恋をしていた。周りには言えない。何も聞こえない。
だけど恋をしたんだ……相手が誰とは言えないけど。
特技も何もない。持ってるやつが持ってるやつと自慢しあえばいい。毎日毎日、同じ時間を繰り返していく。持たない者はその繰り返しの中で生きている。だから思う。自分がいなくなってもどうせ誰も困らないだろうと。いても何も変わらないなら、いなくても何も変わらない。
誰も泣かない。誰も笑わない。誰も話さない。
人として、せめて人間としてのプライドだけは捨てたくはない。
たとえ何かを失っても。たとえ何かが消えても。たとえ自分が消えても……。
でも叶うのなら、自分が存在した証だけは忘れないで欲しい……。皆になんて贅沢は言わない。ただあの人にだけでもそれが今の願いで唯一の想い。
俺こと藤堂真司はいつものように絡まれていた。絡まれているとはいえ、それは少し危ないお兄さんたちや、学校のいわゆる不良たちという訳ではない。いや、自分からすればもっとたちが悪いと言える。
「今まで言ってきた通り、俺は幽霊は好きじゃないし、慣れてもいない。いや慣れたくない!!」
しっかりと相手の顔を見ながらそう反応しても
『そんなこと言わないでさ、シンジ君。仲良くして 』
なんてかわいく言ってきても無理なものは無理。
――できるくぁぁぁぁぁぁぁ!! あんた男だし!! かわいくないし!!
「はぁ~~」
太くてでっかいため息をつく。
駅前のベンチに座っている俺の横をフワフワしてるモノ。
はい、今回も幽霊さんです!! 名前は……なんだっけ? まぁいいや。ずっと駅を出てから
「あの、憑いてこないでもらえますか?」
『そんなっ! 僕とシンジ君の仲じゃないですか!!』
「いえ!! まったく関係ないですから!!」
ここはビシッと言っておかないとね。うん。
『あぁ~、やっぱりダメなんですねぇ……それじゃ僕、ちょっと悪霊になる準備……』
「だぁぁぁぁ!! わかった! わかりました!! とりあえず話だけは聞きますから!! 」
この一言が後で問題を起こす事の原因になるとは思ってもいなかった。
『実は僕……』
「僕?」
『……』
「っだよ! 早く言ってくれよ!!」
幽霊相手にマジ突っ込みする俺ってどうなの?
『あ、その、すいません。言葉にしようと思うとその……緊張してしまって』
あぁ~、これはあれだ、間違いなく俺と同類の匂いがするな。うん。まいったなぁ……。
「あぁ~、ところでさ。君の名前、聞いてなかったよね?」
『あ、そ、そういえばそうでしたね。すいません』
ペコって頭下げれれたけど、幽霊に頭下げられてもねぇ。でもこのコはまだ自我が残ってるみたいだし、悪いヤツじゃなさそうだけど。
『僕は工藤康介って言います。生きていたらシンジ君と同じ高校一年生です』
「へぇ~同じ歳かぁ。ところで、さ。何で俺の名前知ってるの?」
『あ、それはですね、簡単です。後をつけてたからです!!』
ばばーん!! て音楽が後ろを流れたぞ今。
「俺の?」
『いえ、カレンさんの』
もう嫌な予感しかいないでしょ。ここでカレンの名前登場にはさすがにびっくりですわ。
「な、カレンを知ってるの?」
『えぇ、小学生の時から』
「え? で? なんで俺なの? カレンに恨みとかあるなら、カレンの前に出るよね?」
『いえ!そんな! 恨んでるとかありません!! ましてカレンさんなんて絶対にないです!!』
言い切っちゃたよこの子……。
『実はですね、何とかしてその、カレンさんに僕の存在を知ってもらおうかと思って、いろいろ試したんですが全く効果がなくてですね、やっぱりダメだぁって絶望して、いっそこのまま誰かに
なんか途中サラッとすごいこと言ったような気がするけど、俺は気が利くから聞かなかったことにしよう。
それにカレンはアノ状態の時以外はにぶいからなぁ……。
『それから、したくなかったんですが、シンジ君の後をつけまして、一人になる時を見計らってダメもとで声をかけたんです』
「そう……大変だったね。って言うと思うかぁぁぁぁ!! いいか! 何度も言うけど俺は幽霊が嫌いなの!! わかる!? 」
『え、でも! 見えてますよね? 僕の事』
「視えてるやつがみんな幽霊に慣れてると思うなよ!! 俺は好きじゃないし、慣れたくない!!」
えぇぇぇ~! って顔する康介を見てるとなんかこうモヤモヤする!!
――はぁ~~ホントに厄介なのにつかまっちゃったなぁ。
それから三十分も俺は康介と名乗る男の子と話をして、その時はその場で別れた。ご丁寧に見えなくなるとこまで手を振ってたし。悪いヤツじゃなさそうなんだけどなぁ。
駅から帰る途中でコンビニ寄った。パソコン系統の雑誌や飲み物を買うために来ただけで出るつもりだったけど、カレンが表紙となっている週刊誌もなんか気になったので一緒にレジへと持っていく。
「これも一緒にお願い」
聞きなれた声が後ろからして、細い腕だけがレジの前に出された。持っていたにはオレンジジュース二本で、それだけで持ってきた人物がわかった。
買い物を終え店の前に出ると、そこには見慣れた中学校れたの制服を着た女の子が二人並んで話し込んでいた。
出てきた俺に気付いた少女がこちらを向いて笑いながらあいさつする。
「ありがとうお義兄ちゃん!」
そう我が義妹の伊織である。もう一人は……知らないなぁ。初めてみる子じゃないかな? とはいえ、基本的に家の中でも自分の部屋にこもっている俺にとっては、伊織が連れてくる友達になんてめったな事じゃ
「お義兄ちゃん紹介するね、この娘は
初めて伊織の友達を紹介されたことに驚く。何度かウチまで友達が来ていることがあったが、今までは俺が避けていたこともあり、一度も挨拶などされたことはない。
「やぁ、初めまして義兄のシンジです。義妹がお世話になってるね」
「いえ、あの、初めまして、わ、私は五月といいます。ほんとに、お兄さん……ですか?」
「え、ど、どうして?」
「あ、いえ、なんだか似てないなぁ……て思っただけです。ごめんなさい」
フッと視線を伊織に向けたらフイって顔を背けられた。
――あぁ~、これはこのコも知らないパターンだな。
「いや、本当に兄貴だよ。よろしくね」
「あ、は、はい。こちらこそ」
「あとでねぇ」ってぶんぶん手を振りながら帰る伊織を見送って一人ため息をつく。改めて他人から言われると少しとまどうし、言われるまで気づかないでいるけど、俺たち兄妹はもちろん似てはいない。当たり前といえば当たり前なんだけど。
「でもなんか……人に言われると傷つくなぁ……」
なんて独り言が勝手にクチをつく。あの、伊織の様子だと、たぶん血のつながらない兄妹ってことは知ってるんだな。普段そんな話なんてしないから聞いた事もないけど。伊織は……どう思ってんのかなぁ……。
それから一人でトボトボと家路につくのであった。
ソレから週をまたいだ月曜日のこと。
行きつけの店になりつつあるカレンの事務所の近くのファーストフード店に4人で来ている。
カレンに待ち合わせを打診すると、大体がこの店になるのだが、席もいつも最奥席。
今日、店に来て違ったこと……それはなんとその席が[予約席]としてキープさせていたことだ。アイドルパワー恐るべし。である。
ちなみに今日のメンバーは、俺、隣に義妹の伊織、テーブルの向かい側にカレンと理央が座っている。
[理央]とは、前回の事件でいろいろ大変な目にあった双子姉妹の妹さんの方で、お姉さんの[響子]とは違い事件以来の初顔合わせとなるが、見る限りは元気そうで俺も安心した。
復帰祝いも兼ねているというので、面識ある義妹の伊織にも来てもらい今日はみんなで楽しく騒ぎましょうって事になっていたのが、お姉さんの響子が用事があって少し遅れている。
「どうも、久しぶりだね藤堂クン、伊織さん」
「いえいえこちらこそお久しぶりです」
「お久しぶりです、理央さん」
「かたぁぁぁぁいぃ!! そんな暑苦しい挨拶はいいから!! 友達でしょ? 気楽にやろうようねぇ?」
と、いうあいさつの後にささやかな乾杯――もちろんジュースやコーヒーで――が行われた。
最初はガチガチだった俺たちだったが、時間とともに和やかに打ち解けていった。
「藤堂クンてさ」
「あの、理央さん、その藤堂くんじゃなくてシンジでいいよ」
「え? そう? じゃシンジ君で。私も別にサンとかいらないよ?」
「あ、俺、女の子を名前呼び捨てとかしたことないから」
――えーと何故かカレンと伊織からニラマレテマス! 怖い!!
「あれ? でもカレンの事は?」
「あ~、こいつはいいんです。出会い方が出会い方なんで」
「こいつって言うな!! 失礼ね!! これでも人気あるのよ?」
といった感じで他愛もない話をしつつ時間が過ぎていった。
あまり騒いでると、出禁になって使えなくなっても困るので、まだ姿を見せない理央の姉[響子]に「場所変える」とのメールを送り店を後にした。三人で先行する女の子の後を歩く俺は、これから話さなきゃいけない事をどうやって伝えるか悩んでいた。絵になる様な三人組がいるっていうのにこの時は全然余裕がなかったんだ。
ここもよく使う公園で日差しを避けながら話始める四人。
たたたっ
はぁっ、はぁっ。
「ご、ごめんね、お待たせ」
息せき切って理央の姉、響子が駆け込んできた。
「響子さんお久しぶりです」
礼儀正しく伊織が挨拶をする。
「あぁ~ん。伊織ちゃんお久しぶり!」
がばっと響子に抱きつかれて「ひゃっ」って声をあげる伊織。かわいいすねウチの義妹。
「藤堂くんもお久しぶり」
俺には手をひらひらと振ってくれただけでした。当たり前だけどネ。
ここでようやく今日のメンバーがそろったわけだ。うーん、それにしてもなんというか……。今、ベンチに座っているのは俺だけで、女の子4にんはイチャイチャしてるって表現が合ってる感じで。その……入って行きにくい。俺、基本的に通常コミュ力すら高くないのに、女の子の中に入って話すなんてそんな自殺行為出るわけないっス。なんて思いつつ空をぼぉーっと眺めながら困っていたら、スススッと本当に音もたてずに理央さんが隣に座ってきてくれた。
「どうしたの? シンジ君」
救いの女神だとホントに思ったね。
「あ、ああ盛り上がってるところ悪いんだけど、みんなちょっといいかな?」
「なになに?」
みんなの視線が一斉に集まる。俺は完全に緊張してた。
「その、みんなの飲み物買ってくるよ。何がいいか聞こうと思ってさ」
「ありがとう」とか「気が利くねぇ」とか聞こえてくるけど、俺は内心凹んでいた。
こういう時にスパッと切り込める勇気のない自分に嫌になる時がある。
でも、俺の気持ちが分かってくくれる人が、世界に100人くらいはいるはずだ……たぶん。
自分で言いだしておいてなんだけど、買い出しに一人で行くって結構つらい。
たったった
後ろから走ってくる足音がして、「やっぱり伊織は優しい義妹だなぁ」って思った。
「シンジ君、私も買い出しに付き合うよ」
言って、隣まで来たのは理央だった。これにはビックリと緊張が重なって表現ができない息苦しさがある。
「あははは、そんなに固まんないでよ。普通に、普通でいいよ」
固まってたことが直ぐばれた。
「いや、そんな……でも、普通って?」
「う~ん、そうだなぁ……伊織ちゃんと話してる時のシンジ君みたいな感じ?」
「それは、ちょっと、難しいかな。ごめん、俺ホントになれてないんだ」
しばらく二人で他愛もない会話をしながら近くのコンビニまで歩いて、無難に買い物を済めせ公園へと戻ろうとした時だった。
「何が言いたかったの?」
「え? 何がって?」
「うん、確かにシンジ君は隠せない人だね」
「ああ、うん、まぁそうだね」
それからしばらく理央とその場で話をした。ここ最近であった事。今俺が抱えてる事を隠すことなく。
そしたら返って着た言葉は。
「直接カレンに聞いてみなよ」
だった。しかもすごくいい笑顔で。
だから今度こそ決めた。公園についたらカレンに直接言う!!
――できればだけどね。
公園についてベンチへ行くと、何やらウチの義妹が少し頬をぷくっと膨らませてこちらをじぃぃ~っとみている。俺は頭の中で[?]が出ながらも、買ってきた飲み物と少しのお菓子を出した。
そしてみんながまた話し始めて盛り上がる前にしなければいけない事に行動を移す。
先ほどのコンビニからの帰り道、理央とともに小さな作戦を立てたのだ。
「カレン、少しいいか?」
「にゃによ?」
ペットボトルにクチをつけたまま返事を返すカレン。
――にゃにって……クッ……落ち着け! 俺!!
「デートしないか?」
――あれ? ちょっと違う事言っちゃったかな?
どぐっ!!
「ヤです!!」
俺の腹に見事に入ったカレンのパンチにより、せっかく立てた決心と作戦が見事に砕け散った。
「あら?」
両手を顔にかざして「あちゃー」って顔してる理央。
こっれって、理央さんの作戦失敗ですよね? という言葉は、俺のせき込む声によって出てくることはなかった。