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第六の日 参

黄昏が頬を染める頃、少女はようやく動き始めた。


神に対する怨念を、確かに拳に込めて天へと飛び上がったはずなのに、今目の前にいる無垢な赤子たちを前に、何故か胸が締め付けられるような感覚があった。


赤子たちは、ただ泣いていた。


彼らはまだ何も知らない、何も理解していない存在だった。


少女はゆっくりと赤子たちに近づき、震える手でその小さな体を抱き上げた。


(小さい…あたたかい。)

温かくて、柔らかい。そして、彼らの無防備な存在が、少女の心をさらに揺さぶった。


「これが…お前の答えなのか?」

少女は静かに呟いた。



神が自分に何を見せたかったのかは、まだ分からなかった。


だが、赤子たちの存在が、自分が過ごしてきた憎しみに満ちた世界とは全く異なる、新しい可能性を示しているかのように思えた。


泣き続ける赤子たちを前に、少女は自分の中に再び芽生えた感情に戸惑っていた。


それは、かつて失った「優しさ」や「慈しみ」といったものだったかもしれない。



「なぁ。私に…何を望んでいるんだ?」

少女は天を仰ぎながら問いかけたが、もう神の声は聞こえなかった。


ただ、夕暮れの風が静かに彼女の頬を撫でていった。


それでも、赤子たちの存在が、少女の心の奥深くに変化を促していた。


かつて自分を苦しめた世界の神、そして今この新たな世界で自分に何かをさせようとしている神。


彼らが同じ存在であるかどうかはもう問題ではなかった。


太陽は地平線に沈み、空は橙から黄金色へ、そして瑠璃色から深い紫と濃紺へと変わり始めていた。


少女はその腕に赤子たちを抱きしめながら、静かに涙を拭った。



「私は…どうすればいい?」

その問いに対する答えは、これから自分で見つけるしかないのだろう。


それでも、この新しい世界での生が、かつての苦しみとは異なる何かを与えてくれることを、少女はどこかで感じ取っていた。


静かに夜が訪れ、星々が空に瞬き始めた。赤子たちの泣き声も次第に小さくなり、眠りにつこうとしていた。


少女は、自身を掴んで離さなかった小さな手をそっと解いてやると、彼らを草の上に寝かせ自分の着ていた服を掛けて、再び天を見上げた。



「これが…新しい始まりなのか?」

その場に座り込み、膝を抱え、夜風に吹かれながら、少女はそう呟き…


神への怒りとは違う形で、きゅっとその手を握りしめた。





夕べがあり、朝があった。




第六の日であった。




世界はあまりにもーーー







あまりにも劇的に、そして静かにその幕を開けた。

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