊織はウチに向け最寄り駅から歩いていた。


「お義兄にいちゃん、公園に寄って行かない?」


 義妹いもうとからそんな言葉をかけられる。


「え?」

「話しておきたいことがあるんだ」

「お、おお、良いぞ」



 俺にとってここ最近はいい思い出が無い場所だが、嫌な予感がしないでもないけど義妹から話があると言われれば断ることはお兄ちゃんとしてできるはずもないのだ。

 少し前にもこれに似た事があったけど、まさか同じ展開にはならないだろうし。ある程度大きくなってきた今は少し手狭に感じる公園内の中には、申し訳程度に置かれた遊具とベンチがある。その遊具の中のブランコに伊織と二人で並んで腰を下ろした。


「懐かしいなこのブランコ」

「そうだね……」


 それから少し沈黙が訪れる。


「私……。私もね、視えてるんだ……が」


 伊織の声が少し震えていた。

 れは俺がここ最近悩んでいたことの一つ。どうしても言い出せず、本人に聞く事をためらっていた事。それが今その本人の口から放たれた。

 兄として自分から言い出せなかったことが悔しくて、情けなくて俺は黙って下を向いてる事しかできなかった。


 もうすぐ梅雨に入りそうな感じのする温かく湿った感じの風が二人の間を吹き抜けていく。


「……知ってたよ」

「え?」

「いや違うな。最近……ホントに最近だけど気づいたんだ。そうじゃないかなぁって」

「そ、そっか……」

「うん……。 ずっと聞けないまま……言い出せないまま今までいたんだよ、本当なら俺から切り出してやりたかったんだけど、情けない兄ちゃんだろ?」

「そ、そんなことないよ!!」


 それからまた黙り込んだ。


「お義兄ちゃんごめんね」

「ん? なんだよ急に」

「本当はもっと前に言おうと思ってたんだけど」

「そんな事を気にしてたのか? 逆に俺の方がごめんなさいだよ。気付いてやれなかったんだからな」

 伊織の顔を見ると目に涙がうっすらと溜まっているのが見えた。


「もうウチに帰ろう伊織」

「うん!!」

 伊織は顔を軽く拭うと笑顔を作って立ち上がった。


「お義兄ちゃんは私が守るからね」

「う~ん、できれば俺が伊織を守るって形がいいんだけどなぁ」

「え!? そ、それは嬉しんだけどな……」

 途端に伊織が下を向いた。俺は伊織の頭をポンポンなでなでしてやった。


 そうして二人でゆっくりと歩きながら家路についた。そう幼かったあの頃と同じように。


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