俺たち藤堂義兄妹とカレン・市川姉妹はバスに揺られていた。総勢5人の遠出である。
俺達5人は〇市〇〇湖に向かっている。俺は一人だけ最後列の一つ前の席に腰を下ろしている。何故一人かというと、最後列で女子四人がきゃいきゃいしてるから。伊織も俺の隣の席にいたんだけど、途中でカレンに連れ去られてしまった。
「なぁ、遠足じゃないんだからさ……」
「何、シンジ君も混ざりたいの?」
――それって、「来ないでね」の裏返しだろ? わかってんだよ。
この人達わかってんのかな? これから出るかもしれないところに行くってのに。まぁ
「一つ聞いていいいかな? みんな楽しんでないか?」
「当たり前じゃない」
カレンにバッカじゃなぁ~い!! て顔された。姉妹はクスクス笑ってるし。
前にいる高校生風の男子がスマホ向けてくる気持ちもわかるけどさ。俺の後ろは絵になるし。
それからバスに揺られる事二十分。
目的地近くのバス停で降りてここからは歩き。行きはバスだけど帰りはカレンのマネージャーさんが迎えに来てくれる事になっている。なんでもカレンはこの後に、某テレビ番組の[心霊・怪奇現象]のロケという仕事が入っているらしい。アイドルの登竜門的番組らしいけど……。
バス停からおよそ十分ほど雑木林の中の道を歩いていると、右手に相談者三人が合宿していた体育館が見えてきた。そして問題の湖までは更に歩いて十分ほどかかるというので、ひとまず体育館前で休憩する事にした。湖に行くときの万が一に備えるためでもある。
「う~ん、楽しかったねぇ」
そんな軽い感じでカレンがみんなに言ってるけど、この旅の本番はこれからなんだけどなぁ。
「お
「うん、ありがとう伊織」
――ウチの
なでなで。
また無意識に伊織の頭をなでてしまった。っと振り向いた伊織が赤い顔してる。
「あ、その、ごめん」
なでなでしていた手を宙に浮かせたまま謝った。
伊織は何も言わないままじぃ~~っと俺を見た後、カレンや市川姉妹のいるところへトコトコと走って行った。
――怒っちゃったのかな?最近の伊織は以前よりも考えてる事がお兄ちゃん良くわかんないなぁ。
そんな心情をひとまず置いておくとして、ゴホンと一つ咳ばらいをし、改めてみんなの方を向いて声をかける。
「みんな行く前に聞いておきたいんだけど」
「なにかしら?」
と響子。
「う~ん、こんな事俺が聞くのも何なんだけど、この中でカレシとかいる人は……」
「「「いませーーーん!!」」」
三人分の声が見事にハモった。
「よ、よし!!みんな準備はいいか!?」
「「「はぁーい」」」
「じゃぁいくぞ!!」
「「「「おーう!!!」」」」
――なんかやたらとみんなノリノリなのが気になるなぁ……。
そこから歩いて行くこと五分程度で、湖の手前の村に到着した。
「みんな悪いけど、手分けして聞けるだけ話聞いて来てくれるかな」
「りょうかぁぁ~い」と、バラバラに散っていく五人。そんなに大きな村ではないため、時間もそんなにかからないだろう……と、思ったんだけどそれから一時間たっても終わったと連絡が来たものはいなかった。
それは何故かというと。
「あ、あのおばぁちゃん、そろそろ湖の話してもらってもいいかなぁ?」
「おおぉ~そうだたのう~。秋田さんの事かのう。お嬢ちゃんそんな事より、このお菓子たべぇ」
「お、おばぁちゃん」
と、言うような感じで何故か女性陣が[お茶のみ友達化]していたからである。
「それでわかったことはある?」
あれから1時間半ほど過ぎて、ようやく集まったみんなから情報を聞いて整理する。
「えと、ここ半年の間に湖での入水自殺が六件ほどあったって言うんだけど、みんな亡くなってるみたいなんだよね」
と浮かない顔をして響子が話す。
「私の方も同じような話だったけど、私は昔から自殺も多いけど事故も多いって話だったわ」
「あたしはごめんなさい、あんまり話は聞いてこれなかったわ」
理央とカレンが理由はどうあれ浮かない顔をしている。
「そうか、伊織は……まだ戻って来てないのか」
あれからもうすぐ二時間たとうとしているが、伊織だけがまだ連絡もなく遅れているようだ。
「シンジ君の方はどうだったの?」
「俺も似たような話しか聞いてこれなかったよ」
と、三人でため息をもらしたとき、俺のケータイがポケットでブルブルとふるえた。画面を見ると[伊織]と出ている。
出ると、村の奥にある家で詳しい話をしてくれる人を見つけたというので、4人でその家に向かう事になった。
村から伸びている道が湖まで一本道という事もあり、村の奥に進むにつれて俺には空気感が変わって来てるように感じた。
家に近づくと、その前に伊織がいて両手をブンブンと振っていた。なんだかウチの
[え~と、どこから話そうかなぁ……」
話を聞くのはこの土地に古くから住んでる一家で、十二代目というおじさんだ。代々この辺で農業をして暮らしているらしい。
「そんなに前からあるんですか?」
「う~ん、事故とかは昔からあったみたいだからなぁ……。俺が知ってるだけでも3件はあるし。ただ……」
「ただ?」
言いよどむおじさんに先を急かすが渋い顔をして少し考えこんだ。
「ここ最近……特に十年間ぐらい前か? あの湖を工事したんだけど、ソレからここ最近は増えてきた気がするなぁ」
「そうですか」
出してもらったお茶を飲みながら、ようやく話す気になってくれたおじさんから昔からある土地にまつわる話などを聞いている。意外と近くに住んでいたのに知らない事が多い。
子供の時から出歩く方でもなかったし、父さんの仕事の都合上、家族旅行なんて行ったこともない。だから自分が住んでる土地も周りでさえ知らないことは多々ある。それに、俺の場合は
「お前さん方も、これからあそこに行くのかい?」
「はい、その予定なんですけど」
「なら気をつけてな。最近また変な話を良く聞くから」
「ありがとうございます」
皆でお礼を述べて、その家を後にしようとした時、そこのおじさんに俺だけ呼び止められた。
「ちょっと君……」
「お、俺ですか?」
おじさんが手招きしているのでそれに応じ近くまで寄っていくと、耳元に向かって小さな声をかけてきた。
「そう、ちょっと……。で、君のカノジョはどの
「ええ! いや、あのち、違いますよ!! 彼女とかいませんし!!」
おじさんが「とぼけるなよぉ」みたいな顔してる。
「そうかぁ、いないならいいんだけど。まぁでも、あの湖に入るなら手前の浅い十五メートル位のとこまでにしときなよ。それ以降は深くなって……あそこは危ないから」
「あ、ありがとうございます」
ペコっと頭を下げて、赤くなったであろう顔を見られないようにその家を後にした。
しばらくすると、先でみんな待ててくれていた。それからまた五人で和やかに湖を目指して歩き始めた。
おじさんの最後の言葉と表情が少し気にはなってはいたんだけど、湖が目の前に近づくにつれて俺はその事を忘れてしまっていた。
湖に近づくにつれて雰囲気は悪くなり、それまでははしゃぐ声も聞こえていた女子組からも、その声は小さくなり聞こえなくなった。
「着いた……みたいだけど、みんな体調悪くなったりしてないか?」
振り返って確認すると、みんな声は出さずにコクンとうなずくだけで返事する。
ここにいる人達はみんな一度は
「それで、ここでどうするの?」
「えと、水に入った後で皆さん変わってしまったと言ってました」
カレンと伊織が荷物を置いて浜を降りていく。
「あ、待って待って」
「やる時はみんな一緒にだよぉ~」
市川姉妹もその後に続く。
俺も急いで荷物を置きみんなのいる場所へと向かった。
「せぇのぉ~三、二、一、はい!!」
ぽちゃっ
ドボンっ
ちゃぷ
いろいろな方法でいろいろな個所を各々が湖に体をつける。
そのまま五分。
「よし、みんな湖からいったん離れてくれ」
「はぁーい」
—―なんかこういう時みんな素直に従ってくれるんだよね。やりやすいからいいんだけど。なんかくすぐったい感じがするなぁ。
「どう? 何か変わったりした人いるかな?」
女の子四人で顔を見合わせている。
俺が見たところ変わった様子は無いみたいだけど油断はできない。
「そういえばさぁ……。私達って誰もカレシいないんじゃなかったっけ? これって検証になるの?」
「いや、その検証も大事だけど、俺はこの場所を見たくなったんだよ」
「へぇ~、どうして?」
こちらに振り返った響子に聞かれる。
カレンの言った事は間違いなくその通り、カレシも彼女もいない俺達では
では何故なのか。
「『私がお呼びしたんですよ』」
その言葉にビックリして振り向くといつの間にか横に立っていた理央。しかし微妙に声質が違う。
周りにいた3人にもその奇妙な感じに気づいたのだろう、カレンと響子はなるべく離れないようにしていてる。
そして
――また伊織に助けられる形になってて、お兄ちゃん少し悲しいぞ。
間違いない。理央から半垂れてる感じは本人の物ではない。理央は何者かに
「『あらあら』」
クスクスと笑う理央。
「『そこのかわいいあなた、大丈夫よ。そこの男の子に
「あ、あなたは……誰ですか?」
その女性は少し考えるようなそぶりを見せてからこちらに向き直った。
「『わたしはまゆみ。
目の前にいる理央の気配は全くしない。完全にこの真由美という女性に飲み込まれているみたいだ。これは完全に俺のミスだ。理央は過去に体の中に人では無い
俺は自然と唇をかむ。
しかしそれにしては妙なのだ。目の前には幽霊がいるのに、なぜかそんなに嫌な気分になったり寒気が襲って来たりと言う事がないのだ。
「『あなた方がここにこうして来たという事は、最近の誰かに預けたメッセージが届いたのねぇ』」
「どういうことですか? 今の言い方だと俺達と話をする意思がある、というか話を聞いて欲しいみたいですけど」
「『そうですねぇ、こうして話を聞いてくれる方がまた来るとは限らないもの。こういう機会はもうないかもしれないから、あなた方に聞いてほしいかな』」
「この場を作るためにあの三人に近づいたんですか?」
「『三人? 変ねぇ……。私が近づいたあの時は
この
「ちょっと、理央は、理央は無事なんでしょうね?」
カレンが真由美に噛みついた。
「『う~ん。こういう事ってしたことないからどれだけの影響が出るのかわからないけど、私の方から危害を加えたりはしないから安心して』」
まだすごく真由美をにらみ続けるカレンに目線で「落ち着け」と促した。
「『それに……そのお嬢さんがいるからあんまりこのままいられそうにはないしね』」
俺はこの言葉を聞き流した。今は
「話を聞きましょう。みんないいよね?」
「いいわ」
「わかった」
「うん」
それぞれが返事を返してくれた。
それにうなずいて返事をする。
「『ありがとう。優しい方々。そもそも私はもとよりあなた方のような人に害をなそうとは思っていないのです。私はこの湖からは離れられそうもないのですが。最近
「え? それじゃ、ここで5人の女の子に変な事してるのは別の……」
「『いえ、それは私です』」
ウフフって感じで微笑む真由美。
—―う~ん何かこの真由美って人は—―元々が響子のようなタイプだったのではないかと思う。
「『だって、私の事を噂とかで広めてくれるなら女の子じゃないとね。私も経験あるし』」
「あぁ~そういう事かぁ」
「なるほどねぇ」
「言ってる事はわかりますね」
女子組が納得してるしてるみたいだけど、俺にはさっぱりわかりません。
「で、話ってなんですか?」
「『そうねぇ、あなた達ならどうにかできるかもしれないわね。うん。実は私以外に人に害をなしてる
先ほどの柔らかい微笑みとは違い、真顔になって問いかけてきた。
「やるわ!!」
「そうねぇ」
「ですね!!」
――えぇぇぇぇぇぇ!!返事すんの早!!
「いいでしょ? シンジ君」
みんなの視線は俺一人に向いていた。この人たちに見つめられると弱いんです俺は。
「うん、いいんじゃない?」
なんて返事しちゃいました。もちろん反省はするけど後悔はしていない。