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第6話 できた絆



 いや正確に言うと、『会う』なんて事はもう難しくなったといった方がいいか。


 ニュースを皮切りに報道による相乗効果も相まって、カレンの加入しているグループ[セカンドストリート]は一躍有名になり今ではトップアイドルとしての位置をつかみそうな勢いになっている。


 報道によると、マネージャーの逮捕をきっかけにしてカレンの脱退やソロへの転身なども噂されていたようだが、事務所ならびにカレン本人によって否定され、グループは更に結束を固めたらしい。




 カレンを監禁していたマネージャー都築恭司は、あれから割とすぐに話しすらできなくなったらしく、今は何を聞いても意味の分からないことを言っているらしい。


「精神鑑定に持ち込まれるなぁ」っと父さんがぼやいているのを聞いた。


 都築恭司を蝕んだもモノ、それは[欲]というものだと思う。


 思うって表現したのは、俺自身がそう断定できるほど知っているわけじゃないからだ。強い欲は表裏一体だと思う。いつもその想いにそれ相応の範囲で応えることができているうちはどうってことないが、応えられなくなった時、対処を間違えたら落ちていくのは簡単なのだ。




「お義兄ちゃん? そろそろ起きてこないとホントのにまずいよおぉ?」




 都築はまさにその落ちていく方だったらしく、初めのころはカレン達と共に頑張っていたが、売れ始めた時から[強欲]というモノに憑かれ始めたのだろう。それが暴走した結果が、今回の事件へと繋がった。


 俺はそう思っている。


 それを止められなかった事を悔しいと思う。最後の瞬間、どうにかこちら側に戻らせることができなかったのかと、いつもこういう時に思ってしまうのだ。


 俺にはまだ、年齢も知識も経験も、体格さえもまだまだ足りないのだと、考え込む日々が続いていく。




「お義兄ちゃんってば!!」




 ばた~ん!!




 勢いよく開かれた部屋のドアから制服姿の伊織が駆け込むように入ってきた。


 さすがに俺もビクッとなって我に返る。




「起きてるなら返事くらいしてよ! もう!! 心配するじゃない!!」


 学校に遅れるってだけで心配してはいってきたの?




――あれ? 伊織って心配症だったっけ?




「あ、いや、悪い。少し考え事しててさ……」


「お義兄ちゃん……」


 てこてこって感じで歩いてきて、俺の目の前に立つ伊織。そのまま覗き込んできた顔はやけにいたわる様なそんな感じの表情だった。


 うん、我が義妹いもうとながらかわいいではないか。言えないけど。


「どこか、体調悪いの? なら無理しない方がいいよ?」


 あの日、警察署から帰って来た時、もう日付が変わろうとしてるにも関わらず、伊織はおきていて、俺の姿を確認しケガはないかお腹はすいてないかなど、いろいろと世話を焼いてくれた。


 これにはものすごく反省したのだ。伊織には心配をかけたくなかったから。


「だ、大丈夫さ。心配はいらないよ。ちゃんと制服も着てるだろ? もう部屋を出るところだったんだよ」


 はいこれは嘘です。心配かけたくない優しいウソだと思ってください。




 そしていつものように二人並んで家を出る。途中で俺はコンビニによるから伊織だけが先に着くことになるのだが、これは学校でもあまり目立たない俺の義妹への配慮である。俺とは違って伊織は学校での評判がいい。俺のせいでそれが下がることを防ぎたいなぁっていう、ちょっとしたプライドだ。




 いつものコンビニに着いて伊織を先に行かせ、まず買うものを先に入手してレジまで行かずに店内をブラつく。時間稼ぎをしている。


『助けてくれてありがとう……』


 棚の陰からそんな言葉をかけられたような気がするけど、他にも客はいっぱいいるし、気のせいだと思いながらしばらくの間その店の中にとどまった。











――それから二つの季節が過ぎて。





 通学する背中に冷たい風に桜の香りが交じり始める頃


 俺は第二希望の高校に何とか引っ掛かり無事に進級することができた。


 街中から聞き覚えのある声とともに、軽快なメロディーが流れているが歌っている子が誘拐されていたなんて事自体がなかったかのように、世間では語られることはない。


 最近では毎日のお馴染みの顔になりつつある。




 俺ももうあまり思い出すことはなくなっていた。そもそもカレンは彼女が言う通り死んでいなかったわけでつまりは[生き霊]だったわけで、自分の危機を無意識に飛ばしていただけ。元に戻っ時に[生き霊]だったほうの記憶はほとんどの人は残らない。だから今のカレンは俺を知らないことになる。


 俺だけがあの時のカレンを知っているのだ。




「シンジ、はよ!!」


「ウス」


「はよー」


 今のクラスメイト達にあいさつをされる。今の俺は少し暗いけど平凡なクラスメイトくらいの感じでなじんできている。同じ中学卒の奴もいるけど、別段前の俺のことを持ち出すわけでもなく、ただただ平和で平凡な毎日が過ぎていくだけ。高校生生活はそんな感じでスタートした。




 そんなある日、なんか朝からスカッと起きた。




「あれ? お義兄ちゃんが起こされる前に自分から起きてくるなんて‥‥やりとか雹とか降ってきそう」


 なんて、少しだけ身長が伸びた伊織に朝からからかわれた。家族との関係はそんなに変わらないけど、伊織との義兄妹としての距離は少し縮まったような気がする……よね?




「え~ここはこの公式を当てはめてだな……」


 嫌いだった数学の授業もこの日はなぜか楽しかった。


『シーンージ、ク~ン』


「どうりゃ~」


 突然の絶叫が教室にこだまする。


 先生はもちろんクラスメイト達も一斉に視線の集中砲火を一転に集中する。そう俺だ!!




――だって、だってさ、机から頭だけ出てきたんだもん。そりゃびっくりするでしょ!?




「な、なんだ藤堂!! ど、どうかしたか?」

「な、何でもありません! ちょっとその……そう虫が顔に張り付いたものですから!!」

「そ、そうか、よくわからんが気をけろよ~」


――はい、無理っす。

 その場は、一応笑い声とともに収まったがおさまらないモノがひとつ。



――なにこれ? 怖いんですけど!!




『なんでぇ~会いに来ないのよぉ~~~』




――あれ? この声、この髪色……もしかして……。


 極力机の上にかがみこむように、極力小さな声で。


「お前……カレンか?」

『見ればわかるっしょ? あたし以外になんなのよ?』

「え、それは、生首? かな?」



――間違いなくそれ以外ないでしょ? 俺間違ってないよね?




『生首って……アイドルの私が……マジで言ってんの?』



――やっべまじでこえぇ。



「てか、なんでここにいんの? あれ? 俺のこと何で覚えてんの?」

『ん~なんか、あの後も記憶ってゆうかあの時のこと全部覚えてのよねぇ……だからシンジ君のことも全然普通に覚えてたよ?』


 こっち向いてニコッとするカレンはアイドルスマイルに磨きがかかっていてほんとのかわいかった。ドキッとしちゃったもん……さすがですよもう。


『それに一度シンジ君に憑りついたからか、この状態になるとなんとなくいる場所がわかるんだよねぇ』


 なんて笑うカレンの顔は確かによりも少し大人びているような感じがする。




「あれ? お前本体はどこにいんの? まさか、また誘拐とか?」


 あははははって生首が笑う。


『バカねぇ、いくら何でもあの後でそんなわけないでしょ。ちゃんと安全に学校で授業受けてるわよ』


「え? じゃなでそんなモノになってるわけ?」


『ん~良くわかんないんだけど、あれからなんかなりたいって思うとなれるようになっちゃったみたいなんだよね』




――意味わかんねぇし――こえぇよぉぉぉ! しかも軽くストーカーじゃねぇかぁぁぁぁ!!




心の中で叫んだけどもちろん誰にも聞かれることはなかった。










 時は過ぎ、既に下校時間になったのだが、とある建物の前にて俺は悩んでいた。


 カレンが突然現れて会いに来いと言われたからだが(しかも授業中に)、さてどのようにして中に入って行けばいいのと、カレンの事務所の入るビルの前で。




 ツカツカツカッ


 どーん!!




 俺は派手に転んだ。突然の横からの衝撃に耐えきれなかったのである。




「いってぇ」


「フンっ!!」


 たぶんぶつかってきたのは、この「フンッ!!」って言った人で、偶然ではなく狙ってぶつかってきたみたいだ。だってその人がカレンだったから。




「やっと来たわね、さぁ入るわよ」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ」


「ダメ!!」


「えぇぇぇぇ!!」






 結局俺は引きずられるようにではあるけど、ビルの中には入って行けたのだった。

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