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第六の日

少女は木の洞の中で膝を抱え、鬱蒼とした森の奥深く、ほんの少しの陽の光が差し込む場所で、自らの内にある醜さを感じていた。


どれだけこの世界の美しさに触れても、胸の底に渦巻く暗い感情は消えることなく、むしろその美しさが、彼女の心の傷を浮き彫りにしていた。


失われた感情を取り戻しつつある自分に気づきながらも、虐げられ、奪われ、蹂躙される中で積もり積もったその醜さがもたらす苦しみは、なおも彼女の心を覆っていた。


そして、ほんの僅かにそのような自分の醜さを厭う気持ちがその覆われた心の周りに芽生えていた。



(あの声がもし、あの神のものなら…。)

私をあんな世界に落として、理不尽を強いた張本人のものなのだとしたら…

彼女はふと、拳を握りしめた。


美しさに満ちたこの世界に、自分の汚れた心が混ざることに嫌悪感を覚えながらも、それ以上に深い怨嗟と怒りが次第に湧き上がってきた。



神がもし、自分をここに送り込んだのだとしたら――(救いのない世界で自分を苦しめたそのクソッタレの神なのだとしたら、同じ苦しみを味わわせてやりたい)と。



その時、またもや声が響いた。



『地は、それぞれの生き物を産み出せ。家畜、這うもの、地の獣をそれぞれに産み出せ』


目の前の世界は再び変わり始めた。


少女の記憶にあるーー吹き溜まりの残飯を奪い合った痩せぎすの野良犬に近縁であることを思わせる、

しかし見違えるほど美しい毛並みと、金とも琥珀ともとれる色合いの双眸が知性と威厳を感じさせる、大きな犬が現れ、そして木立の間へと姿を消していった。


さらには、鳥たちと少女だけが飛んでいた空に、新たに飛び上がり、草木に留まる小さな虫達。


それを狙う蛙と、またそれを狙う鼬鼠の類が草むらに、木陰に姿を現す。


広大な草原には、

大きな牛が群れて草の上へと横たわり、


開けた見晴らしの良い丘に、馬の硬質な蹄音が響き渡った。


世界は、少女の知っているものにどんどん近づいていく。それは同時に、自分が忌み嫌った神の存在を再び感じさせた。



(やはりあのクソッタレの神がここにもいるのか…)

抱き寄せた両腕に無意識に爪を立てる。鈍い痛みがより思考を強める。


あの汚い世界の神と、果たして同一人物なのかは知らないし、知るつもりもない。

連帯責任だ。

理不尽だと?こんな理不尽、あの世界に比べれば可愛いものだ。


拳を強く握り、少女は天高く飛び上がろうとした。その時だった――




『我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう。そして海の魚、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うものすべてを支配させよう』


『産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ』


これまでで最も長く、複雑な言葉が響き渡った。





「支配」――その言葉に少女は凍りついた。


人間が、持つものが持たぬ他者から更に搾取し、強者が弱者を踏みにじり、一興とばかりに貶め、苦しめ続けたのは、この「支配」という言葉のせいではないかと。


出会ったクソの煮凝りのような奴らは全部そうだった。他人を自分の欲の発散に使うための道具としか見ていなかった。

蹂躙して、奪って、支配したのは、アレは全部このたった一言のせいで…たった一言のために自分は…自分は!!!


(やはり…あの世界の有り様は、神のせいだ!)

ぎりり、と奥歯を噛み締める。

少女の瞳には、かつて路地裏で力尽きようとした時とはまた異なる暗い光が宿っていた。


そして、怒りに満ちた表情で、木の洞から駆け出る。


握りしめた拳はそのままに、鳥よりも疾く風を断ち切るようにしながら、天高くへと飛び上がった。


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