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第21話 元凶


「あ~!!」


 湖からの帰り道。

 理央のから離れたの影響を考えて少し時間を休ませてから来た道を歩いている。その中で俺の前を歩いていたカレンの突然の咆哮である。もちろん皆がビクッとした。林にいた鳥もバサバサと飛び立つ。

「な、なんだよカレン!! ビックリするだろ!!」

「思いだした!!」

「何を?」

 皆の視線がカレンに集中する。


「あの人が言っていた秋田真由美って名前ね、どこかで聞いた事があるなぁって思ってたんだけど」

「だけど?」

「話のなが~~~いおばあぁちゃん家で聞いたよ!!」

「「「えええぇ!!」」」

「な、なんで言わないんだよ!!」

「だって、今思い出したんだし、それに話が長くて今まで忘れてたんだものん」

――やっぱりカレンはポンコツお嬢だと思う。ステージの上のカレンとは別人だ。


 浜辺で話した幽霊である秋田真由美は、今まで会ってきたの中でも、表現が合ってるかはわからないけどだった。

 だから素直に話を聞いたのだが、彼女はただ静かにいたいだけなのだと言っていた。自分はここから離れてはいけないのだと。

 そしてここ最近の湖周辺での事故や事件にはかかわっていない。別のがしているのだとも言っていた。

 ならば俺たちはまた別の方向からこの件を考えなくてはならないだろう。

「『今までしたことはあの子たちには申し訳ないと思ってるわ。もうあの子たちには影響しないし、これかも他の方々にはしないわ。約束する』」

 真由美はそう言ってくれたのだ。俺はそれを信じたいと思う。


「これからどうするの?」

 てくてく歩きながらカレンが問いかける。

「うん、あの人の言う事を信じるならまずはこの件を調べ直さなきゃいけないと思う」

「そうね。中に入られてた私が言う事じゃないかもだけど、あの人、嘘は言ってなかった感じがしたわ」

 身体を使われていた理央が少しダルそうな体を振り向かせて共感してくれた。

「それに、気になることも言ってたし」

「そうなの?」

 響子は少し頭を傾けた感じで聞いてきた。

「うん。ただそれももう一度聞いてみないとわからないんだけどね」

 湖に向かう前の村に到着し、理央の体調を考慮して少し休む。10分ほどしてから荷物を背負いなおして歩き出した。帰りの道は少し時間をかけてゆっくりと進む。

 それから間もなくして合宿所だった体育館へと到着した。


「あ、あの!! 皆さん!!」

 体育館に到着し、近くの街まで来ているはずのカレンのマネージャーに迎え等の連絡を入れる。

 迎えが来るまでの間に各自の荷物の整理や、聞いた話を確認しようとしていた時、それまでの帰り道でも静かだった伊織が声を大きくして話を切り出した。

 自然とみんなの視線が伊織に集まる。

「帰り道で考えてたんですが、遠野さん妻野さんと、三和さんでは最初から影響を受けたが違うのではないでしょうか?」

 女子組の三人には「???」と頭に浮かんでるみたいだ。


「伊織ちゃん、それどういう事?」

 最も頭に「???」」を浮かべている顔をしたカレンが聞く。

「はい。三和さんの話によると、初めは五人でその場に行ったうちの二人が幽霊らしきものに影響を受け始めます。これが秋田真由美さんの影響だというのは間違いないでしょう」

「それで?」

「それから影響を受け始めたのは受け始めたのが当の三和さん。時間差が出てますよね。これがその秋田真由美さんではなにが絡んでいるのだとすると、この時間差に何かが隠されてる気がするんです」

 なるほどぉって感じで女子組3人がうなずいている。それは俺も同じだった。俺は漠然とした考えで違いがあるとは考えていたが伊織はそれ以上に考えがまとまっていた。

「そうなると、また三和さんに聞いてみるしかないわね」

「そうねぇ、私の方から連絡しといてみるわね」

 何かやたらと話が進んでいく。。それにこのメンバーで動くことが当たり前のように。


 それから十分程度待っているとカレンのマネージャーさんの運転するワゴン車が到着した。

 ここに来るまでのバスでのはしゃぎようが無かったことみたいに、車の中は誰一人会話することは無かった。

 今日の出来事でみんな疲れてしまっているのは見ていて分かった。


 自宅近くの駅に到着した時には俺も疲れ果てていた。

 何より気を遣うのだ。自分の周りには女の子しかいなかったのだから。これが伊織と二人とか家族と一緒とかなら全然違うんだけど。

 家に向かい伊織と共に歩いて行く。あれから伊織は帰りの車の中でも話をすることは無かった。


「伊織、少しいいか?」

「ふえぇ? なな、何かな?」

 突然声をかけた俺にビクッと身体を震わせる伊織。

「今日の事なんだけど、その、ありがとうな」

「え? どうして?」

「ほら、俺って人と話すのとか慣れてないからさ、どうやって話をしたらいいか悩んでたんだけど、伊織が代わって言ってくれたから」

「そ、そんなの全然大丈夫だよ」


 けっこう駅から歩いてきた。そこの角を曲がると公園があって、その先数分のところにウチがある。

 歩きながら再び今日の出来事を思い出し、次に何をすればいいか考えていた。


「お義兄にいにいちゃん……少し時間良いかな?」


 もうすぐ公園に差し掛かるという時に、隣を歩いていた伊織が立ち止まって俺を見上げながら言う。そんな義妹の声が少し震えていた。


「お? おお、じゃぁそこの公園で少し話そうか」

「うん……」

 二人そろって公園の中に入り、数少ないベンチへ腰を下ろした。


 座ってしばらくは静かな時間が流れる。

 腰を下ろしてからも伊織がしたを向いたままなのだ。

 一つため息をついて、バッグから水のペットボトルを2本取り出して1本を伊織に渡す。「ありがとう」って受け取ってくれた。


「伊織、話があるんだろ?」

「あ、うん……そうなんだけど、ちょっと聞きづらいというか……」

「何だ? 別にお兄ちゃんは伊織に隠してる事なんてないぞ? あ……あれか? あれの事か?」

「あ、あれって何? そっちも気になるんだけど!!」

「え? あ、いや、知らないなら別に、うん」

 何かかみ合わない会話が続く。


 急に正面を向いた伊織が胸の前で祈る様なポーズを作る。


「お、お義兄ちゃんあのね!!」

「お、おお。なに?」

「お義兄ちゃんってカレンさんの事が好きなの? もしかして、つ、付き合ってるとか……?」


――義妹いもうとからとんでも発言きたぁぁぁぁ!!


「ぶふぅっ!!」

 飲もうとしていた水を思いっきり吐き出した。

「ゲホゲホッ!! ガホッ!!」

「だ、大丈夫お義兄ちゃん!!」

「だ、大丈夫……。つーか、なんてこと聞くんだよ」

「だって……仲いいんだもん。カレンさんとお義兄ちゃん」

 もじもじとしだした伊織。こういうところは女子だなぁて思える。

「ああっと、カレンとは何でもない!! カノジョとかでもないぞ? まぁしいて言うなら、ケンカ友達の一人かなぁ……?」

「そ、そう!」

 途端に伊織の表情が明るくなったような気がする。

――なんか鼻歌みたいなのも聞こえるし最近情緒不安定すぎじゃないか?


「友達……か」

「ン? なぁに?」

 無意識にあの女子組三人を友達というくくりで呼んでしまった自分に少し違和感を覚えた。少し前の自分には考えられなかったことだったから。

「いや、何でもない。さぁウチに帰ろう!」

「うん!!」


 差し出した手を伊織はしっかりと握り返してくれた。そうして久しぶりに手を繋いで義妹とウチに帰る。少し子供のころを思い出して泣きそうになった。




 連絡が来たのはそれから二日後の事――。

「お義兄ちゃん、響子さんから連絡が来て三和サンなんだけど、今週の土曜日の午前中なら時間取れるって」

 ケータイを片手に持ったまま伊織が俺の部屋へとやってきた。


「じゃぁ、九時にこの前の喫茶店に待ち合わせって伝えておいてくれ。それとみんなにも連絡頼むな」

「わかったぁ~」といいながら、自分の部屋へと戻っていく伊織。

 その姿を見を見てため息をつく。結局[義妹と公園に行く]というチャンスがありながら、肝心な事を聞く事が出来なかったからだ。まぁ伊織から予想外の質問が飛んで来たってせいもあるんだけど。


――まぁ同じ屋根の下に暮らしてるんだからチャンスはそのうち来るだろう。

 考えながらもう一つの問題を片づける為、俺はパソコンを立ち上げた。


 頭に引っかかる事がいくつかあるからそれを調べるためだ。

 一つは秋田真由美さんが亡くなった経緯。彼女はあそこから動けないと言っていた。と、言う事はアノ周辺で何かに巻き込まれてなくなっているはず。

 二つ目は秋田真由美さん以外に亡くなった方の経緯。彼女はこうも言っていた[私じゃない]。と、言う事は悪さをしているのは最低でも二体はいることになる。

 そして三つ目。十二代目が言いよどんだこと。[カノジョがいないならいいけど—―]という言葉。あれもどうも気になる。

 全てが完全に分からなくてもいい、その欠片だけでもわかればいいと思いながら俺はマウスを走らせていた。



 約束の日。

 待ち合わせ場所に五人がそろっていた。テーブルにその人数は座りきらないため並びのテーブルもい使い、俺と伊織で一テーブル。カレンと響子と理央で1つのテーブルに分かれて[三和]の到着を待っていた。

「すいませ~ん! コーヒーのおかわりくださ~い」

「はぁ~い」

 ちなみにこの喫茶店はコーヒーがおかわり自由というところも学生たちに人気の理由らしい。

「カレン、どうして朝から元気なの?」

 少し眠そうな響子がカレンを見ながら問いかけた。

「え~? 昨日寝てないからかなぁ? 変なテンションになってるだけじゃない?」

「テレビの撮影とか?」

 と理央。

「ううん、PVだよ。夏に新曲出るんだ」

「え? ほんとですか! 絶対買います!!」

 と喜ぶ伊織。

 ありがとぉ~って言うカレンらが、キャッキャと黄色い声で騒いでいると、喫茶店の入り口のドアが開いて三和が姿を現した。

「すいません、少し遅れてしまいました」

 慌てながらペコっと頭を下げる三和の後ろを体格のいい男の子が付いて来ていた。今日はカレシも連れてくるという話だったので、たぶん彼がそうなのだろう。

「あれ? お前もしかして真司か? 藤堂真司」

「え?」


 こんないかにもスポーツしてますっていう体をした知り合いはいないはずだけどなぁって思いながら男の子の顔を見る。


「わかんねぇのか? まぁ昔よりだいぶ伸びちまってるしなぁ。 正晴まさはるだ、久保正晴くぼまさはる覚えてるか?」

「まさはる? 正晴ってあの正晴か!?」

「やっぱり真司だったか。久しぶりだなぁ」

 思わぬところで思わぬ人物と再会した。父さんの仕事の関係で引越しを何度もしていた俺が、小さい時に唯一幼馴染と呼べる存在ができたことがある。それがこの久保正晴だ。結局2年ほどでまた引っ越したため、その後の連絡は取れずにいたんだけど。

「お義兄にいちゃん、知り合いなの?」

「あ、ああ。幼馴染だよ」

「お! うれしいねぇ。俺を幼馴染に思ってくれてるなんてよぉ」

 突然の男同士の友情が復活し、男二人で盛り上がっていたのだが、周りの女子組との温度差が広がっていくのを感じないわけではなかった。


「ところで真司。何でここにいんの?」

「なんでって……」

「お前邪魔じゃね? こんなにかわいい女子の中で」


――えぇぇぇ!! それをお前がいうなぁぁぁぁぁ!!


 正晴の言葉に驚愕して体から負のオーラが出そうになった時、言葉と同時に鉄拳が正晴に飛んでいた。

「ちょっと、正晴!! この藤堂クンが前に言ってた人だよ!!」

――かなり強めに突っ込まれてたけど痛そうだなぁ……。


 しかしこの二人、くっついたり別れたりしているだけあってさすがに仲がいいし。ぎこちなさが無い。

「え? 真司が!?」

 どんな話されたのかは分からないけど、この子も相手が男だとは伝えてなかったみたいだな。

 さりげなく会話するふりをしながら、俺は正晴の様子をうかがう。遠野と妻野のカレシは影響が出ていると言っていたから、目の前の、正晴にも出ていると思ったからだ。しかしそんな気配は感じられなかった。

 それとは別に三和の方は――。

「何だよ真司、それならそうと昔から言ってくれりゃいいのに」

 真顔でそういう正晴に俺は苦笑いで返した。

「言えるわけないだろ……そんな事」


 二人がカレン組の方へ腰を下ろしてようやく始まりの盛り上がりは落ち着いた。

「三和さん体調良くないんですか?」

 俺の隣で静かにホットチョコレートを飲んでいた伊織が[三和]の方を見て話しかけた。

「ええ、その……わかりますか?」

 皆がうなずいた。

「最近少しづつですけどダルさとか出て来ていて、はまだ見えてるし。声まで聞こえるようになってしまって」

「あの二人はどうなの?」

「それが、響子ちゃんからあの湖に行って来たって連絡あった日から、そういうのは全然なくなったって言ってて。私だけいまだに続いてるの」


 響子の問いかけにも疲れている感じに答える。


――少し解決を急いだほうがいいかもしれない。

 俺の心がそう言い始めてる気がする。


「すいません三和さん、聞きたいことがあるんですが、その現象が現れた日は1人でそこに行ったわけじゃないですよね?」

「え? ええ、そうです」

「そしてそれはですよね?」

 三和は大きく目を見開いた。

「ど、どうしてそれを? 誰にも言ってないのに……」

「やはり、そうですか。でも誰かに聞いたりしたわけじゃないんです」


 そして、ソレから自分で考えている事を素直に話すことにした。

「実はよく調べたんですが、ここ最近あの湖で亡くなった人はほとんどが男性なんです。女性は巻き込まれた感じで事故扱いになってるんです。もしかしたら助かった人も中にはいるかもしれない、その人たちは自分から名乗り出ないだろうから、被害者数的にはもっと多いかもしれない」

「それってどういう事なの? シンジ君」

 カレンがこちらのテーブルに身を乗り出して顔を向けてきた。

「うん。それは三和さんと遠野、妻野さんとでは影響されてるが違う。そしてそのが[三和]さんと[正晴]にこれから影響する可能性があるんだ」

「俺がか!?」

 三和の隣で関係ないみたいな顔してコーヒーをクチに運ぼうとしていた[正晴]が驚いてこぼしそうになる。

「だって触ったんだろ? に」

 更に正晴は驚きの色を隠せないでいる。

 そして俺の考えている事が事実なのだとしたら、危険なのは三和ではなく正晴の方なのだ。

「これは、そこに行ってみないと正確には分からないけど、君たちはどこで湖の水面に触れたんだ?」

「あそこの湖には十五年くらい前に縁結びの神社が建てられたんだよ。そこで絵馬を湖水に浸けてから奉納すると永遠なる縁に結ばれるって、インターネットで見たから[玲子]とそこに行って来たんだ」


――やっぱりそうか……。


 今回の怪現象のそもそもの源はそっちなのだと。



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