空のはるか上。
少女は、雲を足元に僅かに望む高さまでゆっくりと浮かび上がりながら、陽光に照らされて、果てしなく広がる景色を眺めていた。
特に理由はない。他にすることもなく、なんとなく高いところから、
(もっと美しいものを見たい…見下ろしてみたい。)そう思ったのだ。
その時、すぐ近くから声が響いた。
『生き物が水の中に群がれ。鳥は地の上、天の大空の面を飛べ。』
「生き物…生き物だって?」
その言葉に、これまでになく驚愕した。
今までの変化と全く異なること。命を持つものが、この世界に現れるということ。
その言葉に居ても立っても居られなくなった少女は、急ぎ地上へ戻ろうとした。
声の正体が近くにいると感じられていたが、それ以上に「生き物」という言葉が彼女を動揺させたのだ。
そして、雲の少し下まで降りたその時、突然何かが少女の顔にぶつかった。
それは、一対の翼を持ち、白い羽毛に覆われた鳥だった。
丸い目は白目が見えず、僅かに曲線を描く短い嘴が特徴的なその姿は、紛れもなく現実の鳥であった。
(やはり、ここは死後の世界なんかじゃない…
)自身の鼓動や感じている様々な感覚以外で、ここが別の世界なのだと決定づける明確な証拠を突きつけられた気持ち。
文句を言うように高い声で鳴き飛び去っていく鳥を見送りながら、少女は確信したのであった。
薄々感じ取っていたものの、このような形で確証を得るとは思わなかった。
そもそも、こんな場所に自分がいること自体が、すべて思いもよらぬことだが…。
空から見下ろすと、広大な湖のような水面の中に、大きな影がうごめいているのが見えた。
少女は、思考が追いつかなくなりながらも、先ほどぶつけた顔を摩りつつ地上へと急いで戻る。
その途中、またもや少し遠くーー元いた辺りよりも更に天上から声が響いた。
『産めよ、増えよ、海の水に満ちよ。鳥は地の上に増えよ。』
少女は少し驚き、天を振り返りながらも、すぐに地上へと降りて行った。
夕べがあり、朝があった。
第五の日であった。
世界はあまりにも――
あまりにも、生に満ち溢れていた。