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第一の月

世界の輪郭が徐々に明確になり、空が白み始める頃、

夜を生きるものがねぐらへと帰り、鳥が囀り、花々が少しずつ垂れていた頭を持ち上げる頃、


草原の中心の大きな木の根本、

木を組んで立てた小屋の中、柔らかな獣の毛を敷き詰めた寝床で、


小さな赤子が2人、同時に小さく鼻を鳴らし始めた。


(…あ、起きるな。)

その隣で寝そべっていた少女は、赤子たちの泣き始める前の予兆に気が付き、すぐに目覚めた。



最後の神の声が聞こえて、この赤子達を見つけた日


そこから少女は赤子たちを育てている。


「ほら、あーん。」

手早く牛の乳と、砕いた穀物を柔らかく煮立てて冷ましたものを用意し、2人の赤子に交互に与えた。



変化したこと、驚いたことは色々ある。


そもそも少女は赤子を育てたことはなく、彼女の知る赤子というものは、やつれて疲れ切った母から、出るともわからない乳を飲み、弱々しく動くという、非常に無力な存在であった。


それでもその数少ない知識からしても、人間の赤子というものは生まれ落ちてすぐに力強く這い回ったりなどしなかったはずだが…


今隣にいる赤子たちは、週の半分ほどの日数で這い回り、物を掴む力も強くなっていた。


彼らの瞳には、無邪気な輝きが宿り、少女がかつて知っていた苦しみとは無縁の、純粋な生命力が溢れていた。



他にも大きく変わったことといえば、自身の変化だ。


この世界に来てから自分は腹も空かず、食べてはみたが特に必要を感じず、肌艶はなお整い、眠りはするが、それを必ずしも身体が求めることはなく、疲れもせず動くことが出来るようになっていた。


そして何よりも、知りたいと思ったことが何故か元から知っていたかのように分かるようになっていたのだ。


その変化は、彼女自身が望んだものではなく、いつの間にか自然と訪れていたものだった。


そして、彼女の中にあるその「知識」は、赤子を育てるために必要なことを教えてくれた。


彼らに適した食べ物、体調を確認する方法、そして泣き声が何を意味しているのか。それらを彼女はすぐに知ることが出来たのだ。


この変わりようが、神の意図によるものなのかどうか、少女は考えることがあった。


だが、今のこの状況全てが、あのクソッタレの意図であろうとも、もはや怒りや憎しみに突き動かされる自分はいなかった。


そうして代わりに、目の前の赤子たちを守り育てるということに使命に似た何かを感じつつ、心の動くまま彼らを育てることをしていた。


そんな少女にとって、この変化はむしろ都合が良かったとも言える。



神への復讐を果たそうと誓ったはずの自分が、今はこの無垢な存在を守り育てている。



かつての激情はどこへ行ったのか。



心の中にはまだ残るものの、赤子たちの無垢な笑顔や泣き声に触れるたびに、それが薄らいでいくのを感じていた。


赤子たちがすやすやと眠りにつく中、少女は外に出て、夜空にぽっかりと静かに浮かぶ月と、星空を見上げることが多くなった。


以前は怒りと復讐心に支配されていたその心が、少しずつ解き放たれていくような感覚があった。



(自分はどうすればいいのだろう…)


その問いはまだ答えを見つけていなかったが、少女はこの新たな役割を受け入れつつあった。



そうしてまた朝が来て、世界が動き出す。


鳥たちの囀りや風の音が、彼女の耳に心地よく響いた。


今日も赤子たちは昨日より少し大きくなった体で、まだ少し汗ばむ陽気の中、元気よく青草の上を這い回っている。


少女は、これからの未来がどう展開するのかは分からないが、この場所で、新しい命と共に歩んでいくことを決意した。

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