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第13話 作戦会議



 かなりカレンは不機嫌です。まったく話は聞いてくれないし、響子理央姉妹はなぜかキャーキャー言ってるし、伊織に至っては「帰る!!」って歩いて行こうとするし。結構なパニック状態に陥った。


 時間が経つにつれて、落ち着いてきた皆に事情を説明する。

「で?あたしがその康介とデートしなきゃなの?」

「うん、まぁ、そういう事なんだけど」

 返事に困った。

「どうやって? 康介君てあの工藤康介くんでしょ? 一昨年亡くなった」

「うん。そうみたい。私は公立高校だったから近いし時々見かけてはいたんだけど、あまり話したことはないかなぁ」

 と理央が言う。あ、そういえばこの、カレン・響子・理央は幼馴染だから[康介]の事は知ってるんだな。話が早くて助かる。


「どうやってするのよ?」

「え?」

 意外なセリフが返ってきたことに驚いた。今まで会ってきた時のカレンの性格からすれば答えは「NO」だと思っていたから。

「するにしても今の康介って幽霊なんでしょ?」

「そうなんだよなぁ……で、考えたんだけど、あれ使えないかな?」

「「「あれ?」」」


――あれ? この反応はなんだろう?


 三人の思いも寄よらぬ反応に少し焦る。同時に思った。それは、時々当たり前のように俺の前に現れるの事なんだけど、この反応は思ってもいなかったんだ。


「あのね、シンジ君。あれはみんなには言ってないの。それに、意識ある状態で使うと結構体にひびくんだよねぇ」

「む……」

 この点に対しては反省した。確かに俺も人前ではこの体質を好き好んで口外したりは絶対にしない。信じてもらえるか否かの以前に、そんなこと言う人がどういう目で見られるのかを身をもって経験しているから。人は些細なことでも結構簡単に離れていってしまうものだ。実体験があるからすごく良く分かる。

「使えないとすれば……どうするか」

「考えてないんでしょ?」

「はい……」

 ごめんなさいと心の中で謝った。


 みんなから「あれって何?」 とか「二人の秘密?」とか聞かれたカレンがめんどくさそうに説明していた。そもそも俺と知り合ったきっかけから、事件、そして今回の姉妹の件まで、ホントに簡単に分かりやすく。俺ではまとめる事すら難しいことなのに。こういう時は、ポンコツお嬢じゃないんだよなぁって感心する。

 その中で一人だけ話に混ざらない義妹の伊織。顔を見ると何やらムズムズしているような感じがした。


「伊織、大丈夫か?」

「ふぇ? あ、うん。大丈夫だよ?」

「そうか、伊織からするとお姉さんばっかりだから、気を遣うよな」

「そんなことないよ! みんないい人ばかりだし、優しいし。でも……本当の事言えたのがうらやましいなって思っただけだから」

「本当の事?」

「あ、ううん、何でもないから、気にしないで!!」

 手をいつも以上にブンブン振る義妹にそれ以上は聞くことができなかった。


 伊織はこの時、二つの想いが胸にこみ上げていたのだが、本当の事を言えない自分が少しだけ嫌になった。俺はこの時、[血のつながらない]という事だなと思った。


「それと、もう一つ! 重大な問題があるわよ」

 カレンが突然声を上げた。

「な、なんだよ?」

 つかつかと歩いてカレンが近づいてくる。

 顔近!!

「あたし、普通に外歩けないけどいいの?」

「あ!!」

「あ!! って、もしかして忘れてないよね? あたし[セカンドストリートのカレン]なんだけど」


――はい、決めポーズはウザいですよぉカレンさん。でも、そうだすっっっっっかり忘れてたけど、こいつバリバリのアイドルだっけ!!


 うーんとうなって考えてるとカレンが。


「別に、してあげてもいいわよデートくらいなら。問題が解決できるならね」

何て言いつつウインクをしてきた。しかし俺はソレに反応することが出来ずにいた。どうするかをまた考えなきゃいけないという思いが強くてカレンの方を見ていなかったからである。

 その後もみんなでわいわい楽しく話をしたあと、カレンに用事があるというので解散し、伊織と共に自宅へと帰って来た。



 部屋で一人悩んでいた。正確には人間の俺と幽霊の康介とだが。

 問題は今のところ解決の糸口さえ見えていない状態。カレンのアイドル家業の合間にデートするというのは、周りの堀から埋めていけばどうにかなりそうで、最終的にはカレンのオッケーと事務所的なオッケーさえあればなんとかなるだろう。事実、今でも時々事務所に顔出したり、外で会ったりしているが止められたり邪魔されたりということは無い。まぁ、あの事務所は貸しがあるから大事にならない限りは見逃してくれるはず。

 問題は、どうやって幽霊の康介と生身のカレンをデートさせるかなのだが……。


「いい案ないか?」

『う~ん。ごめん、僕、そこまでは考えてなかったんだ』

「だろうと、思ったよ」

 はぁ~っとため息をつく俺の横で「ごめんなさい」って頭をペコペコ下げる康介。まぁ出会った時にカレンにダメもとで会おうとしてる時点で気づいてもよさそうなものだけど。

「そうだ!、康介お前何かできることないのか? 例えば……もの動かしたり、押したりとかさ」

「僕にできるのは……人に憑いて呪ったり、暗い気持ちにさせたり、あと、ヤル気無くさせたりできるよ」

「さいなら! すまんが窓から出てってくれる?」

 ガラっと窓を開けてほれほれ!っという手振りをする。

「ご、ごめん! もう言わないから、ネ!!」


――こっちは真剣に考えてやってるのに!!


 ふと、思った。俺ってこういうモノたちと、今までこんなに普通に会話していた事があっただろうかと。でもすぐに思いつく。そうだカレンがいたなぁって。

 アイツは生霊だったわけだけど、どうもこっちは本物の幽霊さんみたいだし、タイプが違いすぎる。

 そして相手をしている自分も少し楽しいと感じてしまっているのが分かった。


「これが母さんの言ってた人の役に立つってっことにもなってるのかな……」

「何の事?」

 ただ思っただけのはずが、見事にクチから出ていたらしい。慌てて「何でもないよ!」って誤魔化したけど、まだ康介の頭には[?]が出ているのが分かる。

 それにちょっと苦笑いした。


 ここからまた悩む時間が開始されたのだが――


 こんこん

「お義兄ちゃん、いる?」

 伊織が部屋のドアをノックしてきた。

「おお、いるぞぉ」

「ちょっといいかな?」

「ん、いいぞぉ」


 ガチャっと開かれたドアの向こうに、くつろいでる時に良く着ているノースリーブに短パンという恰好をした伊織が立っている。やっぱりウチの義妹はかわいいですなぁなんて考えてたら、伊織の目が元々大きいのに更に見開かれたように見えた。

 しかし慌てて視線を外す。

「どうした? 入っていいぞ?」

「あ、うん。お邪魔しまぁす」

 ちょっと他人行儀なのが気になるけど。

 とことこ歩いて来て唯一あるクッションへちょこんと座る。


「えとね……」

「うん?」

「カレンさんとの件なんだけど、私にできることあれば協力しようと思って」

「ああ、そうか。でも……情けないけどまだ何も考えつかないんだよ」

 ちょっと沈んだ表情をする伊織。

「お義兄ちゃんが、カレンさんとデートするんでしょ?」


 義妹から予想してない発言が出ましたよ。ハイ、お兄ちゃんもビックリです。

「ち、ち、違うぞ伊織!! 俺じゃなくてだな!! その、カレンの友達というか知り合いで」

「え!? 違うの!? ごめんなさい!!」

 伊織目をバッテンにしている。

 少しの沈黙が二人の間に訪れた。

 それから当たり障りのない所だけを説明してあげた。


「じゃぁさ、出来るところからやってみようよ」

「できるところから?」

「うん。カレンさんの事務所に行ってスケジュールとかマネージャーさんから聞いて、あ、偉い方からオッケーもらうのが先かな?」

 伊織が珍しく俺の部屋で俺と二人だけで会話してる。それだけの事なんだけど、何故か心が癒されたんだ。

「じゃぁ、連絡入れといてねお義兄ちゃん」

「わかった」

「私もいくからねぇ」って言いながら部屋を出ていった伊織。なぜか突然やる気になってるんだけど、なんでだろ? まぁ、面接に行ったことのある伊織がいてくれるとかなり助かることは間違いないけど。


『今のが妹さんですか』

「うあぁ、びっくりしたぁ!」

『びっくりしたって……僕、ずっといたんですけど……』

――そうだったねぇ……すっかり忘れてたよ。

『あの方もかわいいですね』

「おま! 義妹に手だしたら容赦しねぇからな!」

『大丈夫ですよ。僕は今はカレンさんにしか興味ありませんから』


 何気ない会話に聞こえたこの時の康介の表情が気になっていたけど、この意味までは特別深くは考えてなかった。


 それから――

 数日経った金曜日。ようやくアポが取れて事務所までやってきた。そして今、俺と伊織は事務所の入ったビルの前に立っている。話が終わった後の……。


「はぁ~~」

 深いため息が自然と出てきた。

「まさか、がっつり怒られるとはなぁ~~」

「断られちゃったねぇ~」


「「はあぁ~~」」

 今度は伊織とため息がハモった。


 カレンの事務所に説明に向かった俺と伊織は、結構温かく迎え入れられてほのぼのとした会話をした後に本題へと切り込んでいった。初めは優しく聞いていたお偉いさんも最後はかなり怒っていた。まぁ、事務所の看板アイドルに、デートさせてくれって言ったらそりゃ怒るよなぁ。

 まだ俺たちは子供なんだと実感する。しかし、さっき偉い人が伊織に「気がかわったのかい?」とか「いつでも準備できてるから」とか言ってて、伊織も「いえ、そのつもりは」とか「今は考えてないです」とか言ってたけど、俺が知らないだけで伊織ってあの面接もしかして受かってたのかな?

 相変わらず、この義妹ちゃんは良くわかんないなぁ……。この後いつものようにファーストフード店でカレン達と合流することになっているので、足取り重く伊織と二人並んでトボトボと歩いていると、後ろからダッシュしてきた女の子に呼び止められた。

「ちょっと、待って!」

――あれ?このコ確かカレンと一緒のグループの……。


「ミホよ!」


――キミもエスパーかな?なんで考えてる事わかるの?


「えと、藤堂くんと伊織ちゃんだったよね?」

「そうだけど?」

「さっきの話、協力できるかもよ」

 やっぱりこの人もアイドルでした。言った後にウインクなんてしてきたもん。


 とりあえず話を聞くために、近くのベンチに腰を下ろした。

「カレンをデートに連れ出したいんでしょ?」

「ええ、まぁ、ちょっと変なニュアンスで聞こえますけど、そんな感じです」

「ライブの前日リハーサルが明後日あるんだけど、午前中で終わる予定だからその後に時間作ってあげるよ」

「それはありがたいけど、でも、どうして?」

「だって、今回も藤堂くんはカレンの為に動いてくれてるんでしょ? なら私たちも協力しようって、さっき話したんだよ。もちろん皆とネ」

 何か知らない間に、知り合いが増えていってる気がするけど、これって良いことなんだよね? 相手がアイドルだけど。


「お義兄ちゃん、もしかしたら……」

「うん、こっちの件は何とかなりそうだ」


 その後ミホさんに「よろしくお願いします」ってお願いと、お礼をのべて、急いで待ち合わせ所に向かう。


 この時の俺は、この作戦を何とか成功させることしか頭になかった。


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