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第14話 驚愕(キョウガク)



 その頃、とある場所に康介はいた。

『ようやく、ようやく、君と話せるかもしれないんだね。それは約束を果たすことにもなる。もう少し……待っててね』


 周りには誰もいない。誰にも聞こえない。でも彼はしっかりと胸にその気持ちを抱きしめていた。




 カレンとその事務所の事については、グループメンバーの皆さんの協力のもと何とかなりそうなので、そちらは連絡窓口を伊織にやってもらうことで話がまとまった。俺が女の子と話すことが苦手だと知っている伊織がかって出てくれたのだ。

 伊織の想い「お義兄にいちゃんにこれ以上、知らない女の子と仲良くさせたくない!!」なんていう気持ちがあったなんてことは知る由もない。


 今度は俺が急いでやらなきゃいけない事がある。それは康介をどうやってカレンに会わせるかを考える事。しかしこれがなかなか手ごわい相手だった。


 結局考えに考え抜いた結論は――

「これってさ……」

「なによ?」

 現在の状況はというと、[セカンドストリート]ライブ会場のある屋根付き球場の近くを、赤い眼鏡の地味っ娘カレンと二人で歩いていた。もちろん周りにはサポートメンバーとして伊織や響子理央姉妹、そしてなんとセカンドストリートのメンバーまでもが参加してくれていた。

「俺、バレたらいろんな人に刺されたりするよね?」

「まぁ、そうなるかもね」

 うん、他人事だよねカレンさん。でもこの方法しか思いつかなかったのだから仕方ない。


「で、康介は一緒なんでしょうね?」 

「ああ、それは大丈夫」

 ちゃんと俺の横をフワフワしてるから。とは言えなかった。

「これからどうするの?」

「うん、康介がゆっくり話がしたいらしいから、ちょっとそこの公園にいこうぜ」

「わかった」


 人がいる場所を待るべく避けるように二人で歩いて行く。この季節は緑の匂いが風に混ざってなかなか気持ちがいい。それにこういうい場所って俺みたいなやつが、なかなか一人で来ることはないので新鮮な感じがする。隣にいるのが女の子だし周りも女の子。というか、康介は幽霊だけど生きてる男って俺一人なわけでかなり肩身が狭い。


 人影がまばらになり始めた公園の隅のベンチを見つけて二人で腰を下ろした。

 少しの沈黙が二人の間に訪れる。

 さわやかな風だけが音を立てて流れていく。

「で、話ってにかしら?」

 そう、カレンがクチにした時だった。

『ごめんね、シンジ君。僕、こういう事もできるんだよ』

 俺の体に何かが流れ込んでくる感覚がする。寒くて冷たい感じだ。


――これは……憑依か!?


 康介がシンジの体に入って行く瞬間を、少し離れたところにいた伊織だけが目にしていた。

 あ!っと思って飛び出そうとしたが間に合わなかった。


「『こんにちはカレンさん。僕は康介で』」

「え? なに? 冗談やめてよ」

「『いえいえ、冗談などではなく、シンジ君には悪いのですが、体を借りてるんです』」

「そ、そんなこと……」

「『できるんですよ』」


 カレンは目の前にいるシンジがシンジでなくなっていることを何となく感じ取った。いつもと話し方が違う。いつものシンジならもっとこう……慣れてるながらも緊張してる感じに話してくる。それにこの落ち着いているというか、冷たい感じはいつものシンジとは違っていた。

 この時の俺はというと意識だけは残っていて、自分が今の時点では表に出れないことを悔しく思っていた。


「で、康介はあたしに何か用なの? 確か……随分と会った記憶がないんですけど」

「『ええ、僕の記憶でもお会いした事はありません。でも、知ってはいるんです。見てましたから』」

「それで?」

「『えぇと、僕は約束を果たしに来たんですよ 」

「約束って誰とよ?」


「それはですねぇ……」


 今、俺を操っているのは康介だ。その康介が話をする言葉一つ一つに、俺は何となく嫌な雰囲気を感じて、どうにかしてカレンと話をしようと身体の内側でもがいていた。


「『残念ながら、少し時間が足りないようなので、要点だけ言いますね』」

「え?」

「『僕は、あなたを連れて来るようにと約束を交わしたんです彼と』」

「何よ約束って!? ねぇ、ちょっと!! え? シンジ君!!」

 ヒザから崩れていくシンジを抱きとめた。

 俺は動けなかった。全身が重く自分の体ではないようなそんな感覚。話しかけようとしても唇すらも動こうとはしなかった。


「お義兄ちゃん!! おにいちゃぁ……」

 駆け寄ってきた伊織に「大丈夫」とさえ言えないまま、意識は深いところへ落ちていった。




どのくらいの時間が過ぎたのかわからないが少しずつ意識が戻りつつあった。すごく柔らかい枕に頭を乗せている感じ……。

 目の前にはおいしそうなリンゴの実が二つあって、手を伸ばせば届き……。

「きゃぁぁ!!」

 ドフッ!

「ぐえぇっ!!」

 耳に残る高い声質の絶叫とともに腹部への鈍痛。


「痛ってぇ!」

「あ、お義兄ちゃんごめんなさい!!」

 俺は伊織に殴られたらしい。でもなんで?

 ハッとして目を覚ました先には、赤い顔をして覗き込んでいる伊織の顔が。

 頭の下に感じる柔らかいものは……伊織の太もも。


――と、言いう事は……さっきのリンゴは……。


「あの、お義兄ちゃん……大丈夫?」

「え? あ、ああ大丈夫みたいだな、うん」

 辺りを見回した俺が目にしたものは……うわぁぁって顔した女の子たちだった。特にカレンの視線がかなりコワい。


「あ、ありがとう伊織。重いよなすぐどけるから」

「ま、まだダメだよ!! もう少し休んでないと!!」

 め!! って感じで怒られたけど、なんか懐かしい感じがするよ。


「で、少しは話せる?」

「ああ、大丈夫」

 顔だけを声のした方、カレンの方に向けた。

「さっきのあれ、なんなの? あれが康介?」

「ああ、俺にはアイツはそう名乗ってたけど……」

「そう……」

 考えるような仕草を見せるカレン。


 と、理央がクチを開いた。

「あんまりよく話したことは無かったけど、何か昔の工藤クンとは違う雰囲気だった気がする」

「そうねぇ、成長してるんだから当たり前だけど、何か少し大人な感じかなぁ……」

 とは響子だ。


 それは俺も感じていた。俺と外側で話していた康介は俺たちとそう変わらない感じがしていたのに、俺に入った後の内側から見た康介は、俺たちよりもかなり歳上な感じがしたのだ。

「お義兄ちゃんは、今回が初めてなんだからあんまり無茶しちゃだめだよ?」

「え、あ、おお。わかってる。ごめん 」

 確かに入られたのは初めてだけど、あれは不可抗力であって、絶対俺のせいじゃないんだけどなぁ。


「で、大丈夫なら、そろそろ伊織ちゃんから降りたら? いくらシスコンのシンジくんでも、さっきの行動は許されないと思うけどなぁ」

 ニヤニヤするカレン。

「なんだよ? さっきの行動って」

 見上げた伊織の顔が真っ赤になって腕を胸の前でバッテンしてるし、良く見ると耳まで真っ赤だなぁ。ってことはさっきのリンゴってまさか……。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ、ごめぇぇぇぇぇん!!」

 ガバッと起きました。ものすごく勢いよく。


 女子の皆さんの視線を浴びながらペットボトルの水をゴクゴクと飲んだ。

 そんなに見つめなくても、もうしないのに。と、言うかさっきのシスコン発言は撤回させてほしんだけどなぁ。


 深いため息をついて改めてカレンを見た。

「カレン。アイツは最後君を連れていくって言ってたよね?」

「ええ、言ってたわね。でも、あたしは康介とそんな約束をした覚えなんてないんだけどなぁ」

 ここで、みんなの前で言うべきかを迷う。響子や理央はたぶん俺の力を共感はできていなくても、理解はしてくれているはず。問題は[セカンドストリート]のメンバーだ。彼女達には今回の件には協力者だけど、本来ならば関係のない人たち。そして先ほどの事も話を聞いても半信半疑だと思う。


 それが普通の人との反応の違いなんだ。わかってはいても少し悲しい気持ちになってしまう。


 でももしかしたら、このメンバーにも力を借りないと守り切れないかもしれない。


「セカンドストリートのみんなはこの先の話はたぶん関係ない。もしかしたら危ない目に巻き込むかもしれない。だから今のうちに言うけど、俺に協力できないって人は帰ってもらって構わない」

 いつもの自分らしくない強い心のこもった言葉にみんなが息をのむ。しかし真剣にだからこそ届けられる思いがあると信じる。


 そしてその言葉が発せられてから数分経つが誰もその場を離れてはいなかった。

 心の中で「ありがとう」と繰り返す。


「それでなんなの? らしくないじゃない。あんなのあなたじゃないみたいよ。まさか……またさっきの」

 カレンが茶化すように話し始めてくれた。だから俺もそれに乗っかることにする。

「らしくないって……確かに俺はカッコよくないけどさぁ。あんまりじゃね?」

「あ、今のはあんたらしいわ」

 その会話が元になり、周りに笑い声や会話が出るようになる。先ほどまで寝そべっていたベンチの方から小さな声で「お義兄ちゃんはカッコいいです!」とか聞こえたけど、ちょっっと詳しく説明を求めたいけど……我慢して聞かなかったことにしよう!!


「うん、俺らしくないけど、真面目な話をするよ」

「はい、どうぞ」

 響子が言う。

「まずは聞きましょう」

 理央がいう。

「ありがとうみんな。あの康介の言った連れていきたいところってのはたぶんこの世界にある場所じゃない」

 少し辺りがざわざわしだす。


「じゃぁ、どこよ?」

 カレンが言う。

「うん、アイツが言う場所は……向こうの世界。つまり、死後の世界さ」

 更にざわざわし始めて、「おかしい人」とかいう子までいる。うん、言われると素直に傷つくから顔見ては言わないでね。まぁなぜか言った子の辺りを伊織とカレンがにらんでるからいいか。

「どういう理由は知らないけど、たぶんそういう事だと思う。カレン、アイツの言ってた約束ってなんだ?」

「し、知らないわよ! 約束なんてほんとにした覚え無いんだもの!!」

「そうか……なら少しカレンは気を付けた方がいいな」

 そんな会話をしている時だった。


「あのう――」

「「「え?」」」

 突然、声がかけられてみんなの視線がその方向へ向いた。意外なことに、声をかけてきたのは[セカンドストリート]のメンバーが集まっている中からで、メンバーの[カナ]という小さいかわいらしい女の子だった。

 まぁアイドルなんだからかわいいのは当たり前なんだろうけど。そのカナが語る。

「私、ちょっとそういうが見えたりするので、私でよければカレンさんの側にいて注意できますけど……」

「「え!! ホントに!?」」

 誰かとハモった。

「は、はい。でも、その……藤堂クンよりもぜんぜん弱いので、役に立てるかどうか……」

「いや、近くで注意できる人がいるだけでだいぶ違うと思うから、すごく有難い」

 それからしばらくの間、総勢12人に及ぶ状況の共有と連絡の仕方などを確認して解散することにした。あまり遅くまでメンバーがいないとなると、マネージャーさんに怪しまれるからという理由だ。

 気づけば周りはすでに暗くなりつつあり、時計は午後の六時を少しだけ回っていた。



 帰りは方向が途中まで同じ響子・理央姉妹とともに二人の最寄り駅までともにし、駅に降りたところで二人と別れ、残った俺たち兄妹で今度は自分たちの家のある最寄り駅まで電車で揺られていくことになる。

 俺は今回のことで新たに考えたことがあるし、恐怖に感じたこともある。

 それは[霊に体を乗っ取られた時自分は何もできなかった]そして[闇の中へ埋もれていく恐怖]の二つ。

 そのことを繰り返しずっと考えていた。

「お義兄ちゃん」

「ん?」

「ごめんなさい」

「な、なんだよ急に」

 泣き出しそうな顔をして頭を下げた伊織。

「今日は、守れなかったから……」

「え? いや、大丈夫だよ、ほら無事だったんだし。それに「守れない」とかは、普通お兄ちゃんが言う言葉だぞ。義妹いもうとも守れないなんてお兄ちゃんとしてカッコわりぃだろ?」

「でも……」

「あぁ~うん、でも、そういうときが来ないようにしないといけないな。俺も伊織も」

「うん」


 そうして兄妹を乗せせた電車は夜と夕方の境目を割るように走って行った。





 本当ににほんとぉ~に、後になって聞いた話だけどカナさんほ俺よりも三つ歳上のお姉さんだった。小さいとか、かわいらしいとか思ってごめんなさい。



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