仲がいい二人が部活があるって出ていった後の喫茶店内にて、新たな行動計画を立てることになった。
「今回の元凶は間違いなく
大きく一つため息をつくカレン。
「ああ、あのおじさんが言ってた事が気になって調べたんだ。間違いはないと思う」
コーヒーをクチに運びながら話す。
「じゃなまたみんなであの湖に行かなきゃね」
「そうねぇ、しかも縁結びの神社なら一度は行っておかなきゃでしょう」
と理央アンド響子姉妹。
「絶対に
むんっ!! と両手を握りしめ気合が入る伊織。
「え~っと、この五人で行くって事で決定……なのかな?」
「あたりまえでしょ! ここまで参加したのにそこに行かないでどうすんのよ!」
カレンがなぜかやる気満々である。
「それにこの件はもともとが私が持ち掛けた話でもあるし、私は最後まで付き合うわよ」
そのカレンに響子も続く。
理央も伊織も「もちろん!」って顔してる。
「わかった。みんなありがとう」
立ち上がって、ペコっと頭をさげた。
頭を上げたのと同時ぐらいにカレンが手帳を出して何かを確認し始めた。
「そうと決まれば早い方がいいよね。じゃぁ明日決行よ!!」
その一言に俺はあきれたのだが、不思議と否定の声が上がることなくそのまな確定した。集合場所や時間。移動手段や費用の話までが次々と決められていく。
もちろん俺はただそれを横目に聞きながらコーヒーをすするだけだった。
「じゃ、これで決まりでいいよね、シンジ君」
「ぶふぅ!!」
いきなり話を振られた俺はコーヒーをちょっと噴き出した。それを伊織が黙って布巾でふきふきしてくれた。ありがとう伊織、さすが我が
そしてみんなの視線が俺に集まる。
「な、なんで俺に聞くの?」
「何言ってんの? シンジ君がリーダーでしょ?」
うんうんとみんながうなずいている。
――そんなの聞いてねぇぇぇぞぉぉぉぉぉ!!
なんて思っていても俺のことなどお構いなしにいろいろな事が決まっていくのであった。
この日の朝はすごく早く目が覚めた。
集合時間は午前十時にカレンや市川姉妹の通う学校の最寄り駅だ。
時計を見るとまだ午前六時。
水を飲もうと部屋を出てキッチンへと向かう。いつもの日曜日なら、まずこんな時間に起きることは無いので少し変な感覚だ。大体がお昼ぐらいに伊織に起こされるから。その伊織もまだ寝ているはずだ。
キッチンに着くとわずかに居間の方で物音がしたような感じがした。
静かに居間へと向かう。
「父さん……?」
「ん? おお、真司か。おはよう早いな」
なかなか帰ってこない父に久しぶりに会った気がする。まぁ、最近はめったに帰ってこなくなった
「おはよう父さん。早いね」
「いや、早く起きたんじゃなくて、帰って来たばかりなんだ」
「へぇ~。忙しそうだね」
「俺たちが忙しいのはありがたい話じゃないんだけどな」
などと軽口を交わしながらキッチンに戻って冷蔵庫を開け、ペットボトルのお茶と缶コーヒーを手に取って居間へと戻る。
「どっちがいい?」
「ん、ああ悪いな。じゃぁお茶をもらうか」
お茶をハイっと手渡して、俺はコーヒーのプルトップを開ける。
「最近はどうだ真司。
俺は少し戸惑った。父さんは俺がそういうチカラがあることは知ってはいるが、自分からはその話題を振ってくることはめったにないからだ。
「ん、あぁ、まあぁ視えなくなる事なんてないよ……。そうだ! 父さん少し調べて欲しいことがあるんだけどいいかな?」
「お前がそういう時は
「う~ん、もしかしたらそうなるかもしれないんだ」
「はぁ~~」
父さんは大きなため息をついた。
「いいぞ、言ってみろ」
「うん、それじゃぁ――」
父さんと話が終わって、珍しく俺が朝メシの用意をしようとキッチンに立つと、伊織が起きてきて大きな目をして俺を見た。
「び、びっくりだよ!! お
「俺はビックリしたのにびっくりしたよ!!」
あっ!! っという感じで両手をクチの前に持ってきてペロッと舌を出す伊織。 伊織はそのまま顔を洗いに行ったみたいだ。
ちなみに父さんは「寝る!!」と言って部屋に行ってしまった。あの人は寝つきが昔から早かったので、もう寝てるかもしれない。
伊織が顔を洗い着替えてきたところで、今度は俺が着替えに部屋に戻った。数分で戻ってきた時には伊織がお湯を沸かしてくれていた。
「「いただきます」」
自分で作った朝メシを伊織と一緒に食べるのは久しぶりだ。いつもならそんなに話しながら食べたりはしないけど、今日はこれから一緒に出掛けることになっているので、その事について二人で話した。
「お
「どうって? 」
「この前会った秋田真由美さんの言ってることと、今日行くことを比べてって事」
「そうだなぁ……今日は真由美さんにも関係することが分かってくると思う。そしたら真由美さんの
「あの真由美さんにも狙いがあるの?」
「たぶんね。だから俺のような
「む~~」
なぜか伊織のホホがぷくっとふくらんでいる。
「どした?」
「お義兄ちゃんってすごいね」
「え!? ど、どこがだよ」
「いろいろとだよ」
そう言って伊織はまた下を向いて、ご飯を食べることに戻った。
いまいち伊織の行った事が理解できずにいたが、そのまま俺も朝メシを食べることに戻ることにした。
数時間後――。
「え~っとだな……」
集まったメンバーを見回しながら俺は固まっていた。なぜならそこにはいつものメンバー以外の人がいたからなのだが、なんというかその……華やかなのだ。
――というか、いつの間にか人多くねぇぇぇぇぇ!?
いつものメンバー五人に、三和・遠野・妻野までいるし。さらになぜか正晴までいる。一番危ないって分かってんのかなコイツと心の中で独り言ちる。
「何で、こんなに多いの?」
俺は率直な疑問を五人の方に向けた。
「ええと、玲子にあの後連絡したら、遠野さんと妻野さんもその神社に興味あるっていうから、じゃぁ一緒にどう? って話になって、こんな感じかな?」
相変わらずのんびり屋さんっぷりの響子が俺の方にウインクする。
「はぁぁぁ~」
先が思いやられてため息が出た。
「じゃぁ、そろそろ時間だから行くけどいいかな?」
「「「はぁ~い」」」
「「「いいよぉ」」」
「よっしゃ!!」
なんだろう。なにか複雑な気分だなこれ。
バス停に向けて歩き出した女子組の後を男子2人が付いていく。
「なぁ~、真司」
「なんだよ?」
「どの
「はぁぁぁ!?」
「とぼけんなって! いるんだろ?」
「い、いやいねぇし!! そもそもいたらそんな湖なんか怖くて行けないからな!! つうか、お前が一番気をつけなきゃなんねぇんだからな!! 普通来ないぞ!! お前バカなの!!」
息を切らせながら正晴に否定する。
「わかった!! わかったから!! で、どの
――ぜんぜん分かってねぇなぁコイツゥゥゥゥ!!
今日の行き先にとてつもなく不安がよぎっていく。
バスの中ではもう完全に遠足状態だった。
きゃいきゃいと女子組がはしゃぎながら最後尾を独占している。
俺はもう何かを言うのをやめた。だってこんな黄色い声とぶところに何か言うなんて自殺行為はできないから。
しかし。
「いや~俺なんて玲子とさぁ~」
「アア、ソウデスカァ……」
――おかしい。通路を挟んで並んでるはずなのに三和と正晴のノロケを聞かされてるのは何故だろう? これは湖の事よりも地獄のような気がしてきたぞ……。
「そろそろ着きますね」
げんなりしていたところに救いの神が手を差し伸べてくれた。しかもすぐ隣にいたのです。伊織だ。
その言葉でそれまではしゃいでた女子組が静かになる。
「な、なんか、ちょっと苦しいな……」
同時に正晴に天誅!! じゃなかった異変が出てきた。
前回この湖に来た時に降りたバス停とはちょおうど反対側にある神社。
バス停で降りると正晴は更に調子がおかしくなっていた。三和がそれをかいがいしく介抱する。
秋田真由美と遭遇したあの浜よりもここは空気が重く、そして黒い。そして気持ちが暗くなる。
そこから神社までは歩いても数分の距離なのに、足取りが重く登山をしてるようだ。
「藤堂クンなんだか私も……」
「ちょ!! 三和さん大丈夫?」
ただ違うのは三和には暗いモヤのようなものが体に覆いかぶさるようにまとわりつき始めていた事。
「ちょっと!! 二人とも大丈夫!?」
「シンジ君、一度どこかで二人を休まないと!」
「そ、そうだね。じゃぁあそこに!」
二人をみんなで支えながら神社近くのお土産屋さんまで急いで移動した。
「玲子……すまん、お、俺と別れてくれ……」
「と、突然何を言い出すのよ!」
「こ、このままだと、お、俺は君を……」
「え!? なに?」
「君を……くっ! 言いたくない!! 」
明らかに正晴はここにいる
まずはその元凶を突き止めなければならない。
「どこいくの?」
「すまん。二人を見ててくれ!!」
直ぐに駆け出して、その元になっているであろう場所へと急ぐ。
少し後ろから同じように駆けながら追いかけてくる足音。
振り向くとそこに伊織の姿がある。
「伊織戻れ!!」
「ヤです!! お
最後は走ってるから聞き取れないけど、ウチの義妹が真顔で言ってきたら、お兄ちゃん的には断れませんよね。
神社を過ぎて、階段を降り少しだけある浜辺へと近づくにつれ、それまでの
「あんたらが元凶か?」
そこには一人うずくまる男とその男を鋭い目で見降ろす女の霊がいた。
男はこちらの問いかけには反応することなく、ただひたすら下を向いてブツブツ、ブツブツと言っているだけ。
女は顔はすごく悲しそうなのに目は赤黒くランランとしていた。
『なんの話?』
「なんのって……」
――この感じ。話してるだけで気持ちが沈むような冷めた感覚はヤバい
『邪魔しないでくれるかしら。私はオトコの人が必要なのよ』
「なぜだ!! なぜそこまでしてオトコだけを連れていく!!」
『この人よ。この人が私を見てくれない!! だから私だけを見てくれるオトコだけがいいの!!』
かなり興奮してきている。このままでは離れたところにいるとはいえ、あの二人にも少なからず影響してくるだろう。正晴があの時の状態を考えたら、これ以上になったら行動が予測できなくなる。
何しろここ最近の六人の男性はみんな亡くなっているのだ。
「まずは落ち着いてくれ」
『あの女といい、あなた達といい、私を邪魔するつもりなら……』
ヤバい何か来る。とっさに伊織をかばうように背を向ける。
『ここから消えなさい!!』
ブウォンッ!!
相手は何も動作をしていないのに凄い衝撃が襲う。
「うおあぁ!!」
「きゃぁ!!」
勿論あっさりと吹き飛ばされた。
「大丈夫か? 伊織」
「うぅ、だ、大丈夫。お義兄ちゃんは?」
「俺は平気だ。俺よりも伊織の方が大事だし。今日はお兄ちゃんっぽいだろ?」
「う、うん……」
――義妹よ、なぜ赤くなる?
「シンジク~ン!!」
「カレン!! みんな!!」
お土産屋さんにいたはずのカレン、響子、理央がすぐそばまで走りながら近づいて来ていた。
「どうして!! あの二人は!!」
「大丈夫!! バドミントン部の二人が付いててくれるから」
「それにお二人では何かあった場合どうしようもないでしょ?」
と響子。
「それに私達はカレシはいないしね」
理央が微笑みながら言う。
「ありがとうみんな!!」
「これからでしょ!?」
カレンに背中を「バチーン!」とたたかれた。それと同時に沈みかけていた感情がみるみる復活してきた。
ブブブブッ、ブブブブッ
正面を向き直った俺のズボンのポケットでケータイが震えだす。
誰だ! こんな時に!! 軽く舌打ちした。
画面の表示は[藤堂慎吾]。父親からだった。
「父さんからだ。はい、もしもし」
「ああ、真司。例の
この電話がこの件を解決するカギを握っていたのだ。