『そうですね。もちろんそうだと僕も思うよ。それに、その言葉を聞いた事で[約束の半分]は果たせたしね』
俺はその言葉ですべてが繋がったように感じた。
「そうか……そうだったのか。あの事故の時の写真、そして二人、その時に康介と約束を交わしたのか!!」
千夜は少し驚いたようで、俺の方を見ながら微笑んだ。
『いいや、約束したのはもっと前さ。康介が病気で苦しんでいる時にしたんだよ』
「病気?」
小さい声で理央が聞いた。
『そう、康介は十三歳ころから重い病にかかり始めた。何とか学校にいきたいからって頑張ってたみたいだけどね。そんな中、康介が危篤に陥った夜があった。僕と康介はその時初めて会ったんだよ』
「し、知らなかった……」
力ない声をだした響子。
『だろうね。康介は誰にも言わなかったよ。友達にもね。いや……言えなかったんだ。もうすぐ自分がいなくなるなんて。だから、僕にだけ話してくれたんだ……そして約束した』
「その約束って何だ?」
俺のそばでは伊織も真剣な眼差しを千夜に向けている。
俺も何かあったときの為に話をしながら態勢を整える。
『その約束とはね……』
どこかにいる康介に語り掛けるように千夜は空を見上げながら話を続けた
『まずは、カレンさん』
「な、なによ!」
名前を呼ばれてビクッと身体を震わせたカレン。
『康介はあなたが好きでしたと伝えてほしかったそうです。そしてあなたが望むなら向こう側に連れてきてあげて欲しいと』
「結構です!! あたしは行かない!!」
今にも飛び掛かりそうな勢いで返すカレンを、響子と理央が押さえて「どうどう」って感じでなだめる。
カレンはフーフー言ってるから牛っぽいけどね。
その様子を微笑みながら見ている千夜。
『大丈夫ですよカレンさん。あなたを連れていくのはもう考えてませんから。それに、こちらの話は[望むなら]という事が前提ですからね』
「そ、そうなの?」
「じゃぁ……」
カレン・響子・理央の三人は顔を見合わせながら、「良かった」って笑いあう。
しかし気になることが残る。そもそも何故この千夜が康介とそんな約束をしたのか。そもそもあの写真に写ったときの様子ではその事だけがあったからじゃないはず。
真司は考えたことを問いかける。
「それだけじゃないだろ? 康介に何があったんだ?」
それは、悲しみに顔をゆがめた千夜が語り始めた。
それは康介が伏せているベッドでの話だ。
僕はもうすぐ死んでしまうらしい。
入院している病院で、主治医の
[余命は持って五年です]
あの時そう宣告されてから僕の人生は止まった。
楽しく通っていた学校も、楽しく遊んでいた友達も、楽しかった勉強さえ、今の自分には必要だと思えなくなった。
そんな時、通学の途中で見かけたんだ。小学生の時に好きだった日比野カレンさんを。久しぶりに見かけた彼女は、僕の知る頃とは比べ物にならないくらい輝いて見えた。話しかけてもたぶん今の自分には気づいてもらえないだろう。体も顔もあの頃とは変わりすぎてる。
しかも君はアイドルの卵になってるみたいだし。だからせめて陰から応援することにしたんだ。
そんなある日、体の状態が良くなくて病院へ行ったら、そのまま意識がなくなった。
気がついたら目の前に僕と同じくらいの歳の子がいて、「まだ早いよ」って言ってきた。
次に気がついたら病院の天井が見えた。
生きてる事が嬉しくて泣いちゃった。
その二日後にまた意識がなくなって、またあの子が現れたんだ。だから僕はお願いした。
[僕の残りの命を、誰かに分けてあげて欲しい]って。
その子は笑っていたけど、「じゃぁ何か約束しよう」と言ってきた。僕は想いを一つだけお願いして、ある約束をしたんだ。
僕は次の日目が覚めて、両親がビックリしてた。危篤だったんだって。
体調も驚くほど良くなって、次の週には退院した。それから数日は学校へい行ったり、友達と遊んだり受験勉強したり楽しかった。
でも、その日はやってきた。
突然に。
通学途中のいつもの道で気がついたらまた目の前にあの子がいた。「また戻れるの?」って聞いたら今度は首を横に振って「迎えに来たよ」って。その時に、ああ、約束を果たしに来たんだってわかった。
だから僕は今、こっちにいる。
そこまで言い終えると千夜は顔を伏せた。
いつの間にかすすり泣く声が聞こえてた。カレンも響子も理央も、そして隣の伊織も、顔を伝って落ちる涙を拭こうとはせず。ただ流れ出るままにしていた。
『僕はその約束を果たしに来たんだよ』
涙を流した俺も応えられない。
『康介との約束、それは[1年たって僕が忘れられてたら、僕が生きてた証を証明してきて。そして思い出を残してきて]だったからね』
「だ、だから君は僕らに調べる時間を与えたのか……自分たちで思いだしてほしいから」
こくんとうなずく千夜。
『それに、初めに言ったでしょ? あなた達に危害を加える気はないって。それにはカレンさんも含まれてるんだよ』
「お前、死神なのにいいのか?」
力ない声で俺が訴える。
それに少しはにかむように返ってきた答えは。
『負は正の力には敵わないんだよ。それに生きている者を無理やりにでも亡き者にしてしまったら、理のチカラが働くからね。どちらにしろ自分にはできないんだよ』
だった。初めの方は何の事を言っているのか分からないけど、後の事に関しては何となく理解できる。つまり彼は死神だから死者しか連れていくことが出来ないのだろう。
『これで約束も果たしたし、君たちともお別れだね。楽しかったよ。なるべくならすぐには会いたくないからみんなゆっくりしておいでね』
ニコッとすごい満面の笑顔を残して千夜は少しづつ消えていく。
『そうそう、伊織ちゃん。その君の力すごいね!!』
「「「「え!?」」」」
今度こそ消えていなくなった。
皆の視線が伊織に集中し、伊織は下を向くことしかできなかった。
――その時
『そうそう、伊織ちゃん。その君の力すごいね!!』
「「「「え!?」」」」
――あの[死神]さん最後に爆弾投げていったぁぁぁぁぁ!!
自分に向いているみんなの視線がなんだか痛くて、恥ずかしくて下を向くしかなかった。
「伊織……まさか……」
お義兄ちゃんが何かを言ったように見えたけど、私にははっきりと聞こえなかった。
――え~と、なんて言えばいいんだろ?
一生懸命考えた。死神の千夜が放っていった最後の言葉。そのごまかし方や話すにしてもどう説明したらいいのか。
「伊織……もしかして……」
お義兄ちゃんが何かを言おうとしている。その前に――。
――もうこれは行くしかない!! 今しかないよね!! うん!!
思いっきり腰を折り、すごい勢いで頭を下げる。
「お義兄ちゃん、みなさんごめんなさい!!」
「え!?」
「ん、なに!?」
――あれ? なんかお義兄ちゃんだけ、複雑そうな顔してるけど……。
「あ、あの私……」
「分かってる。伊織。トイレ行きたいいんだろ?」
――え~と、何か今お義兄ちゃんが変な事いったような……。
「な~んだ、伊織ちゃん言ってくれればいいのにぃ~」
「がまんしなくていいんだよ?」
「ち、ちが……」
「そうだぞ、伊織。我慢は良くない」
顔が熱くなる。自分で顔が赤くなっていることもわかってしまうほど。
「ち、違うもん!! ただ、ただ私も
「「「え!?」」」
――あれ? これは……やっちゃったかな?
「うあぁぁぁ~ん、お義兄ちゃんのばかぁぁぁぁぁ!!」
私はその場から逃げ出すことで精一杯だった――。
そんな絶叫と共に、伊織は猛ダッシュして家の方に去っていった。俺はそんな伊織を見送る事しかできなかった。もちろん俺の他にその場へと残された女の子の皆さんの冷たぁぁ~い視線を浴びながら。