雲は青空の上に広がり、時に散り、また集まり、形を変えながら遠い彼方へと流れていく。
眼下には、水が光を反射しながら穏やかに揺れ、波が寄せては返している。
世界は静かに、美しく、その姿を変え続けていた。
その狭間で、少女はようやく思案を始めた。
(なぜこんなところにいるのだろう。)
自分は死んだのではないだろうか…
その疑問は、当然と言えるものであった。
目の前に広がるこの光景は、彼女が聞かされてきたどちらの死後の世界でもなかった。
あの残酷な神のもとでもなく、冷たく深い土の中でもない。ここは一体、どこなのだろう。何が起こっているのだろう。
(あの声は一体何だったんだろう…)
少女は目の前のーーー肥溜めのような人間の腐ったような心に触れ続けた自分にとっては、あまりに純粋で、美しい光景を見つめながら、問いを抱え続けた。
現実感のないこの場所は、どこまでも美しいのに、どこか居心地が悪い。それが、少女の胸の中に不安の種を蒔き続けていた。
(ここで一生を過ごすのか?これからどうなるんだ…)
そもそも、その一生をさっき終えたはずだ…また呪われたような生を、生きないといけないのか…。
少しずつ、その不安が広がっていく。
何か確かなものにすがりたい、そう思いながらも、それを見つけられないまま時間が過ぎていくような気がした。
どこにも答えがないこの静寂が、心をさらにかき乱していく。
(でも…)
ふと、胸の奥にほんのかすかな違和感が芽生えた。
どこかに答えがある気がする。この世界が、自分に何かを伝えようとしている気がしてならない。少女の中で、そんな思いがわずかに膨らんだ。
それは不安と共に湧き上がるものだったが、不思議なことに、同時にほんの少しの希望も感じさせた。
(わからない。ここで終わるのか、それとも…)
誰に問いかけようにも、返答する者は誰もいない。
すうっと息を吸い込む。清涼な空気が肺を満たしていく。そうして細く、長くできる限り息を、ふーっと吐いた。
ただ水の揺らめく音だけが、静かに響く世界で、
ただ光と闇が静かに移ろいゆく世界で、
少女はただ独りであった。