この場所は人は来る。来るのにあの人の姿は見つけられない。私はアノ人を待っている。
だけど、いくら待ってもあの人は来ない。
だから寂しくなる。
ここには寂しい感情しかない。感情がわくのはその事だけ。側に、誰か側にいて欲しい。
私はそれを願うだけ。
できる事ならあの人にいて欲しい……。
でもそれは叶わない。
わたしはもう存在していないから。
この場所から動けないから。だからこの場所で思い続ける。でも来ないから私は見つける。私と一緒に過ごしてくれるような。
優しい人。
そんな人を私は探し続ける。
この深い寂しい場所で。
――あの時、俺は聞き逃さなかったぞ伊織……。
「はぁぁ~~」
体の奥から為にたまった息を吐くように大きなため息が漏れる。
自分の部屋の椅子に腰を下ろして珍しく机に向かって勉強している俺だけど、まるっきり集中できないでいる。
原因は分かってるんだ。けど、確かめる事に対する勇気が持てないだけ。
あの子は確かに言った。しっかりと俺の前で。
[「ただ私も
無意識に上を見上げてしまっている。慌てて気付いて机に顔を向ける。の繰り返し。伊織に聞くだけなのだから、そんなに考えなくてもいいように感じるけど、今まで一緒に暮らしてきてそんな素振りの見せなかった
「どうすっかなぁ……」
もう何度目かわからないため息がまたもれた。
学校帰りのいつもの帰り道でふと目についた雑誌が気になってコンビニに立ち寄る。雑誌コーナーに置かれた週刊誌の表紙にカレンの写真が載っていたからだ。しかもほぼすべての雑誌にカレンか、もしくはカレン+セカンドストリートメンバーの組み合せで載っている。いよいよ本格的にトップへの道を駆け上がり始めた感じだな。
立ち止まってペラペラとめくっていると、同じ年代と思しき男子がやはり雑誌を見に来て、「カレンだ」「ミホ」だと騒いでいる。
連れの同類だと思われたくない俺はその男子と距離を取ろうとした時。どんっという鈍い音と共にかわいい声が聞こえる
「キャッ!」
周りをよく見ていなかったせいでぶつかってしまった。
「あ、す、すみません」
――こういう時の俺は、たいてい素直に謝るほうがいい。後が怖いからね。
「くすくす、やっぱり気づかないんだ」
「え?」
そこで聞こえると思っていなかった声がして慌てて顔を上げる。そこには、女子高生姿のカレンと響子が立っていて、俺がぶつかったのは響子だったらしい。
「こんにちは、シンジ君」
「あ、響子さん。こんにちは。こんなとろで会うなんて偶然だね」
響子はすこしだけ顔をかしげて困った顔をした。
「うぅ~ん、それが偶然じゃないのよねぇ~」
「? そうなんですか?」
響子はチラチラと隣のカレンの方を向くけど、カレンは全く反応しなかった。
「ここにシンジ君が良く来てるってカレンが言うから待ってたのよ」
そしてその瞬間、俺の頭に嫌な予感が浮かぶ。
「ちょっと相談があるんだけど……いいかな?」
「それって……もしかしてあっちの
「そうなの、よくわ……」
「お断りします!!」
俺は男らしくきっぱりと断った。うん嫌な予感がプンプンするから
「なんでよぉ~!! 話くらいききなさいよぉ~!!」
ようやくこちらを向いたカレンがプンスカしてる感じです。が、俺はスルーします。
「ごめん、俺も少し悩んでる事があってそれどころじゃないんだよ」
「義妹ちゃんの事?」
――え、何故に分かる? お前やっぱりエスパーだな!?
「な、なんで? そう思うの?」
カレンと響子は顔を見合わせて。
「「何となく」」
ハモッた。
どうも俺はこの手の事にはどうしても慣れない。
いつもの良く行くファーストフード店に連れられてきました。そして
「で? 相談って何だよ?」
カレンが響子にどうぞって形の手を作って「ほれっ」って感じに促している。
「ごめんねシンジ君。あんまりこういう話って好きじゃないと思うんだけど、今回の相談者って私の知り合いなの。だから私が持ち込みした形かなぁ?」
本当にすまなそうに響子が真司に頭を下げて謝った。
そうか、今回の件はカレン絡みでは無いのか。と、頭にふと疑問が浮かんだ。
「あれ? でも
「その、そのコ達が悩んでるの見て言っちゃったんだよね……」
「……なんて?」
「
そして俺は頭を抱え込んだ。見えないところ、知らないところでいつの間にか俺に繋がりができてしまってると。
「言っておくけど、俺は話を聞くだけはできるけど、それ以上の事は出来ないよ? それでもいいのかな」
すっごくコクコクうなずく響子さんと、その隣で「ご苦労さまぁ」って顔したカレン。
「はぁぁぁぁぁ~」
ここ最近出ていたため息とは、違う意味でのものが大きく出た。
それから仕方なく、響子にその相談者と連絡を取ってもらい、都合のいい日を聞いて直接話を聞くことになった。
「それで? あんたの悩みって何よ?」
飲み物のお代わりを3人で取りに行き、席に腰を下ろして一息ついた時、フォークでポテトを刺しながらカレンがクチにした。
少しの沈黙が流れる。
「あの日、伊織が
「あることって?」
俺は黙った。この二人に言っていい事なのかの判断に迷ったからだ。
「まぁ、あたしに言えない事なら無理には聞かないけどさ……」
「ごめん……」
「でもねシンジ君。伊織ちゃんの事は伊織ちゃんにしか分からないんだから、やっぱり直接聞いた方がいいと思うの」
こういう時のこの二人の優しさは胸にしみる。
「それに、本気で伝えない事には本気では応えてくれないと思う」
俺はカレンの顔を見た。
「な、なによ!?」
「い、いや、まさかカレンからまともな感じの言葉が出るとは思わなかったからさ」
「な、なんですってぇぇぇぇぇ!!」
響子がカレンを「どうどう」って押さえてくれる。まだ「むきぃぃ!」っとか言ってるけど。
――でも、確かにそうだな。カレンの言う通りかもしれない。それに俺は兄貴だ(義理だけど)。だから聞いていけないことは無い。
「サンキュな」
小さな声でお礼を言った。
「ふん、頑張んなさい」
カレンはそれに笑顔で応えてくれた。
今度の土曜日に決まったとさっき響子からメールが届いた。
俺は手短めに「了解しました」とだけ打って返した。
正直今はそれどころではないから。俺の頭の中はこれから
「ただいまぁ……」
「あ、お
玄関先でちょうどてこてこと歩く伊織と鉢合わせた。
「お、おう、ただいま……」
「もう少ししたらゴハンできるから部屋で着替えて来てよ」
――にこっと笑う義妹はほんとにかわいいんですよねぇ。
でもなんというかいつもと変わらない伊織の感じに少し寂しさも感じる。けっこう俺は考えこんでいたんだけど伊織にとってはそんなに大したものではなかったのかなぁって。トボトボと歩いて着替えるため部屋に向かった。
十分後。
「お
伊織からのゴハンの呼び出しに応えて部屋を出ていく。
「はぁぁ~」
この時もまだため息は止まらなかった。
用意されてるゴハンを見ながら自分の席に着く。
「
「お母さんは急患だって帰ってこれないみたいで、お義父さんは事件で帰れないんだって」
「そうか……」
「何か考え事?」
伊織にそう問われ、自分の本心を言うわけにもいかず、響子に相談を持ち掛けられたことを話した。
う~んとうなりながら伊織が考え込む。
「お義兄ちゃん、その相談私も加わっていいかな?」
俺のハシが止まった。
「な、なんで?」
「ちょっと……考える事あって……かな?」
「そうか、うん……いいんじゃないか」
「良かった。よろしくね、お義兄ちゃん」
――この見た目が可愛い娘のニコってのは殺人級の威力があると兄は思うのです。
数日後
「ごめんね伊織ちゃんまで来てもらって」
「いえ、お義兄ちゃんが心配なだけですから」
カレンと伊織が仲良さそうにきゃーキャー言いながら話している。
俺はというと……中に入って行けないからコーヒー飲んでます。
響子が今日の相談者と来る予定になっていて、少し遅れてくるらしい。今はその隙間の時間だ。
「おまたせぇ。ごめんねぇ」
パタパタと走って席の隣へとやってきた。
「紹介するね。こちらが今回の相談者で友達の
響子の後ろからつきて来ていた女の子がペコっと頭を下げた。
「は、初めまして。私は三和玲子と言います。今日はありがとうございます」
この三和という女の子だけど、外見は肩くらいまでの黒髪ストレート、細身でスラっとしていて制服の上からでも何か運動をやってます感がある。そしてそれはこの子の制服からも分かっていて、彼女の着てる制服はこの付近ではスポーツに力を入れている学校、
「ごめんなさい。私のためにわざわざ」
そう言って、手を握ってブンブン振っている。
握られたまま伊織も目を見開いたまま固まっている。間違いなくビックリしている目だね。
「あ、あの!!」
――あ、やっと自我が戻ったみたいだ。
「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃって」
「い、いえ、そうではなくて。私ではなくて
「え!!」
慌てた三和が周りを見回した。
カレンが親指でこっちこっちと俺を指していた。
「先ほどは失礼しました」
「あ、いやいやお気になさらずに」
俺と伊織の隣にカレンが座り直して、その向かい側に座る形で響子と三和がすわった。
ペコっと頭を下げた三和に何か体育会系的なものを感じる。
「それで、相談というのはですね……」
「あっと! その前に言っておきたいんだけど……」
「なんですか?」
「俺は確かにそういう
一息に言った。さすがに息切れする。しかし、知ってて欲しい事は先に言わないとね。
「え~と、
ゼハゼハ言ってる俺を心配してくれてるこの子は、すごくいい子みたいだ。
クスクスクス
いつものふんわりな感じで笑うのは響子だ。
「大丈夫よ玲子そんなに心配しなくても、シンジ君はちゃんと
—―そっちの心配かぁぁぁぁぁい!!
「あっははははははは」
軽快に笑うカレンに少しムッとする。
「大丈夫よ、こう見えて頼りになるから。それで相談内容って?」
更にフォローもしてくれてるみたいだけど、微妙だし。
「あ、と、そうですネ。それじゃ。えと私は清桜のバドミントン部なんですけど、部活の合宿でこの前の連休に〇市に行ったんですけど、そこに行ってから部員の二人がおかしくなっちゃって」
下を向いて辛そうにする三和。
「で、どうおかしくなったの?」
とカレン。
「その、毎日夜になると変な夢を見るそうで[水の中から声がする]んだそうです」
「それだけなの?」
と響子。
「ううん、最初はそれだけだったんだけど、今はその…学校の中にも、部屋にも出るんだそうです」
「出るって……いうのはその……」
暗い顔した伊織。
「ええ、[女の人の幽霊]だって二人とも……。それから怖くなって二人とも学校に来なくなっちゃって」
俺は頭を抱えて下を向いた。
――これって普通に心霊体験ってやつだよね?
とても自分たちだけじゃどうにもなりそうにないからだ。
「どうなの? シンジ君」
「どうなのって言ってもなぁ……。ちなみにその二人とは会ったり話したりできるのかな?」
「あ、ちょっと確認してみます」
そう言って三和はバッグからケータイを取り出して電話をかけ始めた。
「シンジ君ごめんなさい。難しそうなら断ってくれていいからね」
そう言いながら両手を顔の前で合わせている響子。
確かに難しそうではあるし、俺達だけで解決するのは難しいかもしれない。それに…この[三和]はこんな話を誰も聞いてくれないと思っていただろうし、それに友達を助けてあげたいと願ってる気持ちは本物だろう。
だから……。
「連絡取れました。二人一緒にならって条件でですけど、会ってくれるそうです」
電話を切ってこちらを見た三和が言う。
「わかりました。会ってみましょうお義兄ちゃん」
「え?」
それまでオレンジジュースを時々飲むくらいで、動きも声すらも出さなかった伊織が突然話しかけてきた。なぜか伊織は目をキラキラさせてムンッっと気合が入ってる感じ。
「あ、ああそうだな。俺もそう思ってたんだ」
「ほんとにぃ?」
カレンの目がジト―――って感じになってみてる。
「ああ、ほ・ん・と!! とりあえず何もできないかもしれないけど、その二人に会ってから考えてみいいんじゃないかなって思ってさ」
俺的は少しカッコつけたつもりだったんだけど……。
「さすがシスコン!! 義妹ちゃんの言う事は聞くんだネ」
カレンの無差別
—―お前はまたかぁぁぁぁぁぁ!!
そう思ったのは—―言うまでもない。